第十八話 高度魔法世界第3層
西暦2045年6月18日。
魔界第3層『濃霧大渓谷オオボーケ・グランドキャノン』を僅か4日間で降した日仏連合が、満を持して新たなダンジョンへ足を踏み入れた。
高度魔法世界第3層、そこは一面の銀世界に砲火と爆煙を塗りたくった戦場。
人類の最大勢力たる人類同盟と工業都市に立て
世界唯一の超大国アメリカ合衆国の女性は、新たに戦場へ足を踏み入れた
「高度魔法世界第3層はもはやダンジョンなどではないの。
ただの地獄よ」
先の大戦で中華の大地が極東の悪夢に焼かれ、今や地球最大の人口を抱える南アジアの雄インドの男性は、最高の敬意を捧ぐ戦友たる同盟国に対し、悲観に暮れた顔で愚痴を零す。
「日中は、火と煙がもうもうと立ち込め、一寸先も見えない。
炎に照らし出された巨大な炉のようだ」
独立から100年、苦難を乗り越え東南アジア屈指の大国にまで成長したインドネシア共和国の男性は、過去のあらゆる戦争で共に戦ってくれた最も信頼する友邦に、己の見た地獄を誠実に告白し忠告する。
「ここは焼けつくように熱く、殺伐として耐えられないので、敵でさえ真冬の河に飛び込み、必死に泳いで対岸にたどり着こうとしたんだ。
悪いことは言わない。
ここは、止めておきなさい」
過去あらゆる戦場で負け、あらゆる戦争で勝ち馬に乗り続けたイタリア共和国の伊達男は、一目で恋に落ちた見目麗しき二人の美姫を警告交じりに口説く。
「まともな奴はこの地獄から逃げ出す。
どんなに硬い意志でも、いつまでも我慢していられない。
狂人だけが耐えるんだ。
頼む。
私が狂う前に、人の暖かみで私を包み込んで貰えないだろうか」
「おぉ神よ、なぜ我らを見捨て給うたのか」
高度魔法世界第3層に侵攻した俺達チーム日本は、スタート地点の近傍に設けられていた共同の飛行場にて臨時拠点を設営。
親日国と
今回のフィールドは、南北に流れる大河の西岸に築かれた市街地を中心に設定されている。
敵は総司令部や飛行場を東岸に設置し、市街地には強固な前線基地を建造して戦線を支えていた。
敵兵力は確認できただけでも前線に21個大隊21000名、前線基地付近に1個旅団6000名ずつ配置され、総司令部や飛行場近辺に1個師団15000名が籠城。
想定される敵兵力はおおよそ50000名超、1個軍団規模だ。
人類同盟は森林地帯と河川を活用し、
中央部で特典持ちを集中運用することにより、中央戦線では敵兵力を大きく押し込んでいた。
このまま市街地に侵攻すれば、苦戦は免れないだろうが、攻勢箇所の市街地は最も薄い。
同盟は即席の巨大トーチカである戦略原潜を1隻温存している。
それを効果的に活用できれば、敵飛行場の陥落も難しくはないだろう。
ただ、懸念点があるとするなら、俺達が高度魔法世界第2層を攻略時に出現した敵ガンニョムの姿がないことか。
第2層では存在しなかった敵の航空兵力や装甲車両こそ確認できているものの、より脅威度の高いガンニョムが出現していないことは、敵もまだ隠し玉を持っていることに他ならない。
階層ボスとしてか、それとも指揮官クラスとして出現するのかは分からないが、警戒しておく必要がある。
ゴオオオオオォォォ
航空機のタービン音。
もう慣れてしまった音だが、聞こえてくる音は今までで最も騒々しかった。
臨時拠点として設営された大型テントから出ると、視界に広がるのは第3層が解放された時点で既に存在していたという共同飛行場。
4000m級と2500m級の滑走路が2本ずつ設けられた広大な飛行場に、
飛行場に隣接して建造された格納庫は、新しい機体をゾロゾロと吐き出している。
同盟の航空戦力の主力であるUFA-16。
低性能な無人機だが、1機あたり1200万$と安価なため、損害を無視して気軽に使える凡庸でありながら傑作機。
しかし今回はその隣に見慣れない機体が並んでいた。
UFA-16と同様の鼠色で計上はのっぺりとした卵型の無人ヘリコプター。
軍事超大国アメリカ合衆国が、第3次大戦中に開発した多目的無人回転翼機MQ-14か。
その装備は高度にモジュール化されており、あらゆる任務に対し柔軟に対応できる名機。
それがこちらも100機を超える大群を成している。
その胴体には20㎜ガンポッドと短SAM (対空ミサイル)、ATM (対戦車ミサイル)が装着されており、紛うことなき対地攻撃仕様だ。
同盟が誇る数百機の無人機による大航空部隊が、けたたましい暖機運転の音を
後続で参戦した日仏連合が態勢を整えている中、人類の攻勢が始まろうとしていた。
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