第十一話 戦利品

「へいへーい、お前らの命はここで終了ですよー!」


 高嶺嬢は片手の刀でガーゴイルを両断しながら、もう片方の手でオークの魔石を抉り出す。

 相変わらず無双する彼女は放っておく。

 俺は新たに得た2体のロボットを前衛において、彼らの後ろから26式短機関銃を掃射する。


『プギィィィ』


 銃撃を受けたオーク達は痛みに悲鳴を上げるが、のっしりとしたその歩みは止まる様子が無い。

 短機関銃の銃弾は、厚い脂肪に阻まれて重要器官を傷つけるには至らなかったようだ。

 しかし、痛みで僅かに進行速度は鈍っている。

 それを隙と見たロボット達は、武器庫から持ってきた剣でオークの群れに斬りかかった。


 もちろん、そんな状況でも俺の銃撃は止まらない。

 ロボット達がオークに懸かりきりとなっている間に、オークの陰に隠れていたコボルトとゴブリンが突撃してくるからだ。


『ガアアァァァ』


 オークと違って耐久力の低いコボルト達は、銃弾に貫かれて次々と倒れていくが、そんな仲間を盾にして俺との距離を詰めてくる。

 高嶺嬢抜きで戦って分かったが、魔物達はそれなりに知能があるようで、奇襲や陽動は勿論、仲間を盾にするなどの過激な戦法も平気でとってくる。


 俺が銃撃を続けて何とかコボルト達の突撃を抑えていると、ようやくオークの群れを片付けたロボット達が、背後から奴らを強襲する。

 ロボットと協力して魔物の群れを何とか殲滅し終えると、高嶺嬢の方も戦闘が終わったようだ。


「お疲れ様ですぐんまちゃん! 魔石を取るの手伝いますよー」


 高嶺嬢は両手に肉片をつけたまま、俺達が殲滅したモンスターの方へ駆け寄っていった。

 彼女が来た方向を見ると、血と贓物で原型の良く分からない肉塊が、一面に積み重なっていた。

 その量は、俺が相手をしていた魔物の数倍では収まらないかもしれない。

 

「トラウマになりそうだ」


 実際にトラウマになる訳ではないが、こうでも言っておかないと流石に気が滅入る。

 いや、本当に俺の精神が常人よりも強めで良かったよ。

 頑丈な魔物の皮革をものともせずに素手で魔石を抉り出す高嶺嬢。

 そんな彼女の隣で、ナイフを使ってなんとか魔石を採取しながら、沁み沁みとそう思った。




「うーん、2機やられちゃったか」


 無人偵察機の管制タブレットには、展開している6機の無人機のうち、2機からの信号が途絶えていることが表示されている。

 間違いなく魔物に撃墜されたのだろう。

 幸いなことに自己学習型の人工知能が、すぐに撃墜要因を分析し、対応したお蔭で被害の拡大は防がれている。

 だが、哨戒を開始して一日も経っていないのに、3分の1の損失は痛い。

 第1層ですらこれなのだ。

 ミッション報酬で追加されるとしても、こんなペースで消耗していては、補給されたそばから無くなりかねない。

 この問題の解決は、自己学習型人工知能がどこまで成長できるかにかかっている。


「今後の成長に期待するしかないな」


「ぐんまちゃーん、また分かれ道ですよー」


「左だよ」


「分かりましたー」


 今、俺達は無人機が発見した魔物の物資集積地を目指している。

 隊列は、前方を高嶺嬢、左右後方にロボット達、真ん中は俺だ。

 基本的に高嶺嬢が蹂躙して、偶に横から奇襲してくる小型の魔物をロボットが蹴散らしている。

 俺はその間、タブレットの地図と索敵マップを見比べながらの道案内だ。

 あと、定期的な聞き耳と捜索のスキルで奇襲の察知もしている。


「前方に敵影発見」

 

 索敵マップに赤い光点が入ってきたので、高嶺嬢とロボットに注意を促す。

 俺達の警戒を感じ取ったのだろうか、真紅の毛皮を持つフレイムウルフが物陰から飛び出してくる。

 その毛皮は欺瞞の為なのか、土塗れになっており、上手く地面や岩壁にとけこんでいた。


「わー、わんちゃんですよー」


 高嶺嬢は、彼女の喉笛を食い千切らんとするフレイムウルフの首を掴んで地面に叩きつけた。


『ギャン』


 フレイムウルフの悲鳴が通路に木霊する。

 急いで起き上がろうとするも、その前に高嶺嬢の足が彼の頭蓋を踏み砕いた。

 

「一丁上がり、ですね!」


 高嶺嬢はそう言って俺にウインクすると、手早く魔石を抉り取ってマントの中に収納した。

 セリフと行動の釣り合わなさも、彼女のウインクも、素手で毛皮を突き破ったことも気にならないが、マントの中がどうなっているのかは気になった。




 魔物達の物資集積地は隠し部屋の様な空洞の中にあった。

 驚くことに奴らの食糧は木で出来た樽の中に保管されていた。

 どうやら個々の魔物の知能レベルはともかく、集団としてはある程度の技術を保有しているようだ。


 高く積まれた大量の樽に紛れて、破壊された無人偵察機も置かれていた。

 どうやらこの部屋は戦利品の保管庫も兼ねているらしい。


『目星』


 何か有用なものは無いかと思い、スキルを発動させると、一つの樽に反応があった。


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「美少女、その樽の中身を見せろ」


 ロボットの一体、額に美少女と書かれている個体に命じて、反応のあった樽を開けさせる。


「…… 嫌な予感がします」


 高嶺嬢が珍しく気弱な様子を見せる。

 索敵マップを確認すると、先ほどは俺達以外の反応がなかったマップ上に、緑の光点が弱弱しく表示されていた。

 青でも赤でもない光点は初めてなので、何を示しているのかは分からない。


 高嶺嬢が戦闘態勢に入っていない以上、危険なものではないと思うが、万が一を考えると開けない方が良いのかもしれない。

 しかし、結論を出すのが遅かったか、既に美少女は樽の蓋を開けて、その中を俺達に見せていた。


「キャッ」


 中身を見た瞬間、高嶺嬢が女の様な悲鳴を漏らして縋り付いてきた。


 樽の中身は、うん、戦利品だった。


「……… ァ…… ゥ」


 体中のあらゆる部位を失いながらも、驚いたことに未だ意識を保っている。

 スキルという原理不明な特性が、強靭な生命力を無理やり与えた結果だろうか。

 血まみれで分かり難いが、彼の衣服に付いた国籍識別マークには、細長い足が特徴的な鳥の絵が描かれている。


 どこの国かは分からないが、きっと俺達と同じようにダンジョンを探索し、俺達と違って魔物に敗れたのだろう。

 高嶺嬢がいるせいで感覚が鈍っていたが、本来なら魔物とは俺達人間よりも遥かに強靭な生物なんだ。

 ましてやそいつらは戦術なんて物を駆使してくるのだから、苦戦し、もしかしたら敗北するのが普通なのかもしれない。


 強制的に生かされてはいるものの、どう見ても助からない彼か彼女。


 俺には銃口を向けるしか、してやれることが無かった。

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