第十五話 目的
──病院にて──
武蔵の傷が完治したとき、窓の外から一羽の純白な鳩が入ってきた。鳩の足には小さな紙が結ばれている。武蔵が紙を取ると鳩は再び窓の外へと飛び立って行く。武蔵が紙を開くと、三人宛の手紙だった。
「忍者協会で任務をすることになったんだ。しばらくはみんなと会えない。任務が終わるまでゆっくりしててね。日丸より」
そこには日丸の愉快な文字で綴られた文章が並んでいた。三人は一体どんな任務なのか気になりながら、大人しく二人を待つことにした。
忍者協会で夜を明かした星忍が部屋を出ると、広々とした居間では作黒が腕立て伏せ、杏莉が配膳、白士郎が器具をいじっている。七雨が二人に気づき、「おはよう」と声を掛ける。それと同時に杏莉が全員に朝ご飯の準備が出来たと呼び寄せる。その瞬間にして、今まで自由だった全員が綺麗に配膳された机を囲む。その中に二人も混ざり、朝食を頂く。
一人一つずつ左にご飯、右に煮干しで出汁を取った味噌汁、そして小皿に胡瓜の漬物と沢庵が少量添えられている。全員綺麗に口に運び、各々の活動に戻る。二人は杏莉と共に皿を洗う。そこで気づく。柊の姿がない。杏莉に問うと、どうやら調べたい事があると今朝早くに外出したようだ。
それから数時間が経ち日が上から照らす頃、星忍の二人は深海組の隠れ家を訪れた。小さな家屋を囲むように数人が見張っている。中で何か重大なことでも起きているのだろうか。しかし、無闇に突撃しても返り討ちに会うかもしれない。遠くから様子を見ていると、中からぞろぞろと人が出てきた。見張りの者たちも含め、全員が山を降りていった。
もぬけの殻となった家屋を探る。そこでわかった。清水組とゲコ蔵は裏で繋がっていた。そして、近いうちに「忍者」を排除するという計画が企てられていた。恐らく、身の危険を感じたゲコ蔵が動き出したのだろう。だが、計画はそれだけではなかった。
「深海組下剋上計画」
それは深海組が成果を横取りするという計画だった。清水組よりも先に忍者を排除し、手柄を奪った後自分たちが権力を手に入れるという物だった。紙には入念な作戦が練られている。どちらにせよ自分たちの命が狙われていることに変わりはないようだ。まずは、深海組の下剋上計画を返り討ちにすることにした。とその時、家屋の入口がガラガラと開いた。透かさず身を隠すところを探すが見当たらない。渋々天井に張り付くが、物音で見つかってしまう。
「忍者だ!」
その声と共に近くにいた深海組が寄ってたかって星忍を追ってくる。急いで窓から逃げ出し、山の中を走る。獲物とそれを追う獣のように緑が生い茂った山林を駆け巡る。すると二人の後ろに大きく一輪の赤い花が咲き、何人かの深海組を空中に打ち上げた。打ち上げられた深海組は再びその花に着地して、命は助かった。その隙に二人は深海組を撒いて逃げた。無事に忍者協会に戻ってきた二人は深海組の計画について話した。
「忍者を排除する、か。でもどうするつもりだろうな……」
「不意を突かれるかもしれないわね。これからは少し警戒をしたほうが──」
その時忍者協会の壁に外から何かが突き刺さる音がした。さっそく攻めてきたのかと警戒しながら慎重に作黒が外の様子を見に行くと、壁に矢文が刺さっていた。作黒は素早い動きで回収して室内に持ってきた。その手紙には「決闘状」と星忍の二人宛に荒々しく書かれていた。その後にはいくつか文が続き、日程や場所などが綴られている。忍者たちはこれを利用したある作戦を計画し始めた。そんな頃。
「待ちきれんっ!」
とうとう大地が痺れを切らして病棟で大声を出して立ち上がった。一斉に周りの目がこちらに集まる。武蔵と鉄丸は慌てながら大地を押さえようとするが、大地は大声で喋り続ける。
「任務とはなんだ! どんなことをやってるんだ! 俺も協力したい!」
「落ち着け大地……! ここは病院だ! 大事な任務に参加させて貰える訳がない。そもそもここから忍者協会までは少なくとも三里はあるぞ?」
鉄丸が
「ようやく見つけたぞ、忍者共」
その黒い忍者服に身を包み、腕を組んでいる男は三人を見るなり、疑問を浮かべた。
「星忍がいない……?」
「星忍ならここにはいない。残念だったな」
鉄丸が威勢よく言い切る。黒蔵は自分たちを裏切った鉄丸に向かって話し出す。
「久しぶりだな、鉄丸。まさかそっちに寝返るとは物知らずめ。しかしよくお前たちもそいつを受け入れたな。命までも狙われていたのに」
「……!」
鉄丸は獣流忍者に父親を殺されたため、同じ獣流忍者である三人を殺し、獣流忍者を滅亡させようとしていた。しかし、日丸の広大な心によって共に戦うことを決めた。そんな過去の自分が許せない鉄丸はそのことを黒蔵に言われ、黙り込んでしまった。
「信じてるから、だろ」
大地が口を開き、黒蔵の質問に答えた。
「日丸が鉄丸を信じているから共に歩み、共に戦うことに誘ったんだ。お前には無いだろう。人を信じ、想いやるという広い心が!」
大地はいきなり走りだし、黒蔵に向かって刃を振るう。それに続いて武蔵と鉄丸も走る。黒蔵は大地の攻撃が当たる寸前に忍術を唱えた。
『影流忍法
すると大地の目の前にいる黒蔵がゆらゆらと揺れだし、段々とぼやけていく。やがて黒蔵の姿は無くなった。その時、上空から声がする。見上げれば飛び上がった黒蔵が左手首に右手の指を添えている。
『影流忍法
黒蔵が忍術を唱えながら空中を右手の拳で強く殴ると三人の近くに真っ黒な大きい拳が現れ、三人をまとめて殴る。その衝撃で三人ともが飛ばされる。体制を整え鉄丸が反撃をする。
『剛鉄流忍法
右手の手首を左手で覆い、右の掌を黒蔵に向ける。無数の小さな鉄の塊が物凄い勢いで飛んで行く。黒蔵は刀で全てを防ぐ。唐突に始まった戦いに病院の中では悲鳴が上がり、騒然となっていた。武蔵が『三嶋流・獣剣術 鰐の「尾」』出すが、弾かれてしまう。
『獣流忍法
巨大な緑に輝く熊が空中の黒蔵を襲おうとするが黒蔵は空中で身体を捻り華麗に避けると、見事に着地する。その隙を狙って武蔵が刀を振るが黒蔵は影の中に消えてしまい、武蔵の背後に回り込み、背中を蹴る。お互いが攻撃を仕掛けるが防がれるというのが延々と続く。しかし、直にその力量の差が表れ始める。黒蔵の攻撃回数が徐々に増し、
「黒蔵はなぜ戦うんだ……? 目的はなんだ?」
「──目的など……無い。俺はゲコ蔵の命令で動いているだけだ」
「そんなはずない! 俺たちはみんな何かしら目的があって忍者をやっているはずだ! お前にも本当は──」
「無いと言っているだろう!」
何を思ったのか先程の黒蔵とは違う、何か思い詰めているような目で黒蔵は三人に向かって『影流忍法
三人の視界から外れたところの影から出てきた黒蔵は鉄丸の言葉について考えていた。
「……目的、か」
黒蔵はそんなことを呟きながら薄暗い森の中へ去っていった。
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