第二十三話 桃缶に釣られた二十歳児
「いや、ごめん。申し訳なかったよ、本当に」
根拠地の食堂にて、俺はすっかりへそを曲げてしまった高嶺嬢に、ひたすら平謝りを続けていた。
「もー、私、本当にぐんまちゃんが死んじゃったかと思ったんですよー!」
ジト目でこちらを見てくる彼女に、俺はただただ頭を下げるばかりだ。
高嶺嬢に手持ちで唯一のポーションを使った後、俺はロボット1体を護衛に急いで根拠地までポーションを取りに向かった。
その際、高嶺嬢も連れて行ければ良かったのだが、彼女の肉や骨がゆっくりと蠢きながら再生していく様子から、動かすのは危険だと判断したのだ。
しかしその結果、高嶺嬢の単純かつ残念なオツムと、驚異的な直感が化学反応を起こして、何故か俺が死んだものと勘違いしてしまったらしい。
血が一杯 → 姿が見えない → 名前を呼んでも、直感で答える人はいないと感じる → ぐんまちゃんはいない → 死んだの!?
どうして、いない、と死んだがイコールで結ばれるのかは分からないが、彼女の中ではそうなってしまったようだ。
「まあまあ、そう言わずに」
俺は隠し持っていた高級桃缶を差し出した。
無人偵察機の補給の度に、梱包材の空いている空間に詰め込まれているお菓子や缶詰は、物資管理を一手に引き受ける俺が責任を持って管理している。
この桃缶もそのうちの一つだ。
「んんっ!
ま、まあ、私が早とちりしたのも確かですし、今回は仕方ないですねぇ」
ちょろい。
高嶺嬢は桃缶をしっかりと手元に確保しながら、見事に手のひらを返した。
所詮、知能2なんてこんなものか……
「……でも、こんな状況で、目が覚めたら一人で。
本当に…… 怖かったんですよ?」
桃缶をしっかりと握りしめながら、彼女は心細そうに目を伏せた。
その姿からは思わず庇護欲がそそられ、普段とのギャップにドギマギしてしまう。
忘れがちだが、高嶺嬢は総理大臣の祖父を持つ生粋のお嬢様。
当たり前だが、殺し合いの経験なんて有るはずがない。
それなのに、ある日突然代理戦争に巻き込まれたのだ。
しかも、仲間は俺一人。
そんな状況で戦闘中に意識を失い、目が覚めたら唯一の仲間である俺がいなくなっていた。
そりゃあ慌てるよ。
その上、死んだと勘違いしたら、泣き喚きもするだろう。
なにせ彼女はまだ20歳。
少女と言ってもギリギリ通用する年齢だ。
そんな彼女からしたら、俺は戦力的にはともかく、それ以外の面で頼れるべき存在なのだろう。
まあ、同年齢なんだけどね。
「………… ごめんね」
それでも、彼女の内心を慮って、最後にもう一回、真面目に謝った。
『ミッション 【今日も元気に魔石狩り!】 成功
報酬 LJ-203大型旅客機 2機 が 受取可能 になりました』
『ミッション 【末期世界 第1層の解放】 成功
報酬 道具屋 武器屋 防具屋 の 新商品 が 解放 されました』
『末期世界 において 第1層の解放 が達成されたので 第2層 が解放されます
3日間 末期世界 に侵攻することはできません
【階層制覇 2】が達成されました 特典 が 追加 されます
レコード は 121時間11分42秒 です
【総合評価 S 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』
ふふふ、笑いが止まらねぇぜ……
予定通り、俺達は2つ目のダンジョンも第1層制覇を達成した。
3日毎に1階層を解放しているペースは、相変わらず異常らしく、総合評価は前回と同様のSだ。
未だに第1層が解放されていないダンジョンは2つ。
人類連合軍(暫定)と泥沼の戦いを繰り広げているダンジョン、かっこいいロボットのダンジョン。
この2つだ。
まず、泥沼戦への介入は出来る限り遠慮したい。
今までも強力だった俺達の戦力が、今回の特典でさらに増強されるのだから、たちまち主力に祭り上げられて戦力を消耗させられるのが目に見えている。
最悪、敵対国家の人間にドサクサ紛れで攻撃されかねない。
となると、残りはロボットのダンジョンだが、正直な所、こちらも不安要素が沢山ある。
ダンジョンの敵は、十中八九ロボットだ。
そしてロボットは当たり前だが金属でできているだろう。
こちらのヒト型戦術兵器高嶺華の主兵装が刀である以上、常に斬鉄が求められるのは、彼女の消耗を著しく速めるだろう。
……たぶん。
まあ、明日からは魔界の第2層も解放されるのだし、先ほどの2つを飛ばして、第2層に挑戦するのも良いだろう。
幸い今回の報酬で資金が200億ほど増えることになるし、消耗してしまったポーションや新たな装備も余裕で購入できる。
敵が意図的に隠れていたせいか、索敵マップに反応しなかったボス天使との戦い。
あの戦いで消耗した大量のポーション、高嶺嬢や俺の装備、ロボットの武装など、補給すべき物資がそれなりに出てしまっている。
幸い日本の資源状況には余裕が出てきたみたいだし、明日は補給と休息に集中して、新しい世界を覗き見するくらいで良いのかもしれない。
俺は明日の予定を軽く考えて、得られた特典を確認するために二人分の端末を操作するのだった。
高嶺嬢は桃缶食ってもう寝た。
『特典 を獲得しました
上野群馬 は スキルポイント 20 を獲得しました
上野群馬 は ステータス が 向上 しました
特典 を獲得しました 貢献度 に応じた 特典 が 割り振られます
上野群馬 に 42式無人偵察機システム の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 に 美少女 美少年 の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 は スキルポイント 30 を獲得しました
上野群馬 は 新たな従者 を獲得しました』
『上野群馬 男 20歳
状態 肉体:消耗 精神:疲弊
HP 4/9 MP 22 SP 4/14
筋力 11 知能 17
耐久 9 精神 17
敏捷 11 魅力 11
幸運 19
スキル
索敵 43
目星 10
聞き耳 28
捜索 25
精神分析 10
鑑定 10
耐魔力 5』
『特典 を獲得しました
高嶺華 は スキルポイント 20 を獲得しました
高嶺華 は ステータス が 向上 しました
特典 を獲得しました 貢献度 に応じた 特典 が 割り振られます
高嶺華 は スキルポイント 100 を獲得しました』
『高嶺華 女 20歳
状態 肉体:健康 精神:消耗
HP 23/26 MP 1/2 SP 26
筋力 28 知能 2
耐久 26 精神 24
敏捷 30 魅力 19
幸運 4
スキル
直感 55
貴人の肉体 90
貴人の一撃 51
貴人の戦意 60
我が剣を貴方に捧げる 5
装備
戦乙女の聖銀鎧
戦乙女の手甲』
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