第六十九話 精神初傷はじめてのかいけん 後
日本国探索者 上野群馬 記者会見
残り時間 4時間12分
司会(英)『—— コウズケさん、ありがとうございました。これだけ大勢の記者から連続で質問されてお疲れではないですか?』
上野『はは…… 皆さん手厳しい質問ばかりで、正直なところ早くも参ってしまっています』
上野群馬MP 40/40
司会(英)『その割には随分とガッツリ討論していたように見えましたが、まあ、初めての記者会見ですし疲れるのは仕方ないですね。残り4時間程ですが、最後まで体力を尽きないよう頑張って下さい!』
会場:ポツポツと声援があがる。
司会(英)『はい、では時間も限られていることですし、次の質問に移りましょう。そこの方、どうぞ』
記者(独)『ドイツのテレビ記者です。お疲れの所、申し訳ないですが質問させて頂きます。
私からは貴国の人類同盟および国際連合に対する外交姿勢に関してお聞きしたいです。現在貴国はどちらの勢力にも加入せず、フランスと二ヵ国連合を作られています。そして同盟、連合に並ぶ第三の人類戦力と見られています。
それほどの勢力にも
現状の大勢を今後も維持されるおつもりでしょうか。それとも何らかの形に変化させるお考えは?』
上野『えー、我が国とフランスの外交姿勢についてですね。その質問への回答を述べる前に、まず前提として、私の人類同盟および国際連合に対する個人的意見を説明します。
同盟、連合共に多数の有力国家が共同でこの戦争を戦い抜こうと結成された組織であり、その意義は人類の連帯として非常に意味のあるものと思います。しかし、現状の両勢力は互いへの対抗心が過剰に高ぶってしまい、勢力間の協力や相互理解が非常に難しい状況にあると判断しています。異世界からの侵略という人類存亡の危機の
以上を踏まえた上で、先程の質問に答えますと、この戦争での勝利を至上目標とする我々としては、現状の両勢力に対する積極的な介入は控えたいと考えています。しかし、両勢力の関係が改善したと判断できれば、我々も人類の一員として両勢力に加盟する各国と本当の意味で肩を並べるつもりです』
会場:日仏も他国と政治的に対立しているだろ! とヤジが飛ぶ。
司会(英)『ええと、発言は挙手をしてからお願いします』
記者(独)『同盟と連合の関係改善は、どのような状態を改善されたと判断するのでしょうか。また、そのために日仏連合は両勢力を取り持つなどの外交努力はされないのでしょうか。』
上野『そうですねぇ、抽象的な回答になりますが、両勢力で何の取引も無く共同作戦が実施でき、階層攻略に関する会談で合理的な役割分担、戦力運用が可能となる状態が常に保たれている。また、一部の国家に前線を押し付けている現状の解消。
そのような関係になれば関係改善は成ったと判断できる可能性が高いでしょうね。もっと言えば人類同盟と国際連合を解消し、新たに人類連合の結成が理想なんですが……』
記者(独)『それはあまりにも現実を無視しているのではないでしょうか。その回答ですと、実質的に日仏は同盟、連合のどちらにも積極的な介入はしないということで宜しいのでしょうか』
上野『介入の有無を断言するのは、些かばかり極端になってしまいます。加入を見送ると言うだけで、介入に関しては状況によりけりです。
例えば国際連合兵站拠点爆破事件のような、この戦争における人類の大勢を揺るがしかねない出来事が起きた、もしくは起こり得る可能性を見出した場合、我々も積極的に介入せざるを得ないでしょう』
記者(蘭)『オランダの新聞記者です。先程の方と同様の質問となってしまいますが、日仏は同盟連合間の関係を改善するための外交努力はどうされるおつもりでしょうか。
それとも中立の立ち位置でただ傍観し、関係改善を待つおつもりでしょうか。具体的に日本のスタンスを教えて下されば……』
上野『我々としてはですね——』
会場ボルテージ 85%
・日仏 20%
・同盟 90%
・連合 75%
・第三 100%
主人公MP 40/40
残り時間 3時間5分
司会(英)『—— そろそろ会見も折り返し地点になります。コウズケさん、同盟の記者さん方から大分責められましたが、今の気持ちを一言でお願いします!』
上野『とても辛いです(苦笑い)』
会場:僅かな笑い声。そこかしこで貧乏ゆすりや指トントンで司会を急かす雰囲気。
上野群馬MP 40/40
記者(露)『私からもよろしいですか?』
司会(英)『あっ、失礼しました。どうぞ』
上野:困ったように苦笑い。
記者(露)『ロシアのテレビ記者です。貴国のダンジョン攻略について聞きます。貴国は事前に取り決められた担当ダンジョンを、戦力的に優位である筈の同盟や連合よりも早期に、少ない損害で攻略しています。とりわけ魔界に関しては単国にも関わらず、その攻略速度は毎回驚嘆します。
快進撃の指揮を執るあなたの戦術能力を疑う人間はもう地球上に存在しないでしょう。そこで、今後のダンジョン戦争において最適な戦術についてあなたの考えを説明願います』
会場:全員が一言一句逃さず必死に聞き取ろうと身構える。
上野『恐縮です。しかし何度も申し上げていますが、我々の攻略戦果は決して日仏だけで出したものではありません。なので本来、私の戦術は凡庸なものです。それを前提に私の考えをお話しします。
戦術について述べる前に、まずは今後の敵について私の予想を説明しましょう。
敵の規模はダンジョンの階層が上がるにつれ、2倍以上増えていっています。このままですと、次の階層か次の次あたりで敵兵力が10万を超えるダンジョンも出てきます。具体的に言えば高度魔法世界が最も有力です。
しかも敵の持つ装備や敵自身に関しても着実に強化されています。魔界では第1層で素手のまま戦っていた魔物達が、第3層ではより強力な姿で摩訶不思議な力を持った武具を使用していました。高度魔法世界では第2層で第1次大戦程度の技術力だったのが、第3層では第2次大戦レベルにまで進化していました。
このように敵はより強力に進化していきます。ダンジョン自体もまた、同様により広大に、より複雑になっていきます。それに対する我々人類は、個々の探索者達の能力は着実に強化されていっているものの、その数は減ることこそあれ、増えることはありません。この状況下で人類にとって最適な戦術は非常に限られています』
記者(露)『…………(続きを待っている)』
会場:無言で続きを促す。
上野『えー質問の答えを述べますと、一般的なものになるかと思いますが、無人兵力の拡充と探索者達の強化と成長、それが成された軍による火力戦とエースとも呼べる探索者の集中運用です』
記者(露)『探索者のエースですか……?』
上野『ええ、例えば特典持ち。彼らの強力な戦力は探索者達の中でも隔絶しています。また、第三世界諸国の七英雄サバンナ☆ブラザーズも、他の探索者達より頭一つ飛びぬけた戦力となります。このような単身で敵の指揮官クラスを屠ることのできる探索者、言うなればエースこそが今後のダンジョン攻略にとって重要な存在となるでしょう。
勿論、軍団規模の無人兵力を用いた、敵を上回る火力戦による敵兵力への対抗が大前提となりますが。
ダンジョン側は我々の科学文明とは異なる、一般的に魔法と呼べる独自の技術体系を築いています。未知の技術で作製された兵器に対し、我々の持つ兵器がどこまで対応できるのか、全く分かりません。特に指揮官クラスと呼べる敵の強化個体に対しては、現代兵器がいつまでも通じるという楽観視は極めて危険です。
そのような未知の危険個体を撃破するため、我々にはない技術体系で作製された兵器、次元管理機構の武器屋や防具屋で購入できる異世界の兵装で武装した探索者が必要となるのです。
最終的には数個軍規模の無人機部隊が敵の主兵力を抑え込んでいる間に、エース探索者の集団が敵の指揮官クラスを討伐することにより敵兵力の漸減作戦。そして最終局面における膨大な火力支援下でのエース部隊による階層主撃破が、ダンジョン攻略の流れになるのではないでしょうか』
記者(タイ王国)『タイの放送局の者です。最終的に人類はどれだけの兵力を揃える必要がありそうですか。また、エースと呼ばれるのに必要とされる探索者の練度など、コウズケさんが今までダンジョンで戦ってきた感覚による経験則でも構わないので教えて下さい』
上野『少なくとも列強の国軍規模のものでは足りないでしょうね』
記者(米)『超大国ならどうですかー?』
司会(英)『発言は挙手をしてからお願いしまーす』
記者(タイ王国)『今は私の質問中ですが……』
上野『敵は全人類を相手取っている以上、アメリカ軍の全軍規模でも難しい可能性は大いにあります。おそらく方面軍をダース単位で揃える必要が出てくるでしょう。
エース探索者の練度ですが、最低でも指揮官クラスの単独撃破です。欲を言えば2つ前の階層の階層主を単独撃破ですね』
記者(米)『そんなことできるのは君のガールフレンドくらいですよー』
司会(英)・上野・記者(タイ王国)『発言は挙手をしてからお願いします』
会場:失笑。
会場ボルテージ 90%
・日仏 40%
・同盟 95%
・連合 90%
・第三 100%
主人公MP 40/40
残り時間 1時間51分
司会(英)『さあ、残すところ2時間を切っていますよ。まだ質問したりないでしょうが、残り2時間弱ですからね』
記者(福建共和国)『福建共和国、フリー記者です。日本による度重なる極東の悪夢
上野『ああ、はいはい。それはですね——』
記者(大韓民国)『日本はこの戦争で過去の戦争責任を果たすべく——』
上野『まあ、言いたいことは分かりますよ。納得はしかねますが。そもそも今戦争は——』
記者(大韓民国)『あまりに過剰な魔石が貴国で死蔵されている現状、それらの有効的な活用が人類戦力の強化を——』
上野『ええ、そうですね。そのような考えもありますが——』
記者(朝鮮民主主義人民共和国)『戦前の特技は何でしたか?』
上野『馬に乗れました。流鏑馬もできます。』
記者(ギリシャ共和国)『恋人として好みのタイプは?』
上野『うーん、今はダンジョン戦争に集中しているので——』
記者(中華人民共和国)『戦前はどうでしたか?』
上野『引っ張りますね。そうですね、しいて言うなら——』
司会(英)『へー、笑顔が可愛い人ですかー。無難な答えですねー。』
記者(大韓民国)『胸は大きい方が好みですか。それとも小さいほう?』
上野『先程とは質問のテイストが全く違いますね!』
司会(英)『質問にはきちんと回答お願いします』
上野『女性を胸で判断することはありません』
会場:ブーイング。
会場ボルテージ 99%
・日仏 95%
・同盟 100%
・連合 100%
・第三 100%
主人公MP 40/40
残り時間 12分
記者(米)『—— つまり、かつての日米同盟を復活させる考えはないと?』
上野『そもそも米国から一方的に破棄した同盟でしたよね。それに関しての諸問題は先の大戦の講和条約で全て不可逆的に解決したはずです。今更それを蒸し返すというのも、私の独断では難しいとしか言えません』
司会(英)『はーい! 残り12分ですよ! もう心残りはありませんか?』
記者(日)『よろしいですか』
司会(英)『おお、遂に日本の記者の方から質問ですね! どうぞどうぞ』
記者(日)『日本の週刊誌記者です。コウズケさん、まず一人の日本人として、多くの日本人の声を代弁する者として言わせて下さい。
ダンジョン戦争の開戦直後、日本は絶望と諦観に満ちていました。日本は緩やかに亡国の道を辿り始めていました。しかし、どこまでも暗い雰囲気に包まれていた日本をコウズケさんとタカミネさん、いえ、ぐんまちゃんと高嶺嬢というたった二つの小さな希望が照らしてくれたのです。
貴方達が開戦から僅か3日でダンジョンの1階層を制覇した、あの伝説となった3日間の光景は絶対に忘れられません。その後の変わらぬ快進撃、どのような困難にあっても決して折れないぐんまちゃん、どのような敵にも負ける姿が想像できない高嶺嬢、大空を支配する炎獄のNINJA。そのどれもが私達を励ましてくれたんです。
ありがとうございます。貴方達のおかげで、日本は救われました。これからも頑張って下さい。貴方達は孤独ではありません。日本国は常に貴方達の背中を支え続けます』
群馬『…… ありがとうございます。
………… 一つだけ、思い出したことがあります。
この戦争で探索者に選ばれた時、曖昧な意識のまま、おそらく次元管理機構から幾つかの言葉をかけられました。
【君はこれから、幾多の困難に直面する】
【肩にかかるは、祖国の命運、民の命、地球人類の未来】
【君が挑むのは、複雑怪奇な迷宮廃墟大神殿に機械帝国】
【安堵せよ、君は一人でない】
【地球人類は常に君を見守り、祖国が君の背を支えよう】
ははは…… 今になってようやく、その言葉の意味を実感しました』
会場:自分達からの質問を諦めた雰囲気。
記者(日)『………… 質問、良いですか?』
司会(英):時計を見ながらそわそわしている。
記者(仏):日本の記者へ目配せ。
記者(日):強く頷く。
上野『どうぞ』
会場:…………(そわそわ)
司会(英)『………… 残り1分ですよっ(小声)』
記者(日)『………… 貴方達の映像を見てずっと気になっていたんですが、ぐんまちゃんは高嶺嬢と白影から慕われていることに気づいているんですか?
というかぐんまちゃんは二人のことどう思ってるんですか!?』
上野『…………? そりゃあこれまでずっと一緒に戦ってきたし、慕われてなきゃ逆に寂しいですよね。私としても彼女達を良き戦友、良き相棒、大切な同胞だと思っています。戦力とかの損得勘定抜きに、二人の事を支えてあげたいと思っています』
会場『そうじゃないだろっ!!!』
司会(英)『あーあ、残念。時間ですね』
記者(日)『クソッ!!!
言葉の選択をミスったか!!?』
記者(仏)『何やってんだぁぁ、オメェェはよぉぉぉ!!!?』
記者2(日)『文秋砲はここぞって時に外れるなぁぁぁぁ!!!?』
会場ボルテージ 150%
・日仏 200%
・同盟 100%
・連合 100%
・第三 100%
主人公MP 39/40
残り時間 0分
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