第十四話 全損判定198両
完全に孤立した敵軍への主力を用いた包囲殲滅作戦。
おおよそ古今東西の陸軍が思い描く理想的な戦場。
敵本隊と対峙する正面戦力すら抽出して用意した兵力は、ヒト型決戦兵器とNINJAを含む1個機甲師団。
本来ならば数千程度の魔物ごとき日付が変わるまでに殲滅できる筈だった。
しかし、現実は俺の想定を大きく外れた。
『ミッション 【早期攻略特典】
2045年8月17日23時59分までに魔界第4層を攻略しましょう
現在時刻 2045年8月11日14時13分11秒
残り時間 129:46:49』
「うぅ、お日様が見えてますよぅ。
もう私、ねむたいですっ」
高嶺華 SP 47/48
全身を朱に染めた高嶺嬢が、ダルそうに俺の肩へともたれかかる。
化け物そのものだと思われた彼女でも、流石に一昼夜を通した洞窟内戦闘は辛かったのか。
べっとりとこびりついた生乾きの血泥が、俺の汚れ一つない迷彩服を瞬く間に戦場帰り風へと様変わりさせた。
鼻孔に突き刺さる鉄の臭いと硫黄臭がこれまた強烈!
「………… むむむ」
アルベルティ―ヌ・以下略 SP 11/28
いつもなら高嶺嬢に突っかかってきそうな白影だが、今は沈黙を貫いたまま俺の背中にへばりついているだけだ。
彼女から漂う生き物の燃えた臭いと硫黄臭は、徹夜明けのコンディションで嗅ぐと中々キツイ。
…… というか二人とも硫黄臭が半端ない。
敵軍による形振り構わぬ決死の抵抗—— 徹底した自決攻撃と避退戦術は、彼女達の戦闘力をもってしても敵戦力の殲滅に一昼夜を要した。
しかし、今俺が直面している問題はかかった時間ではない。
35式無人多脚戦車、全損判定198両。
総戦力の2割が失われたことを示すこの数字は、殲滅戦時のみに限って集計されたもの。
洞窟という密閉空間と敵の外道戦術が組み合わさったことにより、実に2個連隊規模の兵力が半日で溶かされたことになる。
全損車両に限っても損害額は概算で1200億円。
小中破した車両の修理費や消耗した物資の補充、各兵器の整備費用などを加えれば、たった一日の戦闘だけで一体どれほど莫大な金額が費やされたのか……
「眠いですよぅ、ぐんまちゃぁんぅ」
高嶺華 SP 47/48
現在、俺の手持ち資金はざっと2兆1000億円。
日毎に日仏から魔石1500個と交換に1000億円の戦費が支給される。
一方、軍備の運用には戦闘のない待機時でも現状の戦力だと1日あたり約50億円の維持費がかかる。
戦闘時だと一会戦あたりおおよそ1600億円が吹き飛び、損害が出れば更に増えてしまう。
つまり今回は1600億の武器弾薬や整備費用に1200億超の兵器を損失、概算3000億円を日仏は一日で溶かしたってわけだ。
魔界第3層では総戦費200億円だったから、戦費の跳ね上がりっぷりがマジヤベェ!
ちなみに人類同盟が末期世界第2層の攻略に要した戦費が2950億円くらいだった気がした。
「トモメェ……」
アルベルティ―ヌ・以下略 SP 11/28
今後のダンジョン戦争はどんどん規模も大きくなるだろうし、戦費も増大する一方だろう。
陸戦主体の今ですらこれだ。
これから航空戦力や海上戦力にまで手を出していけば、一会戦で兆単位の戦費が消えて行くことは十分にあり得る。
この調子で資金を消費し続けてしまえば、さしもの日仏といえど戦争終結まで経済力が持つかどうかわからない。
どれだけ資源を投入した所で、それを金に換えるのは保有する国力に依存してしまう。
両国ともダンジョン戦争で国力を着々と増やしているものの、だからと言って無制限に資源から資金を作り出せるわけじゃない。
日本の
ダンジョン戦争による資源ブーストでそれなりに伸びるだろうが、それでも2倍は超えないはず。
戦費の基準として、財政が破綻しない限界はGDPの3倍程度。
日本単独なら戦前基準でも3000兆円弱なら絞り出せる計算になる。
フランスも考慮すれば戦費の限界は更に1000兆円程度は増えるだろう。
「お風呂行きたいですぅ」
高嶺華 SP 47/48
まあ、実際には戦費を限界まで使える訳がない。
ダンジョン戦争の行く末に人類の存亡がかかっているものの、実際に戦っているのは俺達3人だけ。
国力の全てを投じる総力戦を行うには、国民意識がついていかない。
人類国家の9割が滅びでもしない限り、国力の限界を絞り出すなんて国民が納得しない。
戦後には第四次世界大戦がワンチャンありそうだし、それに備えた軍備を整える必要もある。
諸々を考えればダンジョン戦争に対して日仏連合が理性的に許容できる出費は、精々14、500兆円ほどだろうか。
換金すると半額になるので700兆円強。
莫大な額ではあるものの、それでも無限ではない。
今の調子で戦闘での消耗量を拡大し続けてしまえば、終戦まで持つだろうか……
「トモメェ」
アルベルティ―ヌ・以下略 SP 11/28
高嶺嬢と白影を今以上に活用すれば消耗も抑えられるんだろうけど、代えが利かず、貴種たる彼女達に万が一なんてあってはならない。
そもそも俺達人類側の兵器は基本的に、より遠くに、より正確に、より速く、より強力な火力を叩きこむべく発展してきている。
今回のように相手側が戦場を選べる状況では、近接戦主体の魔界や機械帝国との相性は良くない。
遠距離からなら屈強な魔物を一方的に殲滅できる無人戦車も、一度懐に入られてしまえば小回りの利かない鉄の案山子だ。
このまま洞窟内での戦闘が続く限り、損耗が減ることはない。
俺は悪臭を放ち続ける二人を従者ロボに押し付けた。
「二人は先に休んでいて欲しい」
上野群馬 SP 4/15
返答を待つことなく、俺は戦闘指揮所に向かって歩き始めた。
徹夜明け、本当にきついわー。
そう言えば、嫌な予感がして戦闘を中断したけど、結局何もなかったなぁ……
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