第十九話 くっころ!
結論から言おう。
天使っぽい翼と光の輪を持つ種族、仮称天使から魔石を採取することができた。
より詳細に説明するなら、天使は死ぬと頭上にある光の輪が光を失いつつ変形していき、魔石に変化する。
魔界ダンジョンでは、種族によって採取できる魔石の色が異なっていた。
オークは赤、ゴブリンは黒といった感じだ。
まあ、採取したばかりの新鮮?な状態では、モンスターの血によってどの魔石も真っ赤なのだが。
天使達から採取できた魔石の色は、バラバラだった。
高嶺嬢とロボットが倒した8体の天使から得た魔石は、赤3個、黒2個、青1個、黄2個だ。
どのような基準で色が決まるかは分からない以上、魔界の時の様に欲しい資源と交換できる魔石を集中的に狙うといった手法が取れなくなった。
また、天使の肉体や装備を調べてみたが、不思議な点が何個もあった。
まず肉体だが、俺と大差がなかった。
具体的に言うと、筋肉が無く、武器を握った事すらなさそうな体つきをしている。
さらに服装も戦いに向いているものではなく、ただの布切れとサンダルだ。
まるで民間人に槍を持たせて、そのまま戦場に連れ出したかのように感じてしまう。
思えば魔界の時も、樽や扉などを作る技術はあるくせに武器は持っていなかった。
俺達は階層をクリアする毎に、ステータスアップやショップで購入できる商品を増加させることができる。
それと同じく、敵側も何らかの制限が設けられていて、ダンジョンの階層が上昇するにつれて制限が解除されていくのだろうか。
もしそうなら、第2層となった魔界は、当たり前だが、攻略難易度が何かしらの形で大きく上昇するのだろう。
出現モンスターの変化くらいと考えていたが、少し考え直さなければならないな。
「ぐんまちゃん、このくらいの奴らなら各個撃破するまでもなく
不完全燃焼な高嶺嬢が、天使の頭部を蹴りながら今後の方針を聞いてくる。
確かに天使達はゴブリンにすらやられてしまいそうなほど貧弱だ。
高嶺嬢なら1000体や2000体くらい訳なく殲滅してしまえるだろう。
空に飛ばれたところで、俺達には銃がある。
七面鳥撃ちの如く撃ち落とせるはずだ。
まあ、それはともかく、死体で遊んではいけないね!
「ヘイヘーイ、ドンドンかかってこーい!」
次々と神殿群から天使達が飛び立ち、高嶺嬢に突撃していく。
お世辞にも統率はとれていなかったが、誰もが勇猛果敢に眼下の怪物へと挑みかかる。
そうした天使達の中には、時折、火の玉や、氷の槍などを発生させて打ち出す個体もいた。
あれがきっと魔法なんだろうなー、と思いながら、その個体が高嶺嬢の投げた槍で撃ち落とされていくのを眺める。
俺は周囲をロボットで固めて、高嶺嬢が敵を一身に引き受けている間に、哨戒で発見した敵の物資集積所らしき場所を
基本的には、粗末な槍と食糧、水が置いてあるだけだが、時々鑑定で何らかの特徴があったブレスレットや首輪なども保管されていた。
とはいえ、価値がありそうなものを取り尽くしたら、新たに武器屋で購入可能となったC4爆弾で建物ごと吹き飛ばしていく。
勿体ないとは思うものの、どんな寄生虫が紛れ込んでいるかも知れない食糧を回収したところで、食べることなんてないだろう。
10箇所目の集積所を吹き飛ばしたところで、空を舞っていた天使の姿が見当たらなくなっていた。
タブレットを見るに、天使は全滅したようだ。
そろそろ高嶺嬢と合流した方が良いだろう。
「あっ、ぐんまちゃーん!
大物っぽい奴はちゃんと捕まえておきましたよー!!」
高嶺嬢の元に辿り着くと、俺の存在に気付いたようで、魔石拾いを中断して駆け寄ってくる。
周囲の光景はいつもの様に夥しい量の死体で埋め尽くされていた。
そして、真っ赤に染まった神殿の柱に、一体だけ4つの翼が存在した跡のある天使が、4本の槍で
「お手柄だな、高嶺嬢」
あいつが大物っぽい奴か?
高嶺嬢を労ってからそいつに近づくと、彼女にやられた惨たらしい傷跡が嫌でも目に付く。
4つの翼の内、2つは切断され、残り2つは付け根の部分から引き千切られている。
四肢は完全に潰されており、所々から骨が皮膚を突き破っていた。
憐れにも生かされているその天使は、息も絶え絶えの癖に俺が近づくなり、血走らせた目で睨みつけてきた。
その目からは未だに戦意が衰えておらず、隙あらば俺の喉笛を食い千切らん勢いだ。
「俺の言葉は分かるか?」
思い出すのは魔界ダンジョン第1層のボスモンスター。
あのオークは、意思疎通こそできなかったものの、紛れもなく日本語を話していた。
ならば、より人に近い姿の天使なら、俺達と意思疎通ができるんじゃないかと思ったのだ。
しかし、俺の問いかけの答えは、さらに鋭さを増す視線のみだった。
「ヘイヘーイ、ぐんまちゃんの質問にちゃんと答えなさーい」
「―――ァッ!!」
こいつの視線に高嶺嬢は一本の指で答えた。
「早く答えて下さいよー」
「ァッ! ァァッ!!」
高嶺嬢はグチャグチャと突き入れた指を掻き混ぜる。
天使は必死に瞼を閉じようとするも、そんな抵抗が彼女を止めることなんてできる訳がない。
痛みに暴れたところで、四肢を潰されたうえ、4本の槍で貫かれた状態では、彼女の指からは逃れられない。
それを間近で見せられた俺は、思いっきりドン引きしていた。
コイツヤバい!
改めながらそう思う。
「あーあ、空っぽになっちゃいましたねー」
そう言って指を抜くと、確かに空洞になっていた。
中に入っていたモノは、ドロドロと天使の頬を伝っている。
うわー、温泉卵しばらく食べられないわー。
そして、高嶺嬢は何を思ったか、もう片方に指を這わせた。
「次は抉り出しますよー?」
こいつはやべぇ。
間違いない。
『くっ、ころせ……!』
突然、頭の中に直接声が響いた。
かの有名なくっころだ!
「はーい」
「あっ、ちょっ……」
俺の制止する間もなく、高嶺嬢は天使の頭を握りつぶした。
「え、えぇー」
殺しちゃった……
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