第二十五話 内輪揉め

 壁、天井、受付のテーブル、椅子、何らかのスイッチ。

 いずれも酷く巨大なもの。

 俺達人間ではなく、体高10mの巨大な金属生命体が使用することを念頭に置かれた近代オフィスは、まるで自分が小人になってしまったのかと錯覚させる。

 いや、実際に、このダンジョンの住人にとっては、正しく俺達は巨人の国に紛れ込んだ小人なのだろう。


 36機の42式無人偵察機システムがダンジョン内を哨戒しているが、その広さゆえに、中々哨戒範囲を広げることができていない。

 末期世界第1層攻略により、新たに2体加わって計6体となった従者ロボは、28式6.8㎜小銃を手に持ちながら周囲を警戒している。


 人間と比較し5倍スケールの金属生命体にとって、如何に28式小銃と言えども、どれだけの火力を発揮できるかは未知数だ。

 いや、むしろほとんど期待できない。

 例え、12.7㎜重機関銃を装備していても、十分とは言えないんじゃないか?


 やはりアレクセイ達と距離をとるためとは言え、装備変更もせずにダンジョン探索に向かったのは失敗だったな。

 だが、最新の大口径対物ライフル、口径30㎜の対物ライフルでも、体高10mの鉄塊相手にどれだけの効果を発揮できるかは分からない。

 高嶺嬢の持つ刀は、刃渡り120㎝の大太刀だが、巨大な機械にとってはちょっと長い針みたいなものだろう。


 未だに会敵していないが、もしかするとこのダンジョンは、今の俺達とかなり相性が悪いのかもしれないな。

 そう言えば、と俺は武器屋に戦車と戦闘機が売っていたことを思い出す。

 ダンジョンの広さを考えても、大型兵器の運用に支障はないはず。

 いや、操縦方法知らなかったわ。


 そこまで考えたところで、無人機が敵らしきものを見つけたようだ。

 しかし、次の瞬間には、無人機ごと敵らしき反応が消失した。

 撃墜されたね、これは。

 機械生命体にとって、電波ステルスと全環境型迷彩システムは、脅威足り得なかったらしい。


 どうやら本当に俺達とは相性が悪いみたいだ。

 そして、無人機を見つけたことで敵が活発化したようで、いくつかの無人機が次々にロストする。

 急いで無人機を呼び戻すも、6機がやられてしまった。


「高嶺嬢」


「なんですか、ぐんまちゃん?」


「今回は苦戦するかもしれない」


 流石にこのダンジョンでは、今まで同様に無暗に突っ込んで敵を蹂躙という訳にはいかない。

 俺の警告に高嶺嬢は、可愛らしい力こぶを作ることで返した。


「大丈夫ですよ、どんな敵が来ても私がやっつけちゃいますから!」


 朗らかに笑う高嶺嬢を見ても、俺の不安が晴れることはなかった。




 俺の目の前には、ガラクタと化した金属の塊が無数に転がっている。

 それらから飛び出ているチューブ。

そこから流れ出ている黒色のオイルが、白く清潔な床材を汚す。

バチバチと、時折引き千切られた電線から火花が散るが、その程度では引火しないようだった。


「勝っちゃったねー」


「刈っちゃいましたー!」


 全て俺の杞憂でした!


 体が巨大な分、内蔵する魔石は多いのか、一体の死体から採れる大量の魔石を従者ロボが採取している。

 その光景を眺めながら、俺は改めて高嶺嬢の化物っぷりを再認識した。

 いやー、つえぇわ、この娘。


 初っ端から12体の巨大ロボと相対した時は、無人機を突っ込ませて退却も考えたことが今では良い思い出だ。

 アニメや漫画でしか見たことがない巨大ロボを、少女が刀一本で叩き斬っていく光景は圧巻だった。

 そして予想通り豆鉄砲とかした28式小銃は、もう絶対このダンジョンには持ってこない!


 そのままダンジョンの探索を進めた俺達だが、一つの大きな問題にぶち当たってしまった。


「ぐんまちゃーん…… このダンジョン広すぎますよー…………」


 そう、全てが5倍スケールで作られているので、部屋と部屋を移動するのも一苦労なのだ。

 おまけに棚やテーブルの高さが高すぎるせいで、引き出しの中やテーブルの上を調べるのも重労働と化す。

 いくら高嶺嬢と言えども、高さ5m、10mクラスのテーブルや棚の上に飛び乗ることはまだできないため、無人機にロープを引っかけてきて貰って、それを伝ってよじ登ることしかできない。


 結果、一つの部屋を探索するのに1,2時間は平気でかかってしまう。

 そうしてやっとこさ、3つ目の部屋の探索を終えると、エントランスに潜ませていた無人機が異常を感知した。

 俺はタブレットを操作して、無人機からの映像を見る。


 エントランスには、アレクセイ達以外にも人々の集団が存在していた。

 アレクセイ達は、俺と話していた時には存在しなかった戦車やUAVを並べて、もう片方の集団と対峙している。

 もう片方の集団は、巨大なロボットや強化装甲歩兵、NINJAを擁していることから、高度魔法世界第1層を制した人類同盟のようだ。


 彼らの様子を見る限り、第三次世界大戦時の同盟と連合の両陣営ではっきり分かれていることが窺い知れる。

 しかし、まだお互いに銃を向けてはいないようなので、こんな状況で争うほどの険悪な関係ではないと思う。


 両陣営は、アレクセイと赤髪の女が代表で話し合っているようだが、話し合いはなかなか荒れているようだ。

 見たところ、女が何かを訴えているものの、アレクセイの方が素っ気なく断っているように見える。

 そして、そんな話し合いを見ている人類同盟側が、やや殺気立っているご様子。

 アレクセイ達連合側、仮称国際連合は、同盟側程ではないが、殺伐とし始めていた。


「こりゃあ、地球内部でも戦争あるかもな」


 こんな状況なのだから、もう少し仲良くできないものかねー。


「この隙に私達が利益を掠め取っちゃいましょー!」


 高嶺嬢からあからさまな漁夫の利発言が飛び出した。

 確かに第三次の時、我らが祖国日本は平和憲法を名目に同盟と連合の両陣営を、立場を明確にしないままのらりくらりと彷徨った。

 その挙句、戦争で工業地帯が壊滅した各国に対し、膨大な物資を人道支援という名目でどちらにも輸出し、莫大な利益を稼ぎ出していたな。

 そして戦争後半に憲法を改正して、同盟側に加入、艦隊戦力が壊滅した中露を圧倒的な海軍力で蹂躙していた。


 過去の歴史を思い出していると、人類同盟と国際連合の話し合いは決裂したらしく、お互いに武器を向けあって、臨戦態勢に入っていた。

 うん、ダンジョン探索どころじゃねぇな。

 俺は顛末を見届けないまま、タブレットの画面を切り替える。


「よし、ダンジョン探索を続けるぞ!」


「おー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る