第十七話 笑顔の裏側
──七雨雀扇と星野月丸は深海組の幹部の一人である陽気な男と戦っていた。杏莉と白士郎が別の幹部の男と戦っている間、二人と別れて接敵する。
早速月丸が先手を打つ。男は歯を見せながら攻撃を防ぐ。七雨も続いて攻撃する。男は二人の攻撃を見事に捌きながら反撃を試みる。しかし二人も劣らず躱す。一度刀を交えただけで三人はお互いの強さをある程度把握した。そこで幹部の男が口を開く。
「清水組を騒がせる者どもがどれほどの実力なのかと期待していたが、この程度か! 清水組も落ちたものだな。こんな奴ら相手に腰が引けるなんて。ま、俺がココで二人とも処理すれば俺どころか深海組の功績となり、俺たちは頂点に行ける……。そうすればこの地は俺たちの配下に!」
男は自分たちの未来を妄想し、その様子を思い描きながら甲高く笑っている。その男を見て七雨が首を突っ込む。
「一人で気持ちよく妄想を広げているところ悪いのだけれど、恐らくそれは不可能だ。僕たちはここで君に負けたりしないし、仮に君が勝ったところで清水組の圧力はそう簡単には押し返せない。残念だけど、どっちにしろ君たちは──」
「うるせぇなぁ! そんなの分かんねぇし、お前たちは俺に勝てやしねぇんだよ!」
男は目を見開いて額に血管を浮き上がらせながら、もう一人の幹部の男と同様水流忍法を使ってきた。
『水流忍法
男は右手を下げ、掌に力を込める。そこに空中の水蒸気が集結し、鞠ほどの大きさの水の球が出来上がる。男は二人に向かってその球を思いっきり投げつける。水の球は豪速球で真っ直ぐ飛んでくる。月丸は射線を切りながら刀で球を斬り落とす。その間に七雨が仕掛ける。鳥の力を借りて戦う彼は空中を羽ばたくように軽々しく歩き、背後から接近する。しかし男もそう易々とくらってはくれない。しっかり防ぎながら対応する。その隙に月丸も距離を詰め、二人で挟み撃ちしようとするが、男は忍術を使う。
『水流忍法
男の素早い刀から水が溢れ、その水が流れるように切りつけてくる。その攻撃に合わせて月丸も忍術を唱える。
『獣流忍法クナイ技
相手の攻撃を片方のクナイで防ぎながらもう片方で男を狙うが、その華麗な身のこなしにより攻撃は外れてしまう。相手も二人に勝つという自信があるだけあって流石の実力者である。
七雨は月丸の動きに合わせて戦闘していた。果敢に攻める月丸に対し、少し後ろから様子を窺っているようだ。そして月丸が一旦後ろに引くと、男が追って詰めてくる。七雨が二人の間に瞬時に入ると、待っていたかのように忍術を唱える。
『鳥流忍法
辺りに灯りは一切無く、空には輝く三日月と満点の星空が光る山の中、赤く燃え上がる巨大な一体の不死鳥が現れ、男に向かって炎を吐く。月丸は山火事が頭に過ぎるが七雨は「安心して」と落ち着いた声色で囁く。男は突然目の前に現れた燃える鳥、その鳥から自分に放たれる炎に腰を抜かす。男は顔を腕で覆い、一瞬死を覚悟すると、そのまま男は燃える鳥が吐く炎に呑まれてしまった。
炎と不死鳥が辺りから消えると、そこには無傷の男がポツンと腰を抜かしている。先程の炎はあくまで幻、相手を怯ませる技だったのだ。その隙を狙って月丸が男に向かって行くが、男は咄嗟に忍術を使った。
『水流忍法
一瞬にして真っ白な霧が三人を包み視界を奪う。どれだけ目を凝らしても男の姿どころか、七雨の姿さえも確認できない。そんな中、男の甲高い声だけが聞こえてくる。
「はっはっは! 無様だな! 霧に視界を奪われキョロキョロと辺りを見回すことしかできない愚か者め。お前らは俺に敵わないのさ!」
男はそう叫びながら視界が悪い月丸に向かって追い討ちをかける。
『水流忍法
竜の咆哮と共に青い竜が月丸に牙を剥く。霧の中からの不意打ちに対応出来ず、まともに攻撃をくらい大きく後ろに飛ばさた月丸はその場に座り込む。竜による攻撃で傷口が深く痛む。その様子を横目に庇うように七雨がとてつもない速さで前に出る。
『鳥流忍法
七雨は高く飛び上がり、物凄い速度で降下しながら刀を振る。男は突然の七雨に戸惑いながら攻撃を防いでいる。月丸は足を引っ張りたくないという想いから傷の痛みを堪えながら共に戦おうとする。七雨は月丸を気にかけながら戦っていると目を離した隙に男の蹴りをくらってしまう。即座に目線を上げると月丸と男が戦っている。
何故か七雨にはその光景がゆっくりに見える。呼吸が大きくゆっくりとしたものから段々と小刻みになっていき、自分の心臓の鼓動の音と呼吸音しか耳には入ってこない。その心拍数は速さを増していく。七雨の脳裏には最悪の未来と同時に過去の情景が浮かんでくる。昔自分が面倒を見ていた未来ある少年は自分の力不足により、守ることが出来なかった。その少年を自分の腕の中で亡くした過去を持つ七雨は全く同じ状況である現状に動揺していた。
月丸を助けようと考えても彼の脚は動こうとしない。そして嫌な予感はやがて現実となる。月丸は傷の痛みにより体勢を崩すとそこに男の攻撃が炸裂する。月丸は後方に飛ばされると七雨の目の前で気を失った。七雨は手を震わせながら月丸を抱える。自分が月丸のことを守ることが出来なかったことへの申し訳なさと自分への怒りが込み上げてくる。
「すまない……。すまない、本当にすまない……! 君にも、君の兄である日丸君にも本当に申し訳ない!」
七雨が涙を堪えていると男が息を切らしながら勝ち誇ったように言葉を並べる。
「はっはっは! お前らなど所詮はこの程度! この俺に敵うはずがないんだよ! 忍者など所詮自分の目的のためにこそこそと影で動いている弱者だろ? まともに戦えやしない愚か者だろ? お前ら二人なんて俺一人で余裕なんだよ! さっさと尻尾巻いて忍者やめたほうが賢い選択なんじゃないか?」
七雨は月丸に微笑みながら語りかける。しかし見詰める彼の目に光は灯っていなかった。
「月丸君。こんな会長で不甲斐ないね。今回の作戦はたしか強さを見せつけ相手自ら退かせる、だったっけ? そっか。──でもね」
その途端、今まで微笑んでいた七雨の口角は下がり、声も一段と低くなると彼の逆鱗に触れた男に対して鋭く殺意に満ちた眼で男を睨み口火を切る。
「僕はどうしてもこいつを許すことは出来ない。忍者の苦労や日々の努力をろくに知りもしないような愚民如きが軽々しく僕らのことを語っているのは非常に癪に触る」
「あ?」
「昔は真面目に忍者を目指していた志のある人間だったのかもしれないが、何があったのか大きな枠組みに入りそこで少し上の地位に成り上がった程度で優越感に浸り段々と自分の力量の無さでなれなかった忍者を侮辱し始めるような成れの果てがわかったような口回しをしてるのが──許せねぇんだよ。月丸君、ごめんね。今回の約束は守れないみたいだ……」
そう言うと七雨は右手の人差し指と中指を左目の前に持ってくると忍術を唱えて男に指先を向ける。
『鳥流忍法
すると指先から男に向かって一筋の白い光が一瞬見える。その光は羽ばたく鳥のような形状をしており、目にも止まらない速さで男の身体を貫通する。男は一体何が起きたのか理解出来ていないまま謎の痛みに違和感を覚え傷口を確認すると、一気に顔色を悪くする。
男は七雨に再び視線を送ると、声も出せない様子で血を吐き出してそのまま後ろに倒れた。その様子を冷めた目で見ていた七雨はそのまま月丸を抱えて山を降りた。
「逃がさないぞ……!」
──その頃日丸は逃げていた深海時定を追っていた。日丸を見て焦る様子を深海が見せると、二人の間に割って入るように黒い影が現れた。その隙を突かれて深海に逃げられてしまう。そしてしばらく沈黙の時間が流れたあと痺れを切らした黒蔵が口を開いた。
「勝負をしよう……日丸」
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