第六十八話 炎上寸前はじめてのかいけん 前
司会(英)『大変長らくお待たせいたしました。それでは本日最も注目されている日本国探索者、トモメ・コウズケさんの記者会見を始めさせて頂きます。冒頭、コウズケさんから全世界の人々に向けてコメントを頂きたいと思います』
上野『えっ、コメントですか?』
司会(英)『はい。記者会見を受ける方々には、最初に自らの伝えたい思いや会見への意気込みなど自由なコメントを頂いているんです。突然で恐縮ですが、コウズケさんからも是非お願いします』
上野『人生初の記者会見で中々厳しい洗礼ですね』
会場:疎らな笑い声。
上野『えー、先ずは、皆様、改めまして、連日の記者会見でお疲れの所申し訳ないのですが、これから6時間、皆様から苛められるトモメ・コウズケです。
ダンジョン戦争開戦から早2ヵ月が過ぎました。我々はこれまでに第3層までのダンジョン、全12階層を攻略することができました。
これは秀でた力を持つ人間や強い国力を持った国家のみの功績ではなく、全人類の献身と勇気によって得られた功績だと、私個人は思っています。
我々はダンジョンの全体像を掴めていないので、あとどれだけ戦えばこの戦争が終わるのか定かではありません。さらに敵からは次々と新たな脅威が出現し、今後ダンジョン攻略を取り巻く環境は厳しさを増していくことでしょう。
しかし、一人一人が諦めず、全ての国家が互いの得意不得意を理解し、尊重し合うことで、この戦争に勝利することができると、私個人は信じております。
世界各国、全人類の皆様におかれましては、今後とも国家の垣根を越えて、全ての探索者達にご声援とご助力を頂ければと思います』
会場:拍手。一部歓声(主に親日国から)。
司会(英)『コウズケさん、ありがとうございます。もしかして、先に記者会見を受けた人達から、コメントのこと聞いていたんですか?(笑みを浮かべながら)』
上野『事前に聞いていたら、もっと気の利いたことを言って貴方達全員を立たせていましたよ』
会場:笑い声。
司会(英)『HAHAHA! 初見にしてはかなりお上手でしたよ。えー、それでは、改めまして記者会見を始めたいと思います。質問のある方は挙手して下さい。私からの指名後、所属国と肩書を述べてから質問を行うようお願いします。氏名や会社名は結構ですので、ご注意願います。
では、一番前に座っているそちらの方からどうぞ』
記者(仏)『フランスの新聞記者です。まずこの場を借りてコウズケさんに感謝させて下さい。
貴方の善意により、フランスという国家は救われました。一フランス国民として感謝致します。フランスは貴方達日本から受けた大恩を決して忘れることは無いでしょう。
さて、質問ですが、今後のダンジョン戦争に向けて、我々日仏連合の攻略方針を教えて頂ければと……』
上野『我が国と貴国は最早一蓮托生の連合国家と言っても過言ではありません。我が国が貴国を助けることもあれば、貴国が我が国に手を差し伸べることもあります。
我が国と貴国の間に遠慮は無用です。これからも日仏連合として互いを補完し合い、共に戦い抜きましょう。
質問の回答ですが、日仏連合は今まで通り魔石の確保を重視しつつ、積極的に階層ボスを撃破していきます。
主力は現状の高嶺華さんとアルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィーさんから徐々に無人兵器群へ移行させる予定です。
その分、彼女達の空いた戦力リソースを敵の指揮官クラスや大型兵器などに充てようと考えています』
記者(仏)『つまり末期世界第3層のように、従者ロボが管制する無人兵器による火力戦を今後も続けていくと?』
上野『今後は無人航空機を活用し、戦術を更に拡大発展させます』
司会(英)『あっ、何人か手が上がりましたね。あちらの方にも聞いてみましょうか』
記者(ケベック自治共和国)『ケベック自治共和国のテレビ記者です。我が国も先の末期世界第3層戦で貴国の指揮下で戦っていました。貴方の卓越した指揮能力は我が国でも高く評価されていますよ。
えー、質問ですが、先の戦術を拡大発展させると言われましたが、その戦術構想には今回戦線を共にした我が国のような他国との共同戦線も組み込まれているのでしょうか』
上野『状況によるとしか答えようがないです。
基本的に次のダンジョンがどのような状態なのか、それは調査してみなければ分かりません。調査した結果、他国と共同戦線を構築した方が合理的だと判断できれば、他国との共同作戦といった形になるでしょう。
反対に、魔界第1層のような環境ですと、他国との共同戦線は難しくなってきます』
記者(ケベック自治共和)『なるほど、確かにそうですね。ただ、共同作戦をとる場合、魔石などの報酬に関してはどうするお考えでしょうか。
先の戦いでは戦後に配分を決めていましたが、それだと些か不公平となっているように感じます。特に負担戦費の問題では、使用した火器弾薬の選択権が特定国家に独占されてしまえば、配分比率をコントロールされてしまいかねません。
このことも踏まえて、どう考えていられるのかを教えて下さい』
上野『まず、兵器選定の条件を説明させて下さい。
ダンジョン戦争で最も貴重なのは皆さんご承知でしょうが人的資源です。各国で僅か2人しか存在しない人間が軍団構築のネックとなります。
どれだけかき集めても373名の人員では、数万の敵兵力に対して戦線構築するためにどうしても高価な無人機や高性能弾薬に頼らざるを得ないのです。国力に乏しい国家と大国では投じることのできる戦費に大きな差があることは重々承知しています。
しかし現実問題として、千にも満たない、下手をすれば百にも満たない数で数万の敵兵力と競り合うには、巨額の戦費を投じる以外に手は無いのです。そして、一つのダンジョンを攻略しても次が控えている以上、継戦能力維持のために費やした戦費の比率と同等の比率で戦果が分配されなければなりません。
結論を申し上げますと、報酬に関する協定締結は戦闘の前後どちらでも構わないと私は思っています。ただし、その報酬比率は公平性、継戦能力維持のために投入戦費や個々の戦果を強く考慮したものでなくてはならないでしょう』
記者(クロアチア共和国)『クロアチアのフリー記者です。我が国は人類同盟に加入していますが、貴国の報酬分割協定には関心があります。
継戦能力維持に関してですが、それを重視する場合、他国の国力を維持するために日仏連合からの物資供与も有り得るということでしょうか。
ご回答願います』
会場:少なくない人間が顔色を変え、ざわめきが起きる。
上野『他国への魔石供与も我々の選択肢に入っています。
実際、先の末期世界第3層の報酬会議後に設けられた個別会談では、幾つかの国家への魔石供与が決定いたしました』
会場:歓声が上がる。半数以上からの拍手。
上野『ありがとうございます。
ただ、我々としても魔石を得るために戦争と言う命がけの行為をしているので、流石に無償供与と言う形ではありません。在外邦人の保護など、こちらからの要求に応えて頂いた場合、それに対する交換条件と言う形で供与しています。
我々は人類同盟や国際連合と異なりたった2ヵ国の国家連合です。
無作為に大量の資源をばら撒けるだけの国力は持っていないのです』
会場:落胆の声。
記者(マルタ共和国)『マルタ共和国、新聞記者です。貴国は先の報酬会議では全体の99%、実に8万4448個もの魔石を独占していたはずです。確かにその戦いで貴国は戦費のほとんどを負担していましたが、それにしても多すぎる数字ではないかと思います。
実際、貴国はそれほどの魔石を消費できるのでしょうか。ある程度他国にも回し、人類全体の国力を維持向上させた方が得策とは考えなかったのでしょうか』
上野『なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。これに関しては戦略資源の分配思想によるところが大きいでしょう。ダンジョンで得られた魔石が我々の戦争資源として活用できるまでの経路を簡単に説明します。
まず、国家へ魔石を資源として送ります。その資源を国家は加工し、工業製品やインフラ維持などに使用します。そうして得られた余力から、換金製品を製造し、探索者へ送ります。それを我々が換金し、戦争資源として活用する訳です。
さて、ここまでの過程で、国家によって資源から換金製品に変換される際の効率や期間が異なることは、国家ごとに国力、技術力などに差が有る以上、仕方のないことです。
先程の記者さんはより多くの国家の工業力を活用し、短期間でできる限り多くの戦争資源を得ようという考えをお持ちなのですかね』
記者(マルタ共和国)『いえ、戦争資源も重要ですが、私が言っているのは魔石が十分得られなかった国の国民生活などについて————』
上野『ええ、ええ!
確かに、まあ、そうなんですが、今は例えで戦争資源の話をしましょう。
結論から言えば、私の考えは、あなたとは違うのですよ。
語弊を承知で言いますと、私は変換効率の悪い国家、例えば大規模工場が少なかったり、有用な換金製品を生産できなかったりする国家の事です。そのような国家よりも、より高い効率で資源を戦争資源へと変換できる国家に魔石をより多く配分した方が、人類の継戦能力を高めるものと考えているんです。
国民生活、国力の維持、確かにそれらは重要です。しかし、今は人類存亡の戦時なのです。ある程度の我慢は仕方ないのではないでしょうか。こちらとしても、資源を全て無条件で譲れなんて断じて言っていません。
国力が低くとも高い戦果を挙げる国にはより多くの資源を配分し、より多くの戦果を得て貰う。国力が高く、大量の戦争資源を供給できる国にはより多くの資源でより多くの戦争資源を生産して貰う。
これこそ人類の勝利へ近づく最も合理的な道筋の筈です』
会場:ざわつく。
記者(クルド共和国)『クルド共和国、フリージャーナリストですが、それは戦果を挙げられない小国や途上国は、軽視されても構わないという意図でしょうか』
上野『軽視ではありません。地球上のあらゆる国家が同じ敵と相対し、人類の勝利を目指す戦友です。それは優劣のない平等な関係です。だからこそ、報酬の分配も平等な価値基準で行わなければなりません。数値などの客観的視点から平等な評価基準で出された戦績こそが、報酬に反映されなければなりません。
もしも、何らかの理由で特定国家に対し、その国が挙げた戦績よりも過剰な報酬が支払われれば、それは特定国家に対する優遇措置となります。それこそ戦友たる他の国々に対しての裏切りであり、断じてあってはならないことだと、あなたは思いませんか』
記者(クルド共和国)『その主張は大国の理屈です!
世界には様々な事情で自国の探索者に満足な支援を送ることのできない国、今にも国民が飢餓に陥ってしまいそうな国、そのような国々が多く存在するんです。
それにもかかわらず、人類の最先鋒であり最も多くの戦果を挙げた貴方達が、そのような横暴な理屈を振りかざすのはあるべき姿ではないのでは』
上野『それは碌な戦果も挙げられず、資源を供給しても僅かな戦略物資すら供給できない国家に対し、他国が自分達で得た報酬から数十万tもの莫大な物資を供与しろということでしょうか。
それこそ横暴ではないですか。確固たる結果には正当な報酬が支払われるべきです。それが敵わない場合、どの国も共同作戦など行わなくなるでしょう。何故なら、自分達だけで戦った方が多くの報酬を得られるのですから』
記者(クルド共和国)『それこそ————』
会場ボルテージ 75%
・日仏 15%
・同盟 65%
・連合 60%
・第三 90%
上野群馬MP 40/40
残り時間 5時間43分
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