第二十四話 人類同盟とロシア派閥

 ダンジョン探索7日目、いつも通りギルドにて本日のミッションをチェックしようとした時、それは表示された。


『高度魔法世界 において 第1層の解放 が達成されました

 【アメリカ合衆国 中華民国 福建共和国 インド イギリス ドイツ連邦共和国 フランス共和国……詳細】 が達成しました

 

 3日間 高度魔法世界 に侵攻することはできません

 【階層制覇 1 】が達成されました 達成者には 特典 が 追加 されます


 レコード は 125時間6分53秒 です

 【総合評価 A 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』


 どうやら人類連合は遂にダンジョン攻略に成功したようだ。

 達成国の詳細を見ると、見事に第三次世界大戦での同盟国陣営の国々が名を連ねていた。

 こんな状況でも政治に縛られるとは、全くもってご苦労なことである。


 そして今更だが、他国の攻略情報が全ての国に通達されることを知った。

 つまりは、現時点で俺達チーム日本が、2つのダンジョンの1階層を攻略していることは、他国にも筒抜けだったという訳だ。

 うん、まずい状況だ。 

 絶対政治ゲームに巻き込まれるよ、これ。


 高度魔法世界の第1層に攻め込んでいた連中が、同盟国陣営だったとすると、それと対になる連合国陣営もまた、纏まっていると考えるのが自然だろう。

 俺達が攻略した魔界と末期世界が過疎っていたことから、おそらくはロボットのダンジョンに彼らはいるはずだ。

 この後の同盟国陣営、仮称人類同盟の動向として考えられることは3つ。


 泥沼の戦況だったことから、戦力を整えるための休息。

 今日から解放される魔界第2層への侵攻。

 連合国陣営がいると思われるロボットダンジョンへの侵攻。


 この3つだ。

 こちらとしては休息してくれるのが一番ありがたい。

 まあ、特典のことを考えると、人類同盟がまごつく可能性は低そうだが。

 

「ぐんまちゃーん、早くダンジョンに行かないんですか?」


 俺が現状を考えていると、焦れたのか高嶺嬢が急かしてくる。

 腐っても総理大臣の孫なのだから、もう少し現状をしっかり考えてほしいな。

 俺は何も分かってなさそうな目の前の知能2に現状を説明してやった。


「へー、色々あるんですねー」


 戦後20年近く経過しても埋まらない参戦国間の対立を、色々で済ませた高嶺嬢は、俺の腕を掴んで無理やりダンジョンに引き摺っていった。

 やれやれ、これだから知能2は。




 そんなこんなで、やってきましたロボットダンジョン!

 ロボットダンジョンの扉の先は、オフィスビルのエントランスのような場所だった。

 見た目は地球と特に違いはなく、白を基調とした清潔そうな空間だ。

 もうちょっと金属が剥き出しのメカメカしいものを想像していた俺は、予想外の平凡な光景にやや肩透かしを食らってしまう。


 そして、考えていた通り、このダンジョンには先客がいた。


「おや、誰かと思えば快進撃を続ける日本じゃないか」


 エントランスの中央部にある大量の物資、そこにたむろしていた集団。

 その中から一人、強い知性を感じる鋭い眼つきが特徴的な、金髪青眼の青年が歩み出てきた。

 話す言語は、もちろん英語だ。


「初めまして、俺はアレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキー、ロシア人だよ」


 そう言って手を差し出す彼には、今のところ敵対的な様子はうかがえない。


「こちらこそ初めまして、ミスター・アレクセイ。

 俺の名前は上野群馬こうずけともめ、彼女は高嶺華たかみねはな。察しの通り日本人だ」


 お互い握手を交わしながら、相手の様子を探る。

 同盟国側じゃないよね? アレクセイの目が雄弁にその言葉を語っていた。

 第三陣営だよー。 俺がその意思を見せると、彼はあからさまにホッとする。


「トモメ達はこのダンジョン初めてだろ?

 良ければ俺が大まかに教えてやろう」


 アレクセイは鋭い眼つきながらも、精一杯の柔らかい笑みを浮かべようとしていた。

 努力は認めよう。

 アレクセイの提案は渡りに船だ。

 完全な善意の提案ではないのだろうが、それでも事前情報はありがたい。


 その後、アレクセイの話によると、このダンジョンのモンスターは案の定、扉に意匠されていたロボットだったらしい。

 ロボット達の武装は剣が主で、時々素手であり想像していたような現代兵器や未来兵器は、現状では装備していないようだ。

 しかし、ロボットは大きさが10m程と、人間の5倍ほどの体格を有しているので、現代兵器で武装していても苦戦は免れない。

 アレクセイの後ろに積まれている物資、その中にある大量の携帯型対戦車ミサイルが、ダンジョンでどのような戦闘が行われているのかを、彼以上に雄弁に語っていた。


 俺の手持ちの戦力は、ヒト型戦術兵器1人、重火器装備のロボット6体、無人機36機。

 もしも他ダンジョンのように、数百体の敵が現れた場合、火力が全く足りていなかった。

 ロボットに大口径対物ライフルを装備させたとしても、焼け石に水だ。

 ヒト型戦術兵器ならイケそうだが、流石に刀一本で5m級の鉄塊を相手にするのは骨が折れるだろう。


「見たところトモメ達の戦力は充実してそうだけど、流石に単独の探索は無理じゃないのか?」


 俺と同様、アレクセイも俺達の戦力を観察していたのだろう。

 現状の戦力では火力不足であることを見抜いてきた。

 彼は高嶺嬢の戦闘力を知らないから、そんなことが言えるんだろうね。


 そして続くアレクセイの言葉は、手を組もうぜ、か。

 無理無理。

 絶対に人類同盟との政治ゲームに巻き込まれちゃうよ。


 俺はパパっと断って、ダンジョン探索に乗り出した。

 悪いなアレクセイ、今日のノルマは各種魔石100個なんだ。

 馴れ合っている暇はないんだよ!!

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