第八話 不幸な誤解でとばっちり
「———— それでトモメ殿、どう対応するでござるか?」
彼方の空からだんだんと近づいてくるヘリコプター。
ルクセンブルク大公国の国籍マークが描かれた4機の編隊。
それらを眺めながら、白影が対応策を聞いてきた。
うーん、難しい!
ルクセンブルクは、人類同盟にも国際連合にも加入していない第三世界国家。
4機の編隊を構成しているので、そこそこの派閥なのだろうが、正直なところ全くのノーマーク国家だ。
所属する探索者がどのような人物かも
そもそも彼らが爆心地方向に向かって来ている理由すら、定かではないのが現状だ。
派手な爆発故に偵察目的かもしれないし、援軍として助太刀に来ようとしているのかもしれない。
もしかしたら広範囲の爆発で死亡した魔物から、魔石だけを掠め取ろうとする可能性すらある。
なんにせよ警戒しておくことに間違いはないが、大規模燃料気化爆弾によって広範囲が酸欠・高温状態になっており、迂闊に爆発エリアへ侵入することもできない。
「彼らの目的が分からない以上、場当たり的な対応しか取れないな」
俺の言葉に心なしかシュン、とする白影。
まさか撃ち落とす訳にもいかないし、そんなに落ち込まれても仕方がない。
4つの並行世界を相手に人類存亡の戦争を行っている現状、例え相手が少々卑劣な真似をしたとしても、手荒な対処は難しい。
なにせダンジョン戦争に直接参加できる人数は、各国でそれぞれ男女2名のみ。
全世界で400人程度しか参戦しておらず、そこから今までにそれなりの人数を消耗している。
地球人類にとって、同じ重さの宝石よりも貴重な探索者。
とてもじゃないが、探索者同士の潰し合いなんて起こせる状況じゃない。
「ルクセンブルクの公女様達のことなら、オレっち、知ってますよ!」
手を拱いている俺達に降って湧いた手掛かり。
声の主を見れば、アンドラ公国の男性探索者がまるで俺が主役だ、と言うかのように輝いていた。
俺が続きを促せば、待ってましたと言わんばかりに話し始める
「ルクセンブルクの探索者は公女様なんすよ。
今の所、そこまで目立った功績はないんですが、その出自故のカリスマ性と最新兵器を駆使した堅実な戦術、配下の国家に対するきめ細やかなサポートで着実に勢力を広げてるっぽいっす」
ほう、確かにルクセンブルクは戦争のたびに道路となるベネルクス道路三国の一角だが、その工業力は身の丈に合わないものを持っている。
国家規模がちっぽけなので、そこまで大量の戦力を用意することはできないだろうが、小規模でなら最新兵器で身を固めることも十分可能だ。
一国のプリンセスという旗印、それなりの戦略眼さえあれば、それなりの数の中小国家を率いることもあり得なくはない
「今はだいたい十数人くらいで活動していて、この階層でも既に100体以上の敵を倒してるらしいっすね」
魔界第3層で100体狩り!
雑魚揃いの第三世界諸国の一派閥としては破格の戦果だな。
この階層の魔物からはだいたい1体あたり、種族にもよるが2~5個の魔石が採れる。
数百万tという物資は、国力の貧弱な第三世界国家ならある程度分け合っても、それなりに満足のできる量だ。
改めてヘリの編隊を見れば、何となくだけど精鋭っぽい雰囲気を感じるような気がしなくもない。
底辺国家がヘリを4機も揃えるなんて、頑張ったじゃないか。飛行型のドラゴンがいるこの階層でヘリとか、ただの自殺じゃないか。そう思ってほっこりしていた俺の気持ちに、ちょっぴりぴんの警戒心が混ざりこむ。
「あー、トカゲが出てきましたよー」
高嶺嬢が指差す方向に目を向ければ、爆心地からそこそこ離れた場所から、1体のドラゴンが飛び出してきた。
10mを超える体長、赤い鱗、なんか火を吐いてる口。
恐らく指揮官クラスの個体だろうか。
遠目からでも分かりやすいほど怒り狂っている。
「ウヒョー!
あの爆発で生きてるってマジかよ!?
マジ山マジ男っすか!!」
アンドラボーイが驚いている。
あんまり緊張感がなさそうだが、彼なりに驚いてはいるのだろう。
ドラゴンは煩いローター音を響かせるヘリの編隊に目を向けて、ビックリするくらい吠えまくっている。
きっと先程の爆発は彼らの仕業だと、勘違いしているのだろうか。
真犯人は君の真後ろにある高地で隠れているんだけどね!
そんなこととは露知らず、ドラゴンはヘリの編隊目がけて凄い勢いでかっ飛んでいった。
やべえよ、
おこなの? って聞いたら、おこだよ、と真顔で返してくるパターンだよ……!
「なんてことだ。
このままではヘリ4機で指揮官クラスのドラゴンとぶつかることになるぞ」
とりあえず国民の目があるので、如何にも悲劇が起きてしまった、みたいな感じのセリフを言ってみる。
内心は高笑いだが、ポーズって大事だよね!
他国の利益は奪うもの、他国の不幸は蜜の味、そんな本心はそっと心にしまっておくぜ!!
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