第五十三話 ゆるキャラの鼓舞
『—— 諸君』
かつて火炎地獄だった山々を前に、数百もの黒鉄の軍馬が
『同胞にして戦友たる諸君』
世界の頂点を争う最先端の技術と、中小国の歳入に匹敵する莫大な財貨を注ぎ込まれた異形の兵団。
艶消しされた濃緑の単色迷彩は赤黒い曇天の下、不気味な色香を放つ。
『諸君らは今まで、戦場の主役になれない脇役だった』
主に唯一無二の忠誠を捧げる鋼鉄の機械人形に統率された無人の軍馬達。
未だ内部に火は入っておらず、微睡のまま微動だにせず開戦の時を沈黙と共に待つ。
「…… ぐんまちゃぁん」
よーしよしよし!
高嶺嬢の濡羽色の髪をガシガシと撫でさすった。
『華々しい栄光は、輝かしい戦功は、溢れんばかりの褒賞は、全てが強大なる戦友達に奪われてきた日陰者だった』
静寂を保つ黒鉄の軍団が中央にある異色の集団。
統一感のない疎らな戦闘装束に身を包んだ一団。
『きっと悔しい思いをしてきたことだろう。
きっと惨めな想いをしてきたことだろう』
周囲の空気に呑まれてしまったのか、それとも経験したことのない大規模戦闘を前に緊張しているのか。
気を抜けば押し潰されてしまいそうなほど重苦しい雰囲気を漂わせる。
『しかし、それも今日で終わる』
身を固くして自身の銃を握りしめる者。
隣り合う戦友と身を寄せ、恐怖に耐える者。
己の相棒を信じ、本能を研ぎ澄ませる者。
「…… トォモォメェ」
おーしおし、どうしたどうした?
NINJAらしさを捨て去った白影の背中をポンポンした。
『いや、今日で終えるのだ!』
雑兵然としていながらも、その実、それぞれが超常の力を駆使して幾多の戦場を乗り越えた
『他でもない諸君ら一人一人が、終わらせるのだ!!』
愛する祖国の為。
懐かしき故郷の為。
温かな友人の為。
帰るべき家族の為。
「むぅ……!」
高嶺嬢がぐりぐりと頭で俺の薄い胸板を抉ってきた。
俺はすかさず彼女の頭をポンポンしてギブアップの意思を伝える。
ヘイヘーイ!
そらっ。
ヘイヘーイ!!
もういっちょ。
ヘイヘーイ!!!
『私の同胞は決して脇役などではない!』
苦難、苦痛、不安、恐怖、悲哀。
自らの背負うものの為に、あらゆる困難を踏破してきた紛れもない勇者達。
『私の戦友は決して日陰者などではない!!』
「うぅぅ…… うぅぅぅ……!」
白影が胸元の装甲板で俺の身体をゴリゴリと削ろうとしてくる。
いや、待て…… こいつ、ただの布の服しか着てない……!?
つまり、この装甲板のような真っ平で固い感触のモノは…………
…… 俺は彼女の背中を優しく撫でてあげた。
ブゥゥゥン
低いモーター音と共に黒鉄の軍馬達が微睡から目を覚ます。
機内に搭載する無人機用共通規格バッテリーから電力を引き出し、幾多の高効率モーターが高度なネットワーク制御の下で複雑に稼働する。
『諸君!
勇敢なる戦友諸君!!』
ズンッ
18体の機械人形が、648両の多脚戦車が、72両の輸送多脚車が、一斉に鋼鉄の軍靴を踏み鳴らした。
質量が威圧を纏い、一糸乱れぬ統率が大地の悲鳴へと取り替わる。
『諸君は戦士だ!
決して敵を恐れず、決して立ち止まらず、決して敗北しない!
人類史に名を遺す英雄なのだ!!!』
大地を震わす質量に感じる圧倒的な暴力の気配。
決して挫けなかった勇者達の顔が等しく強張る。
薄弱な肉の身体では抗いようもない鋼鉄の軍馬に紛れもない恐怖を抱く。
しかし、その瞳だけは微塵も揺るがずに前を、己を、祖国を、人々を、家族を、戦友を害する敵へと向いている。
「ぐぅんぅまぁちゃぁん……」
待ってくれ高嶺嬢。
今、俺の演説が山場に来てるんだよ!
思わず彼女の頭を押しのけようとしたが、万力に固定されたかのように数ミリたりとも全くぶれない。
『我が同胞にして戦友たる英雄諸君!
今こそ戦の時だ!!
敵に諸君らの恐ろしさを、味方に諸君らの偉大さを、そして戦友達に諸君らの勇気と献身を
ズンッッ
18体の機械人形が。
648両の多脚戦車が。
72両の輸送多脚車が。
そして83名の
一斉に己が軍靴を踏み鳴らした。
「トモメ…… トモメ…… トモメ……」
白影が足を絡ませてきやがった!?
ひ弱な俺の足腰では足を取られてしまうと、瞬く間に彼女達を支えきれずに倒れてしまう……!
と思いきや、まるで巨大な鉄塊を連想させる高嶺嬢の安定性が俺と白影の全体重を支えてくれた。
この隙に演説続行だ!!
『征け!
英雄達よ!!
人類史に燦然たる己が名を刻むのだ!!!』
ズンッッッ
その瞳に迷いは無い。
その体に震えは無い。
その心に怯えは無い。
人、機械、人工知能。
そこにあるべき境界は消え去り、ただ敵を滅する一軍のみが存在する。
『我が従僕達よ!
我が同胞達よ!!
我が戦友達よ!!!
いざっ、我に続け!!!
全 軍 突 撃 せ よ !!!!』
「もっと…… もっと………… もっとぉ」
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