第十一話 忍べないNINJA

 重巡航管制機E-203、世界最大の旅客機であるLJ-203大型旅客機をベースに早期警戒管制機能、無人機管制機能を付与した日本が誇る空中司令部。

 全長80m翼幅88mの巨体を推力509kNのエンジン4発で飛翔させる空の要塞。

 その広大な機内にある作戦司令室、大小様々なモニターが発する光に薄く照らされた室内で、私はトモメから作戦の説明を受ける。



『偵察機によって得られた情報を分析した結果、このダンジョンに存在する山岳地帯全域に巨大な地下要塞が建造されていることが分かっている。

 我々は初戦を奇襲により制することに成功しており、敵要塞の一角を制圧するのも時間の問題だろう』


 最も大きなモニターに表示された戦域図。

 トモメが指示した地図の一角には、既に白いのと1個機甲師団が展開されていて、敵戦力を示す赤いマークを完全に包囲していた。

 

『見ての通り我が軍は敵兵力の包囲に成功したが、これを受け敵は包囲下にある自軍を救出しようとする動きを見せている。

 具体的には大量の戦略物資と緊急展開軍を各陣地から供出させ、一つの区画に集積させつつある。

 予想される敵の救出部隊に対し、現状の我が軍では包囲網を破られる可能性が高い。

 白影、君には敵が部隊を編成し終える前に集積中の敵軍を各個撃破し、敵の計画を阻止して欲しい』


 戦域図には周辺の山岳から大隊規模の部隊がわらわらと湧き出てきて、一ヶ所に集まっていく動画が流れる。

 敵の兵力移動は巧妙に隠蔽されていて、一見普通の部隊間移動のように見えるが、どういう訳かしばらくすると同一地点に集積していた。

 最終的に予想される敵兵力はおおよそ6000体の一個旅団規模。

 これほどの部隊の編成を許せば、悔しいけど撃破するのはかなり大変かもしれない。


 ていうか、トモメはどうやって敵の動きに気づいたんだろう?


『作戦を説明しよう。

 今回は1個爆撃飛行隊36機による対地攻撃によって敵の注意を惹きつける。

 後々の魔石回収の都合上、地中貫通兵器は用いない嫌がらせ程度の攻撃だが、このダンジョン内では初の航空攻撃だ。

 敵も否応無しに警戒せざるを得まい。


 敵の本格的な陽動は、爆撃部隊の直掩として帯同させる1個戦闘飛行隊36機が担う。

 君は敵の警戒が薄れた隙に地下坑道へ突入、分散した敵部隊を撃破していって欲しい。

 ルートのナビゲートはこちらで行う。

 俺を信じて穴倉に飛び込め』


 2個飛行隊、72機の5.5世代無人航空機による陽動か。

 随分な大判振る舞いだ。

 それだけトモメもこの作戦を重視しているってことなの?

 そんな作戦で主役を担うのは私…… トモメは私に期待しているのね。

 うぅぅ、上手くやれるかな、私。


『今作戦における最後の攻撃目標となる敵の集積地点への攻撃には、美少年7号率いる1個機甲連隊と1個爆撃飛行中隊12機も加わる。

 君の卓越した機動力に今作戦の成否がかかっていると言っても過言ではない。

 …… 頼んだよ?』


 最後の最後で作っていた指揮官キャラを崩してくるトモメは本当にズルい。

 どうせヘタれただけなんだろうけど、こんなふうにトモメから頼まれたら私がどんな気持ちになるか分かっているのかな。

 うーん、分かってなさそうだ。

 トモメは人の心を察するのが苦手だからなぁ……







『———— そんなところも良く見えちゃうんだよねぇ』


「うん?

 何かあったか、白影」


『なんでもないでござるよー』


 無線機越しに聞こえる白影の独り言は意味不明だな!

 わけがわからないよ。


「戦闘機による陽動ももうすぐ完了しそうだから、突入準備はしておいてくれよ?」


『承知致した』


 作戦の一段階目である爆撃機からの小型クラスター爆弾による連続爆撃は、敵対空兵力を吊り上げることに見事成功した。

 二段階目の戦闘機による敵対空兵力の攪乱も、現状では上手くいっている。


 突然の多段階航空攻撃によって混乱した敵は、無数に存在する地下要塞への出入口全てをカバーできていない。

 敵の集積地点へと向かわせる機甲連隊も順調に深部へと浸透している。

 あとは白影が突入して各個撃破するだけだ。


「———— よし、そろそろ頃合いだ。

 頼むぞ、白影」


『フフフ、拙者に全てお任せあれ!』


 やけに弾んだ白影の声。

 同時に、レーダー図上に示された白影の反応が一瞬で急激に小さくなり、数秒後元の強度に戻った。

 彼女のスキル『隠密行動』の効果だ。

 俺の『鑑定』では『自分の気配などを1/(96)にする』と説明されたが、『気配など』には電子的な探知強度も含まれているようだ。

 まあ、この重巡航管制機に搭載されたレーダー群と量子コンピューターは、そのスキル効果を数秒で打破してしまったようだが。


 やがて高度9500mに滞空していた白影の高度が加速度的に低下する。

 カトンジツによる推進力を用いない重力加速度に従った自由落下での敵地侵入だ。

 黒衣に身を包む華奢なNINJAは、重力に身を任せてどんどん加速していき終端速度へと至る。

 そして何者にも気づかれないまま、地下坑道への出入口に消えて行った。



『こちら白影、侵入に成功!


 これより敵兵力の殲滅に移るでござる!!


 カトンジツ!!!』



 白影の掛け声と共に、彼女が消えた出入口から噴き出す業火の柱。

 おそらく移動目的で噴射したその火柱は、次の瞬間には周辺に存在する出入口からも一斉に立ち昇った。

 それは高温の地下水から発する蒸気と爆撃による黒煙が漂う中でも、それはもう盛大に己の存在を主張していた。



「…… 白影、早速だが悪い知らせだ。

 君の侵入が敵にばれた」



『ウカツ! なんたるウカツ!!』

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