第五十話 ほとばしるマイナスイオン

『ミッション 【目指せ友達227ヵ国!】 成功

 報酬 LJ-203大型旅客機 6機 が 端末 に振り込まれました』


『ミッション 【アフリカの鉱山権益が心配】 成功

 報酬 超大型自動車運搬船 東名丸級 3隻 が 端末 に振り込まれました』


 列強に対し屈折したコンプレックスを抱えた陰険な公女の妨害もなんのその。

 知恵と勇気と情熱で、第三世界諸国と見事に友好条約と戦域内連携協定を締結せしめた帰り道。


「—— ひぐっ———— ぅう——」


「—— えぅ———— ぐすっ——」


 設営しておいた拠点の目前で、俺は棒立ちのままもう一歩を踏み出せずにいた。

 

 大型テントの中からすすり泣く声がずっと聞こえてくる。

 何があったのか分からないが、これは果たして入って良い状況なのだろうか?

 もしかしたら空気を読んでしばらく放置しておいた方が良いのか?

 …… 駄目だ。情報が足りな過ぎて、何がベストな行動なのか判断できない。


 俺はとりあえず端末を操作して、テント内にいる高嶺嬢と白影のステータスを閲覧する。


『高嶺華 女 20歳

状態 肉体:疲弊 精神:焦燥

HP26/ 44 MP 0/2 SP6/ 44

筋力 44 知能 2

耐久 42 精神 27

敏捷 44 魅力 21

幸運 4 

スキル

直感 182

鬼人の肉体 45

鬼人の一撃 35

鬼人の戦意 30

我が剣を貴方に捧げる【捌】 25』


『アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィー 女 20歳

状態 肉体:疲弊 精神:焦燥

HP 10/16 MP 0/24 SP3/ 27

筋力 18 知能 14

耐久 18 精神 6

敏捷 56 魅力 21

幸運 4 

スキル

超感覚 123

隠密行動 91

投擲 95

耐炎熱 95

無音戦闘 55

空中戦闘 80

妄執 90』


 うっわ、精神崩壊してるやんけ!?

 初めて見るMP0に俺は焦った。

 なにせ高嶺嬢と白影は、この戦争における日仏どころか人類にとっての切り札。

 こんなところで消耗が許される人材ではない。


 そしてそれ以上に彼女達は日仏の両大国が誇る選りすぐりの貴種。

 もし彼女達に何らかの障害が残れば、俺の戦後ライフに著しい悪影響を及ぼすことだろう。

 気づけば俺はテントの中に飛び込んでいた。

 

「無事か!?

 高嶺嬢!! 白影!!」


 勢いよく扉を開けて転がり込むように中へ入ると、高嶺嬢と白影が二人して地べたにぺたんと座り込んでいる。

 テントの中に荒らされた形跡は無く、HPがそれなりに削れていた割には彼女達の身体に傷や汚れは見当たらない。

 端末ミッションを通して祖国から何も連絡がなかったということは、今回のMP0は他者によるものではなく、彼女達の間で何かしらが起こったのだろう。

 人間関係のトラブルかな?


 回り込んで二人の様子を見てみれば、高嶺嬢はパッチリお目目に光が無く、白を通り越して青く見える肌には涙の痕がしっかりと残っていた。

 白影は顔から覆面が外されたまま蒼い瞳を赤く充血させており、こちらも光が宿っておらず涙の痕がある。

 両者ともに生気を失っている。

 スタミナであるSPも枯渇間近だったし、精神的にも肉体的にも限界を吹っ切れているようだ。


 本当に何があったんだ?


 彼女達の戦闘力を考えれば、物理的に何かあった訳ではないだろう。

 もしも物理的手法で彼女達をここまで消耗させたのなら、従者ロボ達がせっせと築いている駐屯地ごと辺り一面の地盤が消し飛んでいないとおかしい。

 地盤どころかテントが無事な時点で物理的には何も無かったことが分かる。

 

 となると、精神的に何かあったのだろうけど。

 うーん、分かんないなぁ。

 せめてミッションとかで生放送を見ていた祖国からのヒントが欲しい所だ。


 俺が何の反応も見せない高嶺嬢と白影の様子を見ながら、途方に暮れていると——


グルン


「———— あっ………… ぐんま、ちゃん」


「———— あっ………… ト、モメ」


 二人の首が人形のようにグルリと捻られて顔を俺に向けた。

 伽藍洞のような4つのガラス玉が俺の姿を映す。

 彼女達の作り物染みた美貌が、この時ばかりは生理的な恐怖心を煽る。


 今すぐ逃げ出したい気持ちになったが、ここで逃げたら本格的に不味くなることは流石に分かった。


—— ゾゾッ—— ゾゾッ—— ゾゾッ——


 地面に引かれたシートの上を這うようにこちらへ近づいてくる決戦兵器と空の魔王。

 どのような体勢になっても、顔は微塵もブレずに俺へと向けられ続けている。


「ぐんま、ちゃん………… ぐんま、ちゃん…………」


「ト、モメ………… トモ、メ…………」


 コ、コエエエエェェェェェェェ!?


 怖すぎる!!


 思わず後退あとずさろうとしたが、俺の足は意思を無視して地面へと突き刺さっている。

 それでも無理やり足を動かそうとしたが——


ストンッ


 腰が抜けました。



「ぐんまちゃん」


「トモメ」


 そして。


 捕まっちゃった。



「………… う…… うぅぅ」


「………… えぅ…… ふぇぅ」


 うん?

 予想に反して二人は俺の胸に顔を押し付けたまま呻くだけだ。

 てっきり心臓の一つや二つ抉り抜かれるかと思って、ポーションを取り出そうとしていたのだけど……


 俺の身体に回された腕も戦車の砲塔を引っこ抜いたり、身の丈を超える鉄製の手裏剣を振り回したりしていたのが嘘のように力強さを感じない。

 筋力が一般大学生の域を超えない俺でも引き剥がせそうな程の力しか籠められてないだろう。


『ミッション 【とにかく慰めよう】

 高嶺華とアルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィーの心を癒しましょう

報酬 超大型貨物船 太平丸級 2隻

依頼主:日本国副総理兼経済産業大臣 安倍晋五郎

コメント;彼女達も中身は普通の女の子なんだよ』


『ミッション 【優しく抱きしめて】

 アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィーとハナ・タカミネを優しく抱きしめましょう

報酬 エアブスA-620大型旅客機 12機

依頼主: フランス共和国芸術創造大臣 クリスチアーヌ・ボーマルシェ

コメント;そして耳元でそっと愛を囁くのです!』


 ここに来ていつものぶん投げミッション。

 祖国ってば本当にもうっ!

 とにかく俺に投げれば何とかするって思ってるよね!!


 そこが好き!!!


 俺の精神分析スキルがパッシブになって、体中からマイナスイオンどっぱどぱだぜ!

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