第十二話 青年とお嬢様、物の価値を知る
「ぐーんーまーちゃーん、あーさーでーすーよー!」
代理戦争に巻き込まれて3日目の朝、俺は昨日と同じく美少女の呼び声で目が覚めた。
「おはよう、高嶺嬢。今日も素敵な朝だな」
昨日の出来事もあり、急いで着替えて扉を開ける。
「おっ、昨日よりも速いですねー」
高嶺嬢は、感心感心、と朗らかに笑っていた。
その表情から無理をしているようには感じられない。
昨日の夜、ダンジョンから戻るなり、俺の背中からずっと離れなかった少女の姿は、期間限定だったようだ。
「朝ごはん、出来てますよ!」
ニコリと笑う高嶺嬢につられて、思わず俺も苦笑いしてしまった。
やっぱつえぇよ、君は。
程良く焼き目がついたアジの開き、一切の乱れなく均一に巻かれた出し巻き卵、種々の野菜が混ぜ込まれた五目きんぴら、豆腐とワカメのお味噌汁は湯気が立ち、炊き立てのご飯は米粒の一粒一粒がキラキラと輝いている。
一汁三菜、日本の伝統を守りつつも栄養と
「どうぞ、召し上がれー!」
「いただきます」
食べた感想は、美味しい、の一言に尽きた。
アジの開きは、油を閉じ込めつつふっくらと焼き上がり、出し巻き卵は、出汁の風味が調度良く纏まっている。
五目きんぴらは、丁寧に灰汁抜きされたのか、やや薄目な味付けながらも風味が口内に広がっていく。
白味噌で作られた味噌汁は、しっかりと出汁が取られているし、ご飯は炊飯器が無いのにもかかわらず、米粒がふっくらと炊きあがっている。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです!」
様式、見た目、栄養、味、全てにおいて完璧な朝食を作り上げた高嶺嬢は、綺麗に無くなっている俺の皿を見て、嬉しそうに微笑んでいた。
うん、この子、女子力高いね。
「そういえば、今日は朝から道具屋とかに行くんでしたね?」
食後に緑茶で一服していると、高嶺嬢が不意に今日の予定を聞いてきた。
「ああ、資金もある程度は貯まってきたし、今更ではあるが、色々と装備を整えておきたい」
今の高嶺嬢の格好は、フリルの付いた白い長袖ブラウスに濃紺の膝丈スカート、黒ストッキングというTHEお嬢様スタイルだ。
ワンポイントで襟元にまかれた桜色の細いリボンが、彼女の清楚さを際立たせている。
着替えが無いために初日から変わらないその服装に、マントを羽織ると彼女の戦闘装束になる。
今までは彼女の圧倒的な戦闘力と全身ゴアモードで気にしていなかったが、まともに考えると、あまりにも軽装過ぎる。
どうせ血塗れになるのだから、この際オシャレなどガン無視で、全身装甲服で良いんじゃないか。
それに万が一ダンジョン内で怪我をした場合、日本から支援された薬品では、即座に効力が出るのなんてモルヒネぐらいしかない。
次元統括管理機構とやらが管理している道具屋ならば、ゲームで定番のポーションとか傷薬的なものがあるのではないか。
今の所持金は、各種ミッションと魔石の売却分を足して約120万円ほど。
購買関連はずっと放置していたので、どの程度の価格設定なのかは分からないが、それなりの物は買えるはずだ。
食後の休憩を終えた後、俺達が最初に訪れたのは道具屋。
武器や防具を使う戦闘に関しては、現状、高嶺嬢の虐殺劇場と化しているので、万が一に備えた保険を必要としたからだ。
カウンターに置いてあるパソコンで検索すると、お目当ての品は簡単に見つかった。
しかし……
「うわっ…… 俺の所持金、なさすぎ……?」
『下位ポーション:損傷部位に振りかけると、HP20回復分の修復を行う
1000万円
中位ポーション:損傷部位に振りかけると、HP100回復分の修復を行う
1億円』
正直、歯が立たなかった。
それなりの物は買えるはず? 誰だよ、そんな
俺でした。
俺達はそそくさと道具屋を後にし、武器屋へ移動する。
できれば高嶺嬢に刀以外の武器を買ってあげたかった。
『覇王の大剣:第11262世界の半分を支配した王の愛剣
64億円
精霊王の黄金盾:第7836世界を守護する精霊王の盾
80億円
F-3艦上支援戦闘機:第118世界で最初の第六世代戦闘機
180億円』
あれれー、可笑しいぞー、普通の武器が無いなー?
最も安い武器は『10式戦車:5億3000万円』だった。
おそらくラスボス戦まで、この武器屋に来ることは無いだろう。
最後の希望をかけて、俺達は防具屋に辿り着く。
端末に表示された120万という数字が、やけに頼りなく感じる。
頼む、庶民に優しい世界であってくれ!
『戦乙女の聖銀鎧:あらゆる邪なものを寄せつけない
6800万円
32式普通科装甲服3型:100m先から撃たれた12.7mm弾を防ぐ
18万円』
あれ、なんか安く感じるぞ?
でも買えない。
32式装甲服は買えるけど、既に俺と高嶺嬢で2着ずつ持っている。
「お金が無いって辛いですねー」
高嶺嬢の寂しそうな声が、俺の心を締め付けた。
どうやら祖国からの本格的な財政支援が必要なようだ。
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