第三十二話 極寒の後退戦
氷点下30℃を下回る極寒。
風速30m近い横殴りの猛吹雪が全てを掻き消す極限世界。
屋外にいるだけで常に死の危険が付きまとう環境でなお、人類と高度魔法世界は闘争を続けていた。
「トモメさんっ、第12中隊に敵の攻勢が集中しています。
既に中隊戦力の3割は機能停止しました」
目の前に広げた戦域地図では、味方の戦線から取り残されかけている12と書かれた駒が敵の駒に半包囲されていた。
彼の中隊には事前に後退命令を出していたのだが、この吹雪では命令通りに動くこともままならない。
臨時司令部として設けられた民家の広間、割れた窓ガラスの上に応急で打ち付けられた木板が吹雪でガタガタと揺れる。
「第12中隊の退路はどうなっている?」
「後方の道路は既に雪で埋もれています。
恐らく自力での除雪は困難かと」
2時間前に一度除雪したはずだけど、思ったよりも積雪が速いな。
このままだと中隊は完全に孤立してしまうが、だからといって援軍を出せば戦線に穴をあけることになる。
「両翼の部隊を前進させて12中隊を援護、敵をある程度消耗させたら12中隊を吸収させて元の戦線に後退させてくれ」
「それですと12中隊の担当エリアが空白となりますが……」
「敵が雪をかき分けてそこを突破する頃には、我々はより後方に戦線を再構築してるよ」
俺の言葉に納得いったのか、ベトナムボーイは通信機越しに指示を伝えてくれる。
敵にガンニョムという決戦兵器が存在している時点で、俺達に恒常的な戦線や拠点を構築するなんて選択肢はない。
こちらに特典持ちが俺しかいない以上、あんなデカブツ相手に航空兵力や野戦砲抜きで対抗なんてしてられる訳がないぜ!
そもそも何故俺が他国の探索者達を指揮して戦っているのか。
理由を一言で言ってしまえば、済し崩しでこうなったとしか言いようがない。
適当な家の地下室で吹雪をやり過ごそうとしたところ、運の悪いことに外で警戒していた従者ロボを退避中だった人類同盟軍残党が発見。
見捨てる訳にもいかず保護し始めたのが運の尽き。
なんだかんだ散り散りになっていた負け犬どもを救援し、不可抗力で高度魔法世界側と交戦。
そのままずるずると同盟残党を吸収しつつ交戦規模を拡大し、今じゃあ司令部付きの大部隊だ。
探索者16名、無人戦車196両、無人機銃座27基、無人輸送多脚車96体、無人除雪車7台。
探索者だけで見れば、同盟が前線に展開していた戦力の2割が俺の指揮下に入っている状況だ。
一応無線で同盟司令部や原潜に呼びかけたものの、敵ガンニョムによる妨害電波なのか応答はない。
それでもこれだけの人数を保護したことから、同盟の前線部隊は統制が崩壊していることも考えられる。
いつもなら他国の不幸は蜜の味で拍手喝采な状況なんだけど、流石にいつまで続くのかも分からない現状で人類側の主力部隊壊滅は笑えない。
どうせ列強諸国は後方の司令部でぬくぬくしているだろうし、兵器だけならいくらでも再生産できるんだろうが、要となる探索者が大幅に減ってしまっては意味がない。
まあ、敵ガンニョムがこちらに来ていないことから、同盟の特典持ちは生き残っているんだろうけどね。
クソッ!
こんな状況じゃなきゃ、俺だって適当にお茶を濁してひっそりぬくぬくしていたものを!!
「除雪と行軍の状況はどうなっている?」
「現在、戦線構築予定地の除雪は60%ほど完了しています。
先遣部隊の2個中隊は展開を完了し、周辺地域を掃討中です」
俺の言葉にベトナムボーイ同様、通信機を操作していたクロアチアガールが応える。
ガンニョムとの接触をできる限り避けるため、俺達は戦闘しながらも退避行動をとっていた。
こんな悪環境中で敗残兵を率いてやるような作戦じゃないが、こればかりはどうしようもない。
高嶺嬢や白影とまでは言わないが、せめて強化装甲やガンニョムがいてくれなきゃ文字通り手も足も出ないんだもの。
「よし、現在交戦中の3個中隊と司令部を
「分かりまし—— いえっ、ちょっと待って下さい!」
クロアチアガールが不穏な反応を示した。
悪い予感がするぜ!
「これは…… 救難信号です!
敵部隊に攻撃を受けている味方部隊の信号を受信しました!!」
うわっ、変なもんが引っかかっちゃた!?
無かったことにしたい……!
でもっ、できない!!
こういう時、つくづく常時生放送機能が憎たらしい!
「後退予定の1個中隊を救援に向かわせろ。
中隊が抜けた穴は他の中隊から無人機銃座8基と無人戦車8両を抽出して補填。
構築予定の戦線は一区画分縮小させるんだ」
「それでは十分な縦深をとれず弾性防御が困難になるかと」
ベトナムボーイが不安そうな顔を向けてきやがる。
まあ、そう心配するなや!
「我々の退却前に司令部直轄部隊で殿の3個中隊と連携し、敵戦力に打撃を与える。
直轄部隊は少数とは言え2体の従者ロボを含んだ機動部隊だ。
急襲すれば敵戦列に風穴くらい空けれるだろう」
同時に俺の身がとっても危ないけどね!
高嶺嬢達との合流地点までおおよそ5㎞。
天候のせいなのかは分からないが、その距離が今はとても遠く感じた。
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