第十九話 真実
共に戦う仲間となった星野日丸と黒蔵。二人は他にいる日丸の仲間たちに会うために、戦っていた山を下った。その様子を見ていた深海組頭である深海時定がその事をゲコ蔵に報告したところ、ゲコ蔵は気にもしておらず、不吉な高笑いを上げたのだった。
二人は無事に忍者協会本部へと辿り着き、正面の扉を開く。中にいた面々が日丸に気づき歓待な態度でこちらを向いた瞬間、全員が柔らかかった瞳を鋭くさせ、黒蔵を睨みつける。黒蔵は焦っているが日丸は状況を理解しておらず、彼らの態度を不思議におもっている。そんな時、月丸が問いかける。
「──日丸。お前の後ろにいるのは誰だ」
「黒蔵だけど?」
「だよな。なんでお前ら一緒にいるんだ?」
「あ、そゆことか。こいつはこれから俺の友達だ! だからみんなも仲良くしてやってくれ。よろしく〜」
「いや、よろしく〜じゃなくてだな!」
そのまま日丸はスタスタと上がり込むと、黒蔵もそのまま上げる。日丸以外の全員が困惑している状態である。ついこの間まで敵同士だったのに、今同じ空間で共に過ごしている。誰もが気が気じゃない。沈黙の時間が過ぎていく。
そんな時だった。思い切り忍者協会本部の正面の扉を開ける音が聞こえた。作黒と白士郎が急いで見に行くと、肩で呼吸をしながら血眼になっている草野大地とその後ろでクタクタになっている三嶋武蔵と鉄丸がいた。二人は初めて目にするため、誰か分からない。大地は靴を脱ぎ捨て、作黒と白士郎の間を割いてそのままズタズタと押し入ると、みんながいる居間の扉を開けるのと同時に叫ぶ。
「──おい星忍! お前ら……って、黒蔵ーーー!?」
そのまま後ずさると今朝ピカピカに磨いた床に滑り、後ろの壁で背中を強打した。
三人も集まった時に、今まで全員が気になっていたことに対してようやく日丸の口から説明される。鉄丸という前例がある分、全員がすんなり腑に落ちた。するとそこに一人の男が姿を見せた。忍者協会副会長である
「お前たち、この世には二種類の忍者が居ることを知っているか? 一つは大名や領主に仕え、主に隠密な行動をする者たち。もう一つはどこにも仕えず、己の目的のために単独で行動する者たちだ。多くの人間が想像する忍者とは前者であろう。そこにいる剣術士の家である三嶋流忍者もその一つだ。そして後者は今の我々だ。多くの人間は存在すら知らない。なんせ数が少ないからな。だから我々の先駆者らは他の名が大きい忍者に劣らぬよう特殊な忍術を生み出したのだ。我々はそんな名が大きい忍者を一律して『画一忍者』。そして我々のような忍者を『個性忍者』と区別している。個性忍者はその特殊な忍術を扱うために、この世界に存在している自然と分かち合うことによってその力を借りているという訳だ。だからそれに比例して習得も容易ではない。習得が難しいほどその強さは格別となる。特に困難と言われているのが、動きが読みづらい『水』、扱いが難しい『火』、そして強い者のみ習得の権利が得られる『岩』。岩の場合もし弱ければ簡単に動かされ、簡単に砕かれてしまうからだな。だが一貫して個性忍者の忍術は多種多様で習得が難しい。ここにいる皆が使うのもバラバラだ。我々の先駆者らはそうやって他の忍者との差別化を図ってきた。獣流など、お前たちで初めて知った。しかし初めてお前たちを見た時に違和感を感じた。どこか既視感を感じたのだ。昔一人だけ規格外の力を使う者を見たことがある。その力は『星』。あんな力、一度目にすれば忘れることなどない。そしてお前たちの忍術からはどこかその衝撃を感じたため少し調査を行った結果、判明したことがある。その力は最強と言えるほどで、その力を使う者の名は『
その事を聞き、星忍の二人以外は驚きを隠せていない。柊は淡々と続ける。
「そんな彼を殺したのが、この街を治めている「川之鎌ゲコ蔵」。奴は水流忍者だが、毒を扱った陰湿な戦術を得意としている。水流忍者には代々「清き心を忘れるべからず」という教訓があるはずだが、それすらも破るような奴だ。そして最強の忍者であるお前たちの父親を仕留めた奴は大金星。水流忍者の中で讃えられ、今や奴の下にはうじゃうじゃと成れの果てが集っている。だが、そんな最強と言われた者が毒を見分けられなかったとは考えづらい。おそらく死因は毒ではなく、毒殺を装った自殺」
またもや衝撃の連発で冷静さを取り戻せない。柊は自殺の見解について喋り出す。
「当時彼には死んでも守らなけれなならないものがあった。自分が死ななければゲコ蔵の標的が自分からその大切なものへと変わってしまう。だから彼は自ら死を選んだ。その大切なものこそ、お前たち二人だ。お前たちは仇を討つために忍者をしていると言ったが、それは父親の望んだお前たちの未来ではない。それでもお前たちは忍者を続けるのか?」
柊から今後の未来を分ける大事な決断を問われる。周りの全員が息を呑む空気の中で日丸は真っ直ぐな目線で答えた。
「俺は続ける。たとえ父さんが望んでいなくても、俺はアイツが許せない! あんな奴が治める世界で自分だけのんびり過ごすなんてできない!」
その答えを待っていたかのように月丸も軽く笑顔を見せながら賛成する。
「右に同じだ」
二人の答えを聞いた途端重かった空気が暖かくなり、盛大に喜ぶ。そこで柊が提案する。
「ならば憎き相手を討つという同じ目的なため、私も力を貸すとしよう」
また一丸と絆が深まる。決戦に向け、まずはみんなで食事をすることとなる。杏莉がいつも以上に気合いを入れて腕を鳴らす。今までで一番人数が多く、賑やかな晩餐会となる。長い食卓を皆が囲み、机の上には豪勢な料理がずらりと並ぶ。山積みにされた鶏肉の唐揚げ、脂が輝く刺身や、ぐつぐつと音を立て蓋の隙間から湯気が漏れる鍋、さらにトマトやジャガイモ、その他の野菜たちが彩りを加える。全員が山盛りにご飯をよそい、一斉に食べ始める。唐揚げは見る見るうちにその数を減らすが、一人食べていない男がいた。七雨雀扇である。月丸が気を遣って食べないのか訊くと、柊が訳を話す。
「先程、我々は自然のものに力を借りていると言っただろう。会長は鳥の力を借りているため、自ら食すことを拒んでいるのだ。食べてあげることは命をいただくということである上、鶏肉は筋肉にも良いため食べた方が良いのだが、おそらく会長の気持ちはこの先変わることはないのだろう。気にせず食えばいい」
月丸はなんとか納得してそのまま唐揚げに箸を延ばした。
第三章 「忍者協会」編
──完──
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