第十七話 プチトマトからキュウリへ

 スキル『魔石付与』。

 ダンジョン魔界第3層を攻略したことで、俺が得た新たなスキル。

 対象に魔石を付与することで、対象の潜在能力を引き出し、底上げする素敵技能。

 ちなみに付与できる魔石はスキルの熟練値に準じるから、国力に飽かせたブルジョアプレイはできないクソスキルだ!


 現在、おれの魔石付与は30の熟練値。

 つまり、付与できる魔石は30個だけ。

 格好つけて、『物置から魔石を一人100個ずつ持って来い』とか言ってたが、70個ずつ余らせちゃったというオチ。

 誰だよ!!

 そんなこっぱずかしい状況にさせた奴は!!?


 俺でした。


「トモメ殿、カフェオレのお代わりはいるでござるか?」


「もちろん!」


「ぐんまちゃん、クッキーが焼けましたよ」


「頂こう!」


 白影が淹れてくれたカフェオレと、高嶺嬢が作ってくれた焼きたてクッキー。

 まろやかな甘みが、日仏両国民2億人の前で盛大に恥を撒き散らした俺の心を優しく包み込む。

 この戦争が始まって1カ月を越したが、俺の舌は順調に肥えてきている。

 もうカップ麺なんかには戻れないね!


 隣のテーブルでは、魔石を付与された従者ロボ達が、猛烈な勢いで高嶺嬢お手製のクッキーをパクついている。

 その姿は付与前と寸分の違いもなく、何の変化もしていない。

 費やした膨大な資源のこともあり、口に出しては言わないものの、ついつい俺って無駄なことをしたんじゃないかと思ってしまう。

 ただ、白影曰く、従者ロボ達から感じる圧力が付与前と比較して確かに増しているらしい。

 高嶺嬢曰く、プチトマトがキュウリになった感じ。


 いや、分からんわ。


 なんだよ、プチトマトとキュウリって。

 どっちも野菜やん。

 せめてプチトマトが普通のトマトになった感じとかって言って欲しかったな!


 まあいい。

 狂戦士はともかく、白影の言葉を信用するなら、従者ロボに付与した魔石はしっかりと彼らの力になっている。

 間違いなく戦闘力は向上していることだろう。


 従者ロボの戦力もそうだが、高嶺嬢と白影も順調に能力を高めてきている。

 高嶺嬢は相変わらずMP、知能、幸運がクソだけど、その他の能力は破格の一言。

 全高20m全備重量40tのガンニョムを差し置いて、人類最強と呼ばれるに不足ない戦闘力。

 白影は典型的な機動力重視のステータスだが、打撃力の不足はカトンジツが、耐久力の不足は『当たらなければ問題無い』を地で行く機動力がカバーしている。

 高嶺嬢すら上回る敏捷値は、人類最速の名をほしいままにする。


 人類最強格を2体擁する強大な戦力。

 後方で支えるのは、1000万tの資源を毎日供給されて元気一杯な西太平洋の覇者、400万tの資源により息を吹き返しつつある欧州の大国。

 日々成長する莫大な国力に物を言わせた潤沢な財源。

 先進科学の結晶である無人機による支援体制。


 改めて思い返してみると、俺達の陣営ってとんでもねぇわ。


 欧米列強を中心に67ヵ国が加盟する人類同盟や東側諸国が中核となり33ヵ国が加盟する国際連合相手に、たった2ヵ国で対抗できているのも納得だ。

 こんな陣営が軽快なフットワークでヌルヌル動き回ってたら、そりゃあ警戒されるのも無理はない。

 

 そんな俺達日仏連合は魔界第3層を攻略開始から4日で制覇した訳だが、他のダンジョンは未だに制覇される気配がない。

 現在、エルフやケモ耳の高度魔法世界、天使の末期世界、機械の機械帝国が攻略中であるものの、伝え聞く限りでは中々上手くいっていないらしい。

 最大勢力たる同盟は、事前の会議で機械帝国に色目を見せていたが、結局古巣の高度魔法世界に舞い戻って攻略している。

 だが戦況は思わしくないようだった。

 同盟と張り合っている連合は、いつも通り機械帝国に侵攻したものの、今回の階層は上下の移動が激しくて装甲車両が有効に活用できず苦戦しているっぽかった。

 主力を戦闘ヘリにしたは良いが、戦車に比べて損耗率が馬鹿にならないそうだ。


 うーん、どこも大変ねー。


 政治的に考えれば、俺達が次に攻略すべきは二大派閥と利権がかち合わない末期世界だ。

 しかし、考えることはどこも同じ。

 きっと末期世界には、列強の目が向いていない今がチャンスとばかりに、第三世界諸国が群がっているはず。

 ルクセンブルクの件で、他国に取り残された日仏邦人の保護のため、こちらが物資支援をするという悪例を作ってしまった。

 今の状況で下手に困窮した失敗国家と接触を持ってしまえば、他国内の邦人を人質に支援を引き出されかねない。


 そうなる前に同盟や連合と話し合って、他国民保護に関する国際基準を何としてでも設けたい。

 恐らくは海外にいた国民に関しての事情は、列強ならどこも同じはずだ。

 こちらが足元を見られて舐められない限り、交渉は円滑に進むだろう。


「トモメ殿、腕の端末がピカピカしてるでござる」


「あっ、本当だ」


 白影に言われて、端末に新しいミッションが届いていることに気づく。

 どうやら思考に没頭し過ぎたようだ。


『ミッション 【新しい研究材料を収集しよう】

 高度魔法世界の魔道機器を本国に送りましょう

報酬 LJ-203大型旅客機 4機

依頼主:日本国国土交通大臣 石破仁志

コメント;資源の置き場に困り始めました』


 次の攻略先は俺の意思と関係なく決定してしまった。

 まずは人類同盟か。

 できれば話しやすい国際連合が良かったんだが、まあ、仕方ない。

 精々舐められないように、派手に行くとしよう。

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