第十七話 新たなダンジョン

 ダンジョン『魔界』の第1層を制覇した昨日は、ギルドで報酬を貰った後、夕食を食べてからパパッと買い物した。

 購入した商品は各種回復アイテムと二人の防具、高嶺嬢のサブウエポンだ。

 そして特典と新たな装備で超強化された高嶺嬢・改の性能がこれだ。


『高嶺華 女 20歳

状態 肉体:健康 精神:正常

HP 24 MP 2 SP 24

筋力 24 知能 2

耐久 24 精神 24

敏捷 28 魅力 19

幸運 4 

スキル

直感 35

貴人の肉体 50

貴人の一撃 25

貴人の戦意 30

我が剣を貴方に捧げる 1

装備

戦乙女の聖銀鎧

戦乙女の手甲

戦乙女の脚甲』


 人外。

 元から普通の人間ではなかったが、高嶺嬢・改はまさに人間兵器という言葉がふさわしいものになっている。

 特典は貢献度に応じたものになっているので、薄々感づいてはいたが、高嶺嬢はスキルポイントを合計100ほど獲得していた。


 肉体性能に至っては、敏捷+4、筋力では+6という化物ぶり。

 そして何故か+1上昇している魅力。

 最も気になるのは、新スキルの『我が剣は貴方に捧げる』だ。

 これはあれか?

 俺への忠誠度みたいなものだろうか。


 まあ、戦力が大幅に向上したのは間違いない。

 高嶺嬢以外にも、新しくロボットの『美少女』と『美少年』が1体ずつ加入し、これでロボットは4体となった。

 無人機に至っては20機も保有している。

 高嶺嬢は別格としても、それなり以上に戦える戦力と言えるだろう。

 だからこそ、俺は新たな一歩を踏み出すことにした。


「高嶺嬢、今日は他のダンジョンに行ってみないか?」


 朝食の席、高嶺嬢が作った完璧な日本式朝食を食べながら、さり気無く提案をしてみる。

 

「いいですよー」


 高嶺嬢は悩む素振りも見せずに、呆気なく賛成してくれた。

 よし、これで俺の『特典独占大作戦』への第一歩が踏み出せた。


 自分と高嶺嬢のステータス、ロボットなどの自陣営戦力を眺めながら、俺は思った。


 そうだ、独占しよう!


 昨日のミッション報酬画面を信じれば、俺達チーム日本は代理戦争中の地球勢力の中では、トップを独走していることになる。

 そんな俺達は、3日でダンジョン第1層を制覇し、特典と報酬を手に入れた。

 そして、他のダンジョンの第1層はまだまだ攻略中だ。


 なら、俺達の戦力優勢を活かして他国を出し抜き、特典を軒並み掻っ攫うしかないだろう!

 

 日米同盟? もはや完全な有名無実だろ、ヤンキー共は引っ込んでな!

 近隣諸国との友好? 20年前、派手に殺りあったよな? また踏みつぶしてやるよ!

 友好国との関係? 知るか! モノが欲しけりゃ金を出せ!

 発展途上国への配慮? 金持ちになってから出直してこい! 貧乏人がっ!!


 俺は他国との協調路線と決別することを決めた。

 日本国は地域覇権国家から卒業し、世界帝国に栄転するんじゃあー!


「ふふ、ぐんまちゃん、なんだか楽しそうですね!」


 


「――― ファック! ジョンが肩をやられちまった!」


 見渡す限りの荒野で飛び交う銃弾。


「アァーッ! 俺のケツに奴らのがブチ込まれちまった!!」


 巻き起こる爆炎。


「キムチ野郎が退却しだしたぞ!? チクショー、巨大ロボはまだなのか!」


 予期せぬ味方の裏切り行為。


 全高20mの巨大なロボが、敵陣地ごと敵部隊を踏みつぶせば、味方の陣地が閃光と共に吹き飛ばされる。

 NINJAによる派手なカトンジツ!には、白雷の如き光線が返される。

 片手に水筒を持ったマッチョが尻を抑えてのた打ち回ると、何処からともなく現れた美少女達が速やかに回収していく。

 大地の上に横倒しになった巨大な潜水艦は、即席の要塞として如何なる攻撃にも耐えていた。

 その上では、金属装甲で全身を覆った強化装甲を着込んだ歩兵が派手に銃弾を撒き散らしている。


 洗練された雰囲気の武装した人に似た種族の意匠が施された扉。

 その扉の先は、ただの戦場だった。

 

「おお、新しい戦友の登場か!」


 図太い葉巻を咥えた赤い髪の女傑が、ダンジョンへの扉を開けた俺の姿を見て顔をほころばせる。


「すみません、間違えました」


 俺は迷わず扉を閉めた。

 世界帝国なんて割に合わない夢はやめよう。

 俺が馬鹿だったんだ。


「元気出して下さい、ぐんまちゃん!

 どんな戦場でも、私がすぐに血の海へ変えてやりますよー」


 高嶺嬢はそう言って、可愛らしく力こぶを作る仕草をする。

 もちろん彼女ならそれが可能だろう。

 だが、その前に俺が死ぬ。

 死ななくてもいたずらに戦力を浪費する未来が容易に想像できた。


「次にしよう、次!」


 俺は今度こそ、と意気込んでどこか廃れた雰囲気の天使と神らしき存在が意匠された扉を開ける。


 扉の先に広がっていたのは、見渡す限りの神殿群。

 小規模な神殿が連なるその場所は、どこか廃れた雰囲気を持ち、人の気配が微塵も感じられない。

 

「死兵の臭いがしますねー」


 何気ないように高嶺嬢がそんな感想を零した。

 死兵? 死んだ兵士のことかな?


「完全に覚悟を決めた敵程恐ろしいものは無いです。

 が、燃えてきました!」


 つまり死兵とは、文字通り死ぬ気の兵士という意味なんだね。

 やばいね、うん。


「さあ、ぐんまちゃん!

 新たな戦場が私達を待っていますよー!!」


 高嶺嬢はやる気に満ち溢れている。

 勝つためなら本当に何でもする奴らが、手ぐすね引いて待ち構えているんですね、分かります。


 高嶺嬢は既に扉の中、大理石の様な石で造られた巨大な台座の上にいる。

 戦いの時をいまかいまかと待ち望むその姿は、餌を前にした空腹の野獣そのものだ。


「………… まずは哨戒だな」


 高嶺嬢の後を追いながら、最初は無人機に探索させることを決心した。

 何処かの国の先客に会えれば良いのだが……

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