第十六話 階層開放

 第1層最奥部にてオークを倒すことができた俺達は、オークが元々いた部屋を確認した。

 部屋の中は、あのオークの雰囲気とは似ても似つかない、清廉な空気に支配された神殿のようだった。

 剥き出しの岩盤だった洞窟とは異なり、白い石で造られた平坦な壁は、よく見ると、表面に細い溝が幾本も彫られており、何らかの模様を為している。


 神殿の中心は、儀式に使う祭壇のように数段高くなっており、その床面には巨大な円形の模様が浮かび上がっていた。

 端的に言えば、漫画とかでよく見る魔法陣みたいだ。

 もしかしたら、魔物達にとっての象徴的な紋章なのかもしれない。


 しかし、洞窟内を全て探索しても、どこかしらに繋がっておらず、大量の魔物が連日供給されていたことを考えると、召喚術的な役割の魔法陣のように推察できる。

 でなければ、今日高嶺嬢が屠った1000体を軽く超える魔物達は、昨日まで探索されていなかった洞窟全体の1割程度の区画に押し込められていた事になる。

 

 それは流石に無理のある説明だ。

 そもそも、あれほど統率され、戦術を実行できる集団ならば、初日か2日目の段階で、どこかに陣地を築いて迎撃を行っているはずだ。

 しかも、奴らの補給拠点にあった木で作られた樽。

 洞窟が外部と繋がっていないのならば、あの木はどこから湧出てきたのか。


 思い出していけばきりのない数多の状況証拠。

 きっと俺達がこの部屋を出て行けば、しばらくして新たな魔物の軍団が現れることだろう。

 日を追う毎に魔物達の戦力が強化されていることから、新たな敵は、より強力な物になっていると思う。


 俺は神殿の天井を見上げる。

 ドーム状の天井には、通常種とは異なる特徴を持った9体の魔物が円形に配置されて描かれていた。

 そして、その中心に描かれている球体。


 順当に考えれば、9体の魔物はボスで、中心の球体がこのダンジョンのラスボスだろう。

 9体の中に手足が異常に肥大化したオークが混じっているので、間違い無いはずだ。

 俺は今後の参考までに、タブレットで天井の写真を撮ってから、ダンジョンから出るために高嶺嬢たちへ呼びかけた。




 あの後、ダンジョンの端に退避させていた無人機部隊と魔石を回収し、半日以上潜っていたダンジョンからようやく出ることができた。

 高嶺嬢は全身に塗りたくられた血溜まりスケッチを落とすため、ギルドに魔石を運ぶと真っ先にシャワーを浴びに行った。


 そのため、俺は一人で今日の成果を精算していた。


『資源チップへの変換結果

ゴブリン   →鉄鉱石   210

オーク    →食糧    196

コボルト   →エネルギー 145

大蝙蝠    →希少鉱石  117

オーガ    →非鉄鉱石  64

ガーゴイル  →飼料    96

ハーピー   →植物資源  103

フレイムウルフ→貴金属鉱石 219

レッサードラゴン→汎用資源 36』


 チップ一枚が、該当する資源1万t分に変換されているらしい。

 鉱石などの形で供給されるため、1万tまるまる活用できる訳ではないが、それでもこれだけの資源が供給されたら、日本の懐事情も少しは改善されるだろう。

 俺はミッション分のチップを振り込み、残りのチップは明日のミッションの為にとっておいた。


 よしよし、これで時価総額200億越えの旅客機が手に入った。

 これを売れば半値で売れても100億だ。

 平時であれば一生遊んで暮らせると言っても過言ではない大金だが、武器屋や道具屋で売られている商品の値段を考えると、一夜で尽きてしまいそうなのが恐ろしい。


 とりあえず、万が一を考えて回復アイテムを購入した後、俺と高嶺嬢の防具を整え、最後に武器屋へ行った方が無難だろう。

 チップへ変換できなかった大き目の魔石3つと1つの巨大な魔石を見ながら、俺は金の使い道を考えていた。


 はいはい、どうせ強化アイテムかキーアイテムでしょ。

 俺はそれらの魔石の使い道を当てずっぽうで思い浮かべながら、次元統括管理機構のミッション処理へ移る。


『ミッション 【魔界 第1層の解放】 成功

 報酬 道具屋 武器屋 防具屋 の 新商品 が 解放 されました』


 通常のミッションならこれで終わりなのだが、今回のミッションでは、続けて文字が現れる。


『魔界 において 第1層の解放 が達成されたので 第2層 が解放されます

 3日間 魔界 に侵攻することはできません

 【最初の階層制覇】が達成されました 特典 が 追加 されます


 レコード は 60時間37分51秒 です

 【総合評価 S 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』


 どうやら俺達がいたダンジョンは次の段階へ改修工事を行うため、3日間立ち入り禁止になってしまったようだ。

 そして、その後の文章を読む限り、俺達が最初にダンジョンの階層を制覇し、それまでにかかった時間は想定よりも極めて短かったらしい。


 俺は第1階層制覇までに要した3日間で起こった戦闘を思い出す。


 血塗れの高嶺嬢が、刀を片手に魔物を蹂躙している姿しか思い出せない。

 うん、そりゃあ想定外だわ。

 次元統括管理機構とやらも、まさかこんなイカレ娘が暴れまわるとは思ってもみなかったのだろう。

 ご愁傷様!


 高嶺嬢の戦闘能力のお蔭で、既定の条件を達成した俺達は特典を貰えるらしい。

 ただ、ミッション画面はこれで打ち止めのようで、何も表示されない。

 おそらく最初に貰った特典と同様に、腕についた端末で処理がされるのだろう。

 そうあたりをつけた俺は、端末を案の定、端末の画面に『特典』の文字が存在していた。


『特典 を獲得しました

 上野群馬 は スキルポイント 30 を獲得しました

 上野群馬 は スキル【耐魔力】 を獲得しました

 上野群馬 は ステータス が 向上 しました


 特典 を獲得しました 貢献度 に応じた 特典 が 割り振られます

 上野群馬 に 42式無人偵察機システム の 貢献度 が移譲されました

 上野群馬 に 美少女 美少年 の 貢献度 が移譲されました


 上野群馬 は スキルポイント 20 を獲得しました

 上野群馬 は 新たな従者 を獲得しました』


 ずらりと並ぶ特典の一覧に、思わず顔がほころぶ。

 どうやら無人機やロボットなど俺の指揮下にいた存在の貢献度は、俺の物になるらしい。

 素晴らしいジャイアニズムだ。

 俺はステータス画面を確認して、特典の結果を見てみる。


『上野群馬 男 20歳

状態 肉体:疲労 精神:疲弊

HP 9 MP 20 SP 3/12

筋力 11 知能 17

耐久 9  精神 16

敏捷 11 魅力 11

幸運 18 

スキル

索敵 23

目星 8

聞き耳 18

捜索 15

精神分析 8

鑑定 8

耐魔力 1』


 MPとSPが+3、精神と幸運が+1か。

 スキルは多用していた索敵、聞き耳、捜索を中心に上昇していた。

 始めて3日間という時間を考慮すると、えらい急成長だ。

 そして新たに得られた従者。

 戦力が増えれば、それだけ選択肢も増える。

 一気に充実した環境に、俺は内心で高笑いが抑えられなかった。



魔界 第一層 暗黒洞窟サウース・アフリーカ

日本    攻略完了



『魔界 は 第二層 が解放されました

 魔界 は 武装 が解除されます

 魔界 は 民兵 の投入が許可されます』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る