第十六話 絆の一撃
矢文にて「決闘状」が届いた星忍はそこに書かれていた通りの日時と場所にやってきた。すっかり日が沈み、近くの街の灯りが目立つ。その街の近くにある山の頂上の開けた土地に星忍を待つ一人の男が立っていた。その男の名は「
というのはこちら側の想定内。星忍の足元から上昇気流が吹き出し、二人は上空に高く飛び上がる。そして二人と入れ替わるようにどこからともなく壱沢作黒がやってくると、刀を取り出し全員の相手をする。それを見て深海時定は焦りながら逃げていく。作黒は楽しそうに笑いながら四方八方の敵の攻撃を防ぎながら戦っていたが、その数の多さから作黒の大雑把な性格が出てしまう。
「ああもう! めんどくさい! 一気に蹴散らすか!」
そう叫び周りの敵を一旦弾くと、天高く飛び上がる。そのまま刀を真上に掲げると、大きな雷が刀に落ちる。「きたきた!」と笑いながら電気を纏った刀を真下にいる無数の敵の足元に向かって力いっぱい叩きつける。
『
刀が地面に触れた瞬間、驚くほどの衝撃と振動、バチバチと地表を電流が走る音が鳴る。そのまま作黒を囲っている周りの敵が内側から痙攣しながら倒れていく。ギリギリ電流が届かなかった敵たちは腰を抜かしながら、怖気付いて逃げていく。
──その頃、日丸は逃げた深海時定を追い、月の明かりが照らす開けた場所にて、琥円杏莉、七雨雀扇、天多白士郎、星野月丸の四人が接敵していた。
四人は二手に分かれ、敵と戦う。杏莉と白士郎は深海組の幹部の大柄な男と戦っていた。その男は忍者ではないのに、水流忍術を使ってくる。そういえば柊が「そもそも清水組というのは水流忍者の修行を受けたが忍者になれなかった出来損ない共が集まった集団だ」と言っていた。つまりその男が水流忍法を使えても何も不思議ではないのである。
『
男が両手の人差し指と中指を交わし、忍術を唱えながら右手を振りかぶり、切り裂くように二人に向かって振り下ろす。男の右手は水を纏い、素早く振ることによって水がまるで刃のように堅固となり、斬ることが可能となる。その攻撃を白士郎は躱すために忍術を使う。
『
すると杏莉と白士郎の足元から小さな風が吹き始め、二人を空中に巻き上げる。見事に相手の攻撃を躱すと、今度は空中で杏莉が忍術を使う。両手を前に延ばし、右手を下に手首を合わせて交差する。男に指を延ばして唱える。
『
真下に向かって放つと男の足元からいきなり大きく一輪の赤い花が咲き、男を上空に打ち上げる。今こそが決めるときというタイミングで男は体勢を整える。男は慣れた様子でそのまま忍術を唱える。
『水流忍法
どこからともなく大量の水が空中を流れてくると優しく男を包み込み、地上にゆっくり下ろした。さらに男は水を操り、空中にいる二人に向かって水を向けながらもう一つ忍術を使った。
『水流忍法
男が操る空中に漂う水は二人に触れる直前で、さっき男を包んだ時とは全く違うように堅くなり、二人に強い衝撃を与える。咄嗟に杏莉は白士郎を庇い、二人は地面に突き落とされた。
白士郎は杏莉のおかげで軽傷で済んだが、杏莉は酷く弱ってしまい、もはや戦える状態ではなかった。そのため白士郎が一人で立ち向かう。見るからにその体格差は圧倒であり、白士郎が一人で勝てるとは到底思えない。それでも白士郎は杏莉を守るために死ぬ気で刀を振る。刀を顔の左側に振り被り、左手の人差し指と中指を顔の前に添えて唱える。
『風流忍法
風が吹くように素早く男の横を通り過ぎたその後、刃のような強風が遅れて連続で切りつける。男は見事に防ぎ、飛びついてきた白士郎を弾き飛ばす。白士郎はすぐに立ち上がると刀を握り直して忍術を唱える。
『風流忍法
地面を強く蹴り飛び出した白士郎は刀を振りかぶると刀身が渦を纏い、白士郎の刀と男の刀が交わった瞬間男に激しい衝撃が襲う。しかし男も引き下がらない。腕に力を込め、全力で忍術を使う。
『水流忍法
男の力に押され、白士郎は後ろに弾き飛ばされてしまう。
絶体絶命の時、二人と男の間に電気が走ったかと思うと、気づけば壱沢作黒が立っている。
「待たせたな、二人共。ここは俺に任せておけ!」
作黒は先程とは打って変わって、大切な人たちを傷つけた相手を許さないような鋭い目で刀を振る。作黒の力強い攻撃に男も怯みそうになりながら刀を交える。作黒が一気に攻める。
『雷流忍法
作黒の刀は電気を帯び、真っ直ぐ男に向かって突くが、男も躱そうとして作黒の刀は男の腕を掠った。掠れただけだが傷口からは貫くような電気が流れ、腕から全身が痺れる痛みに襲われるはずだが、男はそんな痛みを気にもせず、堂々と立っている。それを見た作黒は驚きが隠せなかった。すると、作黒の後ろで白士郎が立ち上がる。
「俺も戦う」
「白……。お前は杏莉を見ておいてくれ」
「いつまでも子供扱いするな! 俺だって男なんだ。俺だって戦える! このまま何もしないなんて、俺は悔しい!」
作黒は白士郎の真っ直ぐなその目に溢れる気合と情熱を感じ、共に戦うことを許した。白士郎の素早い動きに作黒の力強い一撃で相手を翻弄する。流石に不利だと感じた男は咄嗟に忍術を使う。
『水流忍法
男の周りから大量の水蒸気が上がり、辺り一面に霧がかかる。その霧は男の姿を眩ませるが、透かさず白士郎の風が一瞬にして霧をはらう。「良いぞ!」と作黒は白士郎を褒めながら楽しそうに姿が見えた男を押し飛ばす。
「あれ、やってみるか?」
「うん、準備は出来てる」
作黒と白士郎はお互いの拳を軽く合わせると、それぞれ白士郎は前方に走り、作黒は上空に高く飛んだ。そして二人で同時に叫ぶ。
『風流雷流合わせ技
白士郎は男の攻撃を華麗に躱しながら一気に距離を詰め、振り返りながら切りつける。白士郎の攻撃は先程よりも威力が増しており男は攻撃を防ぐものの、その衝撃で体制を崩してしまう。その隙を突いて作黒が上空から着地しながら電気を帯びた刀を地面に叩きつける。
作黒の攻撃と同時に地表を電流が轟く。ガタイのいい男は足元から感電してしまい、歯を食いしばりながら片膝を地面に突いた。必死に堪えようとしていたが、そのまま男は息絶えるように前方に倒れ込み、気絶した。深海組幹部の一人である男に見事勝利した。今回の作戦は深海組を殺すのではなく、忍者である自分たちの強さを見せつけ、二度と関わってこないよう警告するということからその後男にはトドメは刺さず、作黒は杏莉を背負い、自分たちの任務を終えた三人は一度忍者協会に戻るために山を降りた。
──そんな一方で、七雨雀扇と星野月丸は深海組の陽気な幹部の男と戦っていた。
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