第二十話 なんだかイケそうな気がしてきた日本

「ううぅ、ずみまぜんでしだぁ」


 俺の服を掴みながら、高嶺嬢がずっとべそをかいている。

 どうやら、敵の言葉に乗せられて、尋問中に殺してしまったことで予想以上に落ち込んでいるらしい。

 俺としてはそこまで気にしてない。


 元々彼女が捕獲した敵だ。

 それにあの様子では、例え尋問を続けていたとしても、アへ顔ダブルピースにでもならない限り、あの天使が口を割ることは無かっただろう。

 そんなことよりも、敵の頭蓋を握り潰した手で俺の服を掴まないで欲しい。

 もちろん、口には出せないが。


「良いって、良いって。

 仕方ないって」


 俺は神殿群にC4を仕掛けながら、彼女を励ますも、中々頑固なようで一向に泣き止まない。

 面倒臭い女だな!

 

「わだじ、もっと頑張りまずぅ」


「うんうん、君にはこれからも期待してるから!

 大丈夫だから!」


 俺がせっせと爆薬を仕掛けているのは、言うまでもなく明日の探索の為だ。

 今回の探索で得た魔石は、各種合計400個。

 初回なのかやや少なめだが、普通に考えれば大収穫だ。

 そして、これだけ殺せば、次回までにモンスターはより多く補充されるだろう。


 そいつらが、スタート地点の台座近くに潜まないとは限らない。

 魔界ダンジョンでは、殲滅するたびに魔物達はより戦術的に進化していた。

 ここでもそうならない保証はどこにもない。

 俺達が現在制圧している地域に歩哨を置ければ良いのだが、たった二人ではそれも厳しい。


「わだじぃ、今までもがんばっでまじだがぁ?」


「うんうん、頑張ってる頑張ってる。

 色んな意味ですげぇよ、君は本当にすげぇよ」


 俺は考えた、開戦ブッパかますしかねぇな、ってね!


 その結果が、スタート地点の周囲数十箇所の神殿に仕掛けられたC4爆薬だ。

 今や俺の指先一つで、半径200mのあらゆる建造物が盛大に爆破される。

 もちろん俺達以外の探索者が巻き込まれないように、スタート地点の台座の上には英語の看板で爆弾の事を説明済みだ。

 他の探索者からすれば傍迷惑はためいわくな話だが、英語で看板を作製したので、俺達チーム日本の仕業だとはばれないだろう。


「わだじのごど、あぎれだりじないんでずがぁ?」


「しないしない、頼りにしてるよ?

 いや、本当にね」


 そこまで考えて、俺はとんでもないことに気づいてしまった。


 俺のやった裏工作、日本政府に生中継されとるやん!


 最近は端末からのミッションが無いので、すっかりその事実を忘れてしまっていた……!


「ぐぅんまぁぢゃぁぁぁぁぁぁん!!」


「ぐぇっ」




『ミッション 【乗り切れそうな気がしてきました】

 資源チップを納品しましょう

 鉄鉱石:100枚 食糧:50枚 エネルギー:200枚 希少鉱石:100枚

 非鉄鉱石:100枚 飼料:50枚 植物資源:50枚 貴金属鉱石:50枚

 汎用資源:10枚

報酬 LJ-203大型旅客機 2機

依頼主:経済産業大臣 鈴木市太郎

コメント;国民全員が応援してます!』


 開始5日目にして日本はなんかイケそうな感じらしい。

 そして要求に遠慮がなくなってやがる。

 まあいい、こうなったら祖国を資源大国にしてやるのも一興と言うものだ。

 

「よっしゃ、今日も元気に天使狩りだ!」


「おー!」


 扉を開いて、チラッと確認。

 台座周辺の神殿群は、昨日と同じく静けさを保っている。


『目星』『捜索』『聞き耳』


 いつもの3セットをこなすと、出るわ出るわ。

 全ての神殿から発光し、数えきれない程の息遣いが耳に入った。

 俺は迷わず、起爆スイッチ機能もあるタブレットをタッチする。


『――――――』


 一瞬だけ凄まじい音が聞こえると、その直後から何も聞こえなくなる。

 目の前に広がる凄まじい砂埃は、台座の上には見えない壁があるのか、侵入できていない。

 その分、台座周辺を埋め尽くし、辺り一面灰色だ。


 全く何も見えない。

 そして、何も音が聞こえない。


 振り返って高嶺嬢を見ると、俺と同じような状況だった。

 流石の耐久24も、ここまでの爆音は防ぎきれなかったようだ。

 俺は迷わずポーションをお互いの耳に垂らした。


 開戦ブッパはロマンだけど、今度からは耳栓しよう。

 



「瓦礫だらけですねー」


「そうだな」


「何も見つかりませんねー」


「そうだな」


「おっ、敵が出てきましたよ」


「3時の方向、敵航空戦力に対し射撃開始」


 号令一下、ロボット達から伸びる4本の火線に、新たに出てきた天使達が次々と絡め取られていく。

 対空射撃用に持って来ていた12.7mm M2重機関銃は、如何無くその威力を発揮したようだ。


 しかし、敵はすぐに学習し、密集体形を解いて空中に広く分散した。

 まあ、そうするよな。

 普通はそうする。

 というか、そうするしか方法がない。


 ちょうど良いタイミングで、重機関銃の弾も撃ち尽くした。

 3割は撃ち落とせたが、5割は健在、残り2割は重軽傷。

 所詮4門の対空射撃では、こんなものだろう。


「高嶺嬢は中央に突撃、美少女は右翼を、美少年は左翼を射撃」


「ヘイヘーイ、今日は良いとこ見せちゃいますよー!」


 神殿の屋根から屋根へ飛び移っていく高嶺嬢を見送ると、武装を重機関銃から30式6.8mm軽機関銃に変更したロボット達が射撃を開始した。

 俺は対空射撃も考慮して、いつもの26式短機関銃から28式6.8mm小銃に変えている。

 まあ、俺では銃を変えたところで、飛行中の敵には当たらないんだけどな。

 その癖、26式と比べて重いのが、地味に辛いところだ。


「今日のノルマは7、800体か?

 やれやれだぜ!」


 どうやら今日も夜帰りのようだ。

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