第十一話 魔界ダンジョン第2層 要塞陣地攻略戦
ドイツ、イギリス、フランスなどのEU諸国、アメリカ、カナダなどの北米諸国、中華民国、福建共和国、インドネシアなどのASEAN諸国。
この三つの国家連合が主体となって結成された組織こそ人類同盟。
異世界との代理戦争における、地球側の最大勢力である。
加盟国数60ヵ国を超えるこの超国家連合は、ガンニョム、NINJA、強化装甲歩兵などの決戦戦力を複数有し、質・量ともに圧倒的なまでの戦力を誇っていた。
人類同盟による魔界ダンジョン第2層での要塞陣地攻略戦。
当初の作戦では、ガンニョムの装甲と機動力で要塞正面を突破、その後、戦略原潜と強化装甲歩兵が内部に浸透し、要塞内の魔物集団を分断。
そうして分断された魔物集団を、無人兵器と探索者達で各個撃破、その間に要塞中枢部に潜入したNINJAが破壊工作を行う。
以上の作戦で、要塞陣地を攻略する予定だった。
しかし、その予定は、ガンニョムによる正面突破の段階で
『馬鹿な……! このガンニョムが、押されているだと!?』
想定外だった要素は2つ。
連隊規模と予想していた敵の兵数が、予想の3倍近い旅団規模だったこと。
そして、ガンニョムの搭乗者、フレデリック・エルツベルガーが想定外の大兵力に二の足を踏んで、要塞陣地外周部で
これにより、人類同盟指導者エデルトルート・ヴァルブルクは即座に当初の作戦を破棄。
占拠した要塞外周部に戦略原潜を2隻配置し、即席の前線基地として重火器による敵魔物集団の漸減を図った。
強化装甲歩兵と原潜乗員を中心とした射撃戦は、ガンニョムによる敵前衛の
『フハハハハ! このガンニョムを止められる者がいるものか!!』
飛行系魔物による航空戦力を有しているとはいえ、剣や槍、弓矢などの前時代的兵装の魔物達。
彼らは巨大な壁と化した戦略原潜に取りつくこともできず、幾多の火線によってバタバタと倒れていく。
『どうしたどうした! お前達如きが私に傷つけることなんてできないのさっ!』
断続的な魔物達の突撃を、原潜上に伏せていた探索者達が銃撃で持って歓迎する。
敵航空兵力には、高度なFCS(Fire Control System:射撃管制機構)が搭載されている強化装甲歩兵が、携行している12.7㎜M2重機関銃で接近を許すことはない。
『私は戦うことしか出来ない破壊者。
だから、戦う。
争いを生むものを倒す為に、この歪みを破壊する!
そうだ、私が! 私こそが、ガンニョムだ!!』
敵部隊被害甚大、戦況は我が方の優勢。
エデルトルートがそう確信した時、敵陣地内で走り回っていたガンニョムが、突如転倒した。
転倒したガンニョムの脚部は破壊され、ガンニョムの自己修復機能が白煙を上げて修復を開始している。
『うわぁぁぁぁぁぁ』
「双剣を持った巨大なゴブリンを観測!
奴がガンニョムの脚部を破損させたようです!!」
双眼鏡で敵陣地を観測していた者が、実行犯を早くも特定した。
突然の事態にフレデリックは混乱しており、すぐに態勢を立て直すことができないでいる。
「火線を巨大なゴブリンに集中させろ、ガンニョムの離脱を援護するんだ!」
エデルトルートの号令一下、半数の銃口がゴブリンに向く。
しかし、ゴブリンは素早くガンニョムの背後に回り込むことによって、射線から逃れたままガンニョムに追撃をかける。
『た、助けてくれー!!』
ガンニョムはジタバタと手足を闇雲に振り回すが、ゴブリンにそのような悪足搔きが通じるはずもなく、ガンニョムの装甲が剥ぎ取られていく。
エデルトルート達が援護しようにも、ガンニョムの巨体に射線が遮られているため、援護のしようがなかった。
あわやガンニョム喪失か。
エデルトルートがそう思った時、それまで原潜上で射撃していた強化装甲歩兵が、ガンニョムの元まで駆け付け、ゴブリンに対し12.7㎜弾の雨を降らせた。
弾丸をゴブリンに当てることは叶わなかったが、それでも強化装甲歩兵の迅速な行動によってゴブリンの撃退に成功する。
直近の脅威がいなくなったことで、フレデリックもようやく冷静さを取り戻し、無事な両腕を使って地を這いながら人類同盟の前線基地に帰投した。
ガンニョムの救出に成功した人類同盟だが、大型ゴブリンの脅威は未だ存在している。
突出した戦闘能力を持つ大型ゴブリンには、こちらも突出した単体戦闘能力を充てるしかないのだが、現在対応できるのは強化装甲歩兵のみ。
しかし、強化装甲歩兵は中長距離での射撃戦を得意としており、近距離型の大型ゴブリン相手では、接近されてしまえば分の悪い戦いとなってしまう。
最も有効な戦力たるNINJA白影は、開戦時にガンニョムの突撃に紛れて既に敵中枢部に潜入してしまっている。
彼女の行方を見失っているエデルトルートには、ガンニョムが倒れたことに気づいて彼女が引き返してくれることを祈るしかなかった。
だが、そんな彼女達人類同盟に後方から思わぬ援軍が到来する。
「おや、栄えある人類同盟の皆さんは、どうやら剣や槍で武装した原住民相手に大分
ロシア連邦の探索者アレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキー率いる国際連合84名が、戦場に到着した。
「本来だったら無視してやるところだが、今回だけは特別だ。
これより、国際連合は人類同盟と共同戦線を張ることを提案する、どうだ?」
アレクセイからの共同戦線の提案、暗にこれから得られる戦果を折半する提案。
しかし、自己修復には多くの時間を要するガンニョム、脅威となる大型ゴブリン、攻勢を強める魔物集団。
これらを前にした人類同盟にとって、国際連合からの提案に選択の余地などなかった。
「私は…… 人類同盟は、国際連合の提案を受け入れよう」
「よろしい、ならば今だけは、俺達は戦友だ」
人類同盟と国際連合、人類側戦力の過半数を擁する2大勢力の大連合が、魔界ダンジョンの大要塞を攻略するために結成された瞬間だった。
後に、国際連合指導者アレクセイは語る。
『あの時、気づかないふりして他のダンジョンに向かってれば良かったなー』
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