第十三話 外国人

『ミッション 【資源を、とにかく資源を!】

 資源チップを納品しましょう

 鉄鉱石:50枚 家畜:50枚 エネルギー:50枚 希少鉱石:50枚

 非鉄鉱石:50枚 飼料:50枚 植物資源:50枚 貴金属鉱石:50枚

報酬 LJ-203大型旅客機 1機

依頼主:日本国内閣官房長官 吉田茂治

コメント;報酬を売却して下さい』


 ギルドにて、本日のミッション内容を見て、俺は悟った。

 日本政府は本気だ。


 LJ-203大型旅客機、2038年に日本の航空技術を結集して開発された、世界最大の超大型旅客機。

 そのお値段、212億円。

 現状で貰っても、何の活用法も見出せない、ただの換金アイテムだ。


「高嶺嬢、魔物共を狩り尽くすぞ」


「おー!」


 この時の俺は、金に目が眩みつつも、きっと壮絶な顔をしていたことだろう。

 魔物1体で魔石が1つ、魔石が1つでチップが1枚。

 400体の魔物狩りが、今、始まった。




「あれ、誰かいるみたいですねー?」


 今日は夜まで帰ってこない覚悟でダンジョンに足を踏み入れると、高嶺嬢が先客の存在に気付いた。

 どうやら、ようやく他国の人間に出会えるようだ。


 白い肌に金髪碧眼の男女、外国人だと分かり易いTHE外国人だ。

 あちらもダンジョンに入ってきた俺達に気付いたようで、手を振りながら歩み寄ってきた。

 彼らの着ている迷彩服には、青地にやや左側に偏った黄色い十字線の国旗が描かれている。

 スウェーデンの人だ。


 敵国人でないことにホッとしつつ、同時に気付く。

 スウェーデン語、話せないや。


Hejヘェイ!」


 と思ったら、高嶺嬢が率先して挨拶してくれた。

 そう言えば彼女は総理の御令孫だったな。


「コンニチハー」


 あちらも俺達が入ってきたドアの上にある国旗パネルで日本人だと分かったのだろう。

 片言ながら、日本語で挨拶をしてくれる。

 もちろん、お互い挨拶以外は分からなかったのだが。

 以後の会話は自然と英語での会話となった。


「初めまして、俺の名前はアルフ、彼女はシーラ。

 君達、日本人でしょう?

 マイコ、フジヤマ、サムライ、ニンジャ、俺、日本の大ファンなんだ!

 ワオ! 彼女の持っているのは、カタナだろ!?

 メッチャカッコいいじゃん!!」


「フフ、アルフがごめんなさいね。

 私は日本に家族旅行で5回くらい行ったことがあるわ。

 とっても素敵な所よね」


 スウェーデン人の二人は、典型的な日本かぶれだった。

 西暦2045年、年間外国人観光客数が5000万の大台を突破している日本は、世界中にこうした日本かぶれを大量生産している。

 

「初めまして、俺はトモメ・コウズケ、彼女はハナ・タカミネ。

 お二人が日本に友好的で何よりだ。

 今日は初めてのダンジョン探索かい?」


 俺の言葉に、二人は面喰った様子だ。


「ダンジョン? ここってもしかして、ダンジョンなのかい!?

 ワオ、とんでもないことに巻き込まれている気がするね!」


「私、なんだか怖くなってきたわ……

 トモメ、あなた達はこの状況に詳しいのかしら?」


 どうやら二人は状況を把握できてなかったので、簡単に説明してやる。

 ダンジョンで代理戦争してジェノサイドなのさ!


「ワァオォ…… それは穏やかじゃないね。

 それに祖国が外部と断絶だって?

 家族が心配になってきたよ……」


「そんな、嫌よ、私、死にたくないわ

 戦うのなんて嫌、ゴブリン? オーク? そんなのに勝てる訳ないじゃない!?」


 俺の話を聞いた二人は、それまでのテンションが嘘のように消沈している。

 女性であるシーラに至っては、戦闘すら拒否してしまっている。

 きっと彼らの反応こそ、平和を謳歌してきた先進国民としては正しいのだろう。

 それを証明するかのように、彼らの武装は初期装備っぽいサバイバルナイフだけのようだ。


 俺達と出会わなければ、今頃樽に詰められていたことだろう。

 悲しいことに、それが現実だ。


「とりあえず、今日の所は体験がてら俺達について来るか?」


「良いのかい、トモメ?

 ぜひお願いするよ」


「フフ、やっぱり日本人って親切なのね。素敵だわ」


 流石に親日家を死なせるのは心苦しいので、ダンジョン探索のレクチャーも兼ねて、同行を誘うと、彼らは一も二もなくその提案に飛びついてきた。

 正直な所、彼らは全く戦力にならないだろうが、俺自身、彼らに毛が生えた程度の戦闘能力だ。


 俺と同じ立ち位置に置いておけば、今まで通り問題ないだろう。

 なにせ俺達の戦力は、絶対無敵高嶺嬢と強力なロボットが2体いるのだから。

 今後の友好関係も考えて、俺は気軽に誘ったのだ。


 こうして、憐れなスウェーデン人二人にとって、一生忘れられない思い出トラウマが始まった。

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