3.ありがとうございます
ふみ
指と指をからめて、離れないように、でも傷つけないように、しっかりと握る。
ふみ
少しして、父さんがため息をついた。
「病気も将来も、たかがその程度だ。わかっているなら良い」
「……え……?」
「なんだ、その間抜けな声は」
思わずもれた、ぼくの、確かに間抜けな声に、父さんが口をへの字に曲げていた。
「馬鹿にするな。おまえたちがかじる
への字口のまま、そっぽを向いた父さんを、母さんが満面の笑顔で思いっきりどついた。
「あらあら。これじゃあ、ちょっと
「痛たた……まあ、仕方ない。一緒に探そう。どうも、しばらく見つかりそうにないがな」
なんだか
呆然と見送って、静かな
ふみ
「えへへー。今日が、結婚式みたいになっちゃったねー」
「ふみ
「もう
ぼくは、まともに答えることができなかった。
ふみ
長い、長い、夢のようなキスをした。
********************
後を追うように
死亡時刻を記録して、担当医であり、
「博士……実験は成功です。お見事でした」
二人とも、まだ若い。
「切ないです……医学会の革命児なんて呼ばれて、なにもかも手に入れていた博士を、最後に突き動かしたものが……こんな若い頃の、たった一つの後悔だったなんて……」
この試作発明機は、
脳は、記憶を再構成して夢を見る。外部から照射した信号波で脳神経に干渉、
過去の記憶を、本人の
脳組織への
それでも、あらゆる
「そりゃあ、まあ……そうですけれど。でも、これ……結局はフィクションですよね?
「おまえは正しい。人はそれぞれの環境で、精一杯に手をつなぎ合い、現実の人を救うべきだ。だが、人は神にはなれない……博士ほどの人でも、現に、救えなかった人がいた。
「人が、すべての人を救うことはできない。だが、この技術が
「そう、ですね……! 本当に、そうです……!」
「そりゃあ、まあ……そうですね……」
「博士……あなたは人でありながら、神の
その
病室の壁ぎわで、上品な和服を着た老婦人が、
「みなさま……夫が、お世話になりました。最後まで、本当にありがとうございます」
「それで、その……おかしなことを聞くようで、申しわけないのですが」
「はッ! なんなりと、お申しつけ下さいッ!」
「その……
「はッ! 当院には超一流のスタッフがそろっており、どのような状態であっても、必ずや御満足いただける
「まあ。本当に、なにからなにまで、ありがとうございます」
「あ、あ、あの……だだだ、大丈夫、なんでしょうか……あれ……っ?」
「博士は、もう死んでいる!」
「そりゃあ、まあ……
「痛みは感じない……はず、だ……!」
とある夏の一日、とある大病院の、VIP用の特別病室の扉が、謎の開かずの扉となっていた。
〜 夏の日の扉 完…… 〜
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