第十六話 新スキルと廃課金
「ぐんまちゃーん、朝ですよー」
久々に柔らかいベッドの中で迎える爽やかな朝。
俺の朝は、
「ぐーんーまーちゃーん、あーさーでーすーよー!」
鈴のような声が耳に突き刺さるのと同時に、脳裏に思い浮かぶのは脱兎の如く逃げた彼女の後姿。
「ぐぅぅんぅぅまぁぁちゃぁぁぁぁん! あぁぁさぁぁでぇぇすぅぅよぉぉぉぉ!!」
手早く着替えながら、今日はどんな顔をして彼女と会えば良いのか頭を悩ます。
昨夜、もしも美少年1号が割り込まなければ、どうなっていたのだろうか。
それを想像するだけで、顔が火照りと同時に白影のことも頭に過ぎる。
「ぐぅぅぅぅぅぅんぅぅぅぅぅぅぅまぁぁぁぁ————」
「あー、その…… おはよう、高嶺嬢。
今日も、良い朝だな」
いつも通りの挨拶を心掛けたつもりだが、どうしても言葉が澱んでしまう。
高嶺嬢の方も微妙に調子を取り戻していないようで、いつもならすぐに返ってくる返事もなく、少しだけ硬直している。
「…… ふふ、おはようございます、ぐんまちゃん」
少しの沈黙の後、柔らかく微笑む高嶺嬢。
昨夜食堂を出た後にどのような心境の変化があったのかは分からない。
彼女の顔が僅かに紅くなっているのは、俺の気のせいという訳でもないだろう。
「朝ごはん、出来たようですよ!」
それでも、努めていつも通りに振舞おうとする彼女。
俺も彼女に合わせ、普段のように振舞えているのだろうか。
焼きたてで湯気の立つクロワッサンとパン・オ・ショコラは、外はサクサク中はしっとりという黄金律。
シーザーサラダの上にはプルプルの半熟卵がのっており、食卓に鮮やかな花を添える。
芳しいコンソメスープは具材がたっぷりと入っており、一口飲めば一日の活力がほんのりと湧く。
デザートに用意されたヨーグルトには、色とりどりのフルーツとジャムが添えられており、好みに合わせて様々な味わいをさっぱり楽しめる。
食後に飲むカフェラテは、朝食の余韻を綺麗に纏め、今日の始まりを優しく告げた。
「ごちそうさまでした。
いやあ、今日も美味しかった」
「…… ご馳走様でした」
「お粗末様でござる」
白影お手製のフランス風朝食。
和食にはない色と味は、朝から格別の満足感を与えてくれた。
高嶺嬢もそうだが、白影も驚異的なレベルの料理の腕を持っている。
君達ガチモンのお嬢様だよね?
使用人とかが料理を作って、お嬢様本人は料理なんてしないという思い込みは、このダンジョン戦争で見事に崩れ去ってしまった。
どうやって淹れたのかコーヒー豆の芳醇さを損なっていないカフェラテを口に含めば、ミルクのまろやかさの中に砂糖の甘みをほんのり感じる。
空調の効いた食堂内で迎える穏やかな朝の幕開け。
いいね!
やっぱり文明人はこうでなくちゃ!
対面の席では、高嶺嬢と白影が剣呑な雰囲気でぼそぼそと何やら話し合っているが、その光景も見慣れた朝の一幕。
喧嘩するほど仲が良いと言うし、話し合いは相互理解の第一歩。
お互いの交流を存分に深めて貰いたいものだ。
俺は見目麗しい二人の淑女から目を逸らし、腕に装着された端末を覗き込む。
魔界第3層を攻略してから、魔石の回収やら怒れる高嶺嬢への対応やら、なんだかんだあってステータスをじっくり見ることができなかったんだ。
軽やかな手つきで端末のディスプレイをタッチし、俺達のステータス画面を開いた。
『上野群馬 男 20歳
状態 肉体:普通 精神:普通
HP 9 MP 34 SP 14
筋力 11 知能 19
耐久 9 精神 20
敏捷 11 魅力 11
幸運 22
スキル
索敵 120
目星 40
聞き耳 60
捜索 60
精神分析 30
鑑定 60
耐魔力 40
魔石付与 30』
『高峰華 女 20歳
状態 肉体:健康 精神:警戒(大)
HP 40 MP 2 SP 40
筋力 42 知能 2
耐久 38 精神 27
敏捷 42 魅力 21
幸運 4
スキル
直感 140
鬼人の肉体 35
鬼人の一撃 30
鬼人の戦意 20
我が剣を貴方に捧げる【捌】 21
装備
戦乙女の聖銀鎧
戦乙女の手甲
戦乙女の脚甲』
『アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィー 女 20歳
状態 肉体:健康 精神:警戒(大)
HP 15 MP 22 SP 24
筋力 18 知能 13
耐久 18 精神 6
敏捷 48 魅力 21
幸運 4
スキル
超感覚 100
隠密行動 80
投擲 80
耐炎熱 80
無音戦闘 50
空中戦闘 60
妄執 85
装備
黒い頭巾
黒い装束
黒い手甲
黒い脚甲』
22式大規模燃料気化爆弾の5発同時起爆が利いたのか、俺のステータスが結構伸びている。
それに『魔石付与』という新しいスキルも追加された。
鑑定で調べてみれば、対象に魔石を付与できるらしい。
そのまんまじゃねぇか!
魔界第3層を攻略した際の通知文に『美少女 美少年 の 成長 が解除されました』とかあったし、どうせ従者ロボに魔石を付与すれば成長するとかだろ?
それに今まで指揮官クラスの敵から採取できていた通常よりも大きな魔石、それらもこのスキルで上手い感じに活用できるはずだ。
高嶺嬢のスキルが微妙に変化していたり、白影が新しいスキル得ていたり、白影の年齢が1つ上がっていたりと、気になる箇所は沢山ある。
だが今は……!
「おい君達」
隣のテーブルでワイワイやっていた従者ロボ16体が一斉にこちらを向く。
「物置から魔石を一人100個ずつ持って来い」
とりあえず資源1600万t分、注ぎ込んでみようか!
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