第三十四話 ひらりひらりと舞い落ちる
日仏連合前線拠点壊滅。
敵の追撃部隊を全て壊滅させ、夜を通して行軍を続けた俺達が目にしたものは、敵の襲撃を受けもぬけの殻となった廃墟だった。
夜が明けても弱まる気配のない猛吹雪によって建物の大部分は雪で覆われている。
人の気配はなく、建物の奥に物資の一部が残されているのみ。
せめて死体や兵器の残骸がないことが不幸中の幸いか。
しかし、拠点にさえ辿り着ければ一段落付けると思っていた人類同盟残存部隊にとって、その士気を著しく低下させるには十分な衝撃だった。
「———— 拠点跡からの物資補給はあと1時間程で完了します。
無人兵器の自主メンテナンスも2個中隊を残すのみです」
「悪天候で偵察機は勿論、目視での偵察も困難になっています。
2個中隊に周辺の索敵を命じていますが、何も発見できていません」
「同盟司令部との通信は未だに途絶しています。
他の前線部隊や原潜との連絡も取れないままです」
次々と報告される状況の悪さに俺は思わず
本来なら拠点で待機している筈の高嶺嬢達がどこにいるのか何も分からないまま、ただ現状の不安要素が増えていくだけ。
昨日からの吹雪は収まる気配を見せないし、敵がどう動いているかの気配すら察知できない。
このまま後方の根拠地まで撤退するにしても、高嶺嬢達の状況くらいは把握しておかないとあまりにも不安だ。
俺の指揮下にある人類同盟の残党ボーイズにとっては即時撤退が合理的だろうけど、日本的には現段階での戦域撤退はあり得ない。
せめてこのまま通信が回復するまで待って、高嶺嬢達や同盟司令部の状況を把握してから撤退に移りたい。
まあ、だからと言って敵軍に反撃しようなんざ考えてもいないけどね!
現在俺の指揮下にある戦力は探索者23名、無人戦車224両、無人機銃座38基、無人迫撃砲31両、無人輸送多脚車83体、無人除雪車7台。
部隊規模は2個連隊相当と結構なものだ。
だけど、敵にはガンニョムと言う超戦力がある以上、まともにぶつかってしまえば余程の幸運にでも恵まれない限り敗北必至。
頑張ってもどうにもならないことってあるよね。
「後方の状況が分からない限り、無暗に戦域を離れる訳にもいかない。
周辺の警戒を強めつつ、天候か通信が回復するまでこの場に留まることが無難だろう」
適当な理由を付けて現状維持を主張する。
ここに来るまでは俺が指揮権を握っていたが、精神的支柱となっていた日仏連合根拠地が壊滅している今、俺に反抗する奴らが出てきてもおかしくない。
猛吹雪の中、一晩中追撃を受けていたのだし、精神と体力の両面で撤退を望んでいるんじゃないか?
「トモメさんがそう言うなら俺は異存ありません。
ただ、未だ戦場に取り残されている味方や敵有力部隊との接触などはどう対処するんですか?」
「私も今まで指揮を執り続けてきたあなたの決定には従います。
しかし、現状の物資ではもって6日といった所です」
予想外にも俺の決定には従ってくれるらしい。
まあ、不安材料はしっかり主張してくるけど。
「先程も言った通り哨戒部隊を増やして周辺地域の警戒を強化する。
敵部隊や味方の救援についてはその都度検討するしかないだろう。
そしてこの周辺捜索は3日間で終了し、結果の如何にかかわらず速やかに根拠地へ撤退する」
これが妥協点かな。
いくら悪天候とは言え、3日もあればここら一帯の捜索は完了できる。
ここから後方の根拠地まで除雪しながらだと凡そ2日かかるが、最悪は燃料を食う兵器類を自衛分だけ残して放棄すれば良い。
物資を3日分残しておけば撤退するには十分だろう。
それにこの場所は戦闘地域とは言え、前線から大分離れた市街地の端っこだ。
どっかのお馬鹿さんが敵をおちょくった挙句ここまで逃げてきたりしない限り、この地まで敵の有力部隊が進出する訳がない。
敵だって俺達同様にこの猛吹雪に苦しめられている筈なんだ。
基地を壊滅させたとかのよっぽど憎い相手でもない限り、前線から遠く離れたこの地に来ることなんかないだろう。
だからこそこの場所に拠点を設置したんだしね!
いやあ、流石俺!
良く考えられてますわ!!
俺が内心で自画自賛していると、バタバタと騒々しい音と共に会議に使っていた小部屋の扉が突然開かれた。
「失礼します!!」
うん?
予期しない入室者に室内の視線が集中する。
あれ、なんだか悪い予感がする。
「司令! 空からNINJAが!」
…………えっ?
「5秒で受け止めろ!!」
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