第十九話 復活する北関東最速

 6月19日に人類同盟が行った大規模空襲、第13次航空作戦は大成功と言っても良い結果に終わった。

 UFA-16無人攻撃機184機、MQ-14無人攻撃ヘリ128機による壮絶な打撃力は、迎撃に出てきた敵航空戦力の有人レシプロ戦闘機64機を一瞬で粉砕。

 敵地上戦力の籠る市街地と対岸の敵飛行場に対し、大地が噴火したかのような猛爆撃を行った。

 これにより敵の受けた被害は甚大であり、敵航空戦力の半数と1000を超える地上部隊を喪失したと見られた。



 6月20日、同盟の指導者エデルトルート・ヴァルブルクはこの航空攻撃により、敵の抵抗力は一部戦線で大きく弱体化したと判断。

 両翼から戦力を引き抜き、特典持ちを集中運用する中央戦線へ投入した。

 ただでさえ特典持ちが猛威を振るっていたというのに、そこへ増援が来たことで中央戦線の戦力均衡は崩れ、人類側に大きく傾いた。

 

 

 6月21日、先の同盟が行った航空攻撃による傷が癒えぬ中で始まった人類側の一大攻勢。

 ガンニョム1機、強化装甲1体、原潜乗員420名、無人航空機264機、無人戦車1618両を擁する同盟の中央軍は、大河まで到達して敵を南北に分断するべく進撃を開始。

 航空支援を一時的に半減させた高度魔法世界側には、圧倒的とも言える同盟の決戦戦力を受け止める用意は整っていなかった。


 

 6月22日、前線基地や司令部からの増援が間に合わぬ中、高度魔法世界側は奮戦虚しく人類に戦線の突破を許す。

 同盟司令部は突破と同時に、温存していた4隻目の戦略原潜を召喚。

 リベリア共和国の探索者アルフレッド・モーガンによって召喚されたコロンビア級戦略原子力潜水艦の巨体は、戦線を奪還するべく戦闘を継続していた高度魔法世界側に絶望を叩きつけた。

 


 6月23日、敵を南北に分断した同盟だが、そのために消費した戦力と物資の量は無視できないものだった。

 無人兵器の半数が喪失もしくは大破という集計におののいた同盟司令部は、敵飛行場を目前としながらも進撃の停止を命令。

 エデルトルートやアルフレッドなどは進撃の継続を主張したものの、多数を占める列強諸国の意見を覆すことは叶わなかった。

 同盟中央軍は敵戦線突破後、支配地域を僅かに拡大するだけで後は防備を固めることになった。





 6月24日、膠着する戦線の後方において、参戦から7日目にして日仏連合はようやく戦闘態勢が整った。

 人類最強と名高き陣営がついにうごめきだす。



バラララララララララララララ


 力強いメインローターの回転音が、ヘッドフォン越しに鼓膜を打つ。

 暗闇に包まれた操縦席の中で、人体工学に基づいて合理的に配置されたモニター類が薄っすらと緑光を発している。

 ヘッドランプを付けることもできず肉眼では暗闇が広がるだけの空間は、機体のセンサーと連動したHMD (ヘッドマウントディスプレイ)を通して暗視画像として把握できた。

 緑がかった視界。

 操縦席の窓からは破壊の跡を残す建物が、数多く軒を連ねている。


 現在の高度は10m。

 操縦桿をほんの僅かにずらしただけで道路脇の建物にローターを擦らせる狭い航路を、時速350㎞という高速で飛行する。

 俺達が行う作戦の性質上、敵は勿論、人類側にさえ発見されることは避けたい。

 これ以上、高度を上げることはできなかった。


 ヘリの操縦なんてやったこともなく、事前に読んでおいた教本だけが頼りの初飛行フライト

 まさかこんな頭の可笑しいコースを飛ぶとは思わなかったが、ここでヘマなんてしたら走り屋のメッカ群馬県出身としてとんだ恥晒しだ。

 俺は微かな振動を伝える操縦桿を握り直し、相棒である多用途ヘリコプターUH-3に感覚を張り巡らせる。


 UH-3、日本が2040年に開発した国産多目的ヘリコプター。

 魔界第3層でルクセンブルク一派が使用していたUH-2の後継機種であり、あらゆる性能が大きく向上している第一線級の機体。


「…………っ!」


 順調だったかに見えたフライトだが、この先の建物が倒壊して道幅が極端に狭くなっていやがる!

 左右に抜け道はなく、高度を上げて回避するしかない。

 だが、そんなことをしては発見される確率が著しく高い。

 如何に高性能機といえども所詮は回転翼機。

 レシプロ機だとしても敵の航空機には空戦で叶うはずがない。


 今はまだ見つかるわけにはいかない…… ここは本気の全開フライトだ!!


「後部の人員は体を固定しろ」


 マイクで後席に指示を出し、俺は発動機の出力を上げて増速した。

 隣に副操縦士として座る美少年2号は『バカが死にてぇか!? 行けっこねぇ!!』とばかりに俺を止めようとするが、後ろから美少女1号が美少年2号を張り倒して静止してくれた。

 ありがてぇ!


 人は何かを求めて前に進むんだ…… 楽な方に逃げてばかりじゃどんどん駄目になる。

 駄目押しとばかりに増速、増速、増速!!!

 メインモニターに表示された速度は時速420㎞。


 ちんたら飛んでんじゃねぇよ!!

 最新鋭機が泣くぜ!!?


「ぐんまちゃん!?

 いきなりスピードが上がったみたいですけど、どうしたんですか!!?

 私、とっても嫌な予感がしますよ!!」


 フットペダルを思い切り踏み込む。

 アドレナリン全開の最大ブーストでぶっちぎってやらぁ!!


 現在の時速、460㎞。

 よし、この速さならイケる!!


「トモメ殿、死ぬときは一緒でござるよ……」


「ちょっと黒いの!!?

 なに諦めてるんですか!!」


 目前に迫る極狭の空間。


 北関東最速と呼ばれたカリスマが、今、復活だ……!!

 

 俺は操縦桿を一気に真横へ倒す。


「ひゃぁぁぁぁぁ!?」


「きゃぁぁぁぁぁ!?」


 フライ・バイ・ライトと三次元偏向翼による鋭敏な機体反応が、全長15.3m全幅12.6mの機体をコンマ3秒で横倒しにする。

 遠心力と重力により引っ張られる体を無理やり押さえつけ、すぐさま操縦桿を元に戻す。

 時速460㎞という速度は、ローターが地面をする前に機体を平衡に回復させた。


「俺を誰だと思っている?

 群馬県民がこの程度の逆境で走りを放棄するなんてありえない」


 俺はそう吐き捨てて、目的地である高度魔法世界側の工場にドリフト決めながら到着した。


「さあ、高嶺嬢、白影、従者ロボ!

 さっさと降りて有用そうな物を軒並み掻攫かっさらってこい!!」

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