第九話 無茶振り

『ミッション 【友邦を救おう】

 日本企業の欧州本社が集中するルクセンブルク大公国を助けましょう

報酬 LJ-203大型旅客機 4機

依頼主:日本経済連盟会長 岩崎松貴

コメント;戦後の日本経済のためにも、よろしく頼んだぞ』


『ミッション 【タックスヘイブンを締め上げよう】

 欧州最大の租税回避地ルクセンブルク大公国の物資補給手段を葬りましょう

報酬 LJ-203大型旅客機 4機

依頼主:日本国国税庁長官 中川昭二

コメント;戦後の日本財政のため、宜しく御願い致します』


 初めての複数同時に発令した端末ミッション。

 他国には公開されない日本からの秘密指令。

 報酬はいつもの如くジャンボジェットを4機ずつ。

 しかし、問題が1つある。


 2つのミッション内容が真っ向から対立してるってことだ!


 まさかの国内で対立ですか。

 政府と民間企業で利権のかち合いですか、そうですか…………

 ふぁー!?


 やべぇよ、こりゃあやべぇよ…… どうしよう?

 いや、どうしようもねぇよ!

 ふぁー!!?


 いや、落ち着け、クールになれ上野群馬こうずけともめ

 クールになるんだ。

 ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?


 ………… よしっ、落ち着いた!

 

 言われてみればルクセンブルク大公国は、世界的にも有名な租税回避地、所謂いわゆるタックスヘイブン。

 税金がとてつもなく安い国だ。

 というか、それしか取り柄のないコソ泥国家だ。

 企業にとっては、これほど都合の良い国家はなく、日本国国税庁にとっては、これほど忌々しい存在はない。


 民間企業の代表組織である日本経済連盟は、そんな都合の良い存在が潰れてしまうのは困るし、ルクセンブルクにいる少なくない日本人社員も心配なのだろう。

 日本の徴税を一手に引き受ける国税庁は、忌々しい存在を何としてでも追い詰め、最終的に自国に有利な国際租税条約を結びたいのだろう。


 どちらも言ってることは分かる。

 欧州であげる利益にかかる税金が安くなれば、日本企業の利益は拡大するし、その利益が流れ込む日本経済への貢献は大きい。

 しかし、欧州諸国に支払われるべき税金ならいざ知らず、本来ならば日本政府に支払われるべき税金の分まで租税回避されてしまえば、国家財政としては堪らない。

 日本経済的な利点では日本経済連盟に、国家財政的な利点では国税庁に手が上がるという難しい天秤。

 

 うーん、難しい。

 正直なところ、こんな問題を20歳の学生相手に押し付けるなよ、と言いたい。

 絶対、それぞれが勝手に依頼してるよ、これ。

 せめて日本国内では、意見を統一して欲しいものだね!


 あっちを立てれば、こっちが立たず。

 こっちを立てても、あっちが立たない。

 本当にどうしようもないな!

 イライラしてきた!!

 ぐんまちゃん、げきおこだよ!!!


「トモメ殿、苛立っているところ、申し訳ないのでござるが……」


 嫌な予感がする。

 白影が恐る恐るという感じに差し出してきた彼女の端末。

 端末画面には『Mission』の文字。

 うわー。


『ミッション 【親戚を助けよう】

 親戚のルクセンブルク大公国第1公女を助けましょう

報酬 エアブスA-620大型旅客機 1機

依頼主:ダッセーCEO フィリップ・ダニエル・ジャン・シュバリィー

コメント;本当に頼んだぞ、信じてるからな、あとトモメ・コウズケ君、君とは後で少し話を(字数制限)』


 フィリップ・ダニエル・ジャン・シュバリィー………… シュバリィー?

 パパじゃないか。

 NINJAパパじゃないか!

 パパはNINJAじゃないけど!!

 コメントって字数制限があったんだね。

 てか、話って何!?

 なんだか怖いんだけど!!?


 いや、今それは良いとして……



「アルベルティーヌさん、お姫様と親戚なのかい?」



「はとこでござる」



 そっか。




 嘘でしょ!!!?


「嘘でしょ!!!?」




「ほ、本当でござるよぉ」


 ふぁー、貴族だとは知っていたけど、王族と親戚って…… マジモンじゃないですかー、やだー。

 もう衝撃的過ぎて……

 うん。

 ぐんまちゃん、もうつかれちゃったな…………



「あー、トカゲが火を噴きましたよー」


「ふぁっ!?」


 高嶺嬢の指さす方向、そこではなんとまあ。

 ドラゴンさんがヘリコプターに向かって、火を噴いているではありませんか。

 遠目から見ても結構な火力。

 白影程ではないものの、航空機を撃墜するには十分すぎる。


 一瞬で俺の脳裏に走る保身の二文字。

 日本経済界からの不信。

 ルクセンブルク在住邦人の存亡。

 日本企業欧州本社の破滅。

 国税局からの喝采。

 NINJAパパからのOHANASHI。


 即座に高嶺嬢と白影へ指示を出そうとするも、俺の口から言葉が出てくることは無かった。

 ドラゴンの口腔から放たれた凶悪な火炎放射。

 それはヘリコプターの側面に展開された『模様が描かれた光の盾』によって、機体への到達を完全に妨げられていた。

 

 なぁにあれぇ?

 地球の技術にあんな防御兵器ありましたっけ?

 あるわけねぇよ。

 あんな効果のある装備なんざ、根拠地内の武器屋や防具屋にも売って無かったしな。

 うん、分からん!


 もういいや!

 なんか色々あり過ぎて疲れちゃったしな!!


 俺達日仏連合with愉快な他国民の達成すべき項目は————

 1つ、ルクセンブルク大公国を援助し、在留邦人及び戦後の租税に便宜を図らせる。

 2つ、ルクセンブルク大公国を追い詰め、日本に有利な租税条約を結ぶ。

 3つ、ルクセンブルク大公国第1公女の身柄確保。


 つまり何をすべきかと言うと————

 公女を誘拐してルクセンブルクの生殺与奪権を握り、好き放題に国際条約を結ばせる!


 うん、無理!!

 日本の国際関係全て破綻するわっ!!!

 

「とりあえず、白影は酸欠装備で戦闘空域の真下辺りまで進出して待機。

 追って指示を出すが、それまでは決して介入しないように」


 何とかして、ルクセンブルクに大恩をぼったくり価格で売り付けなきゃならない。

 どうか、ドラゴンがルクセンブルク大公国をギリギリまで追い詰めますように!!

 俺達は、ドラゴンの健闘祈願を…… 強いられているんだッ!!!

 頼む、ドラゴン!

 止まるんじゃねぇぞ……!!




「………… もぅ、黒いのばっかりぃ……!」

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