第十二話 宣言

 拓史の攻撃を一方に受け、追い込まれた武蔵。拓史の刀がすぐそこまで迫っている時、謎の影が武蔵を庇う。そこには武蔵と強い絆を持つ一人の忍者が立っていた。その者とは、三嶋流忍者で智志の側近であり、ついさっき武蔵が刀を交えた幼馴染の志士だった。志士は左手の竹皮に包まれた一つの握り飯を武蔵の手元に置くと、一歩前に出た。


「逃げろと言ったはずだろ!」

「……生かしてもらった恩、智志くんの想い、三嶋に対する失望、拙者はまだ逃げてはならない。拓史様に伝えなければならないことがたくさんある。──拙者はもう、三嶋の忍者ではないでござる!」


 志士は拓史に向かって走り出し、刀を振るが拓史は先程と同様に素早く背後に回り込むと背中を蹴った。またもや屋敷から大きな音と勢いのよい風が起こる。拓史が様子を確認するとそこには志士の姿はなく、一つの小さい木の幹しかなかった。

 すると拓史の視界の片隅に黒い物体が映り目をやるとそれは引火してある爆弾だった。たちまち爆発するが拓史には効いていない。それどころか拓史は裏切りに対して怒りを覚えていた。拓史が影分身の術を使い、屋敷の周りを囲む量の拓史が現れる。

 拓史たちが志士が潜んでいるであろう屋敷を目掛けて攻撃を浴びせていくと屋敷が煙を立てながら崩壊していく。その光景を目の当たりにしていた武蔵の身体は無意識に動き、走っていた。武蔵は拓史に向かって刀を振るう。


 その頃志士はとてもまずい状況に陥っていた。外からの攻撃により、屋敷が崩壊しかけている。天井から大きい角材が落ちてきて畳に穴を開ける。常に床が軋み、木屑が上から降ってくる。次々に出口までの道が閉ざされていく。このままでは屋敷の下敷きになってしまう。その時、志士の背後に今までの角材などとは比にならない重みの何かが落ちてきた。振り向くと薄汚れた瓦が四、五枚転がっていた。上を覗くと星空が見える。志士は迷う暇もなく高く小さな穴から脱出を試みた。屋根の上に乗ると、武蔵と拓史が刀を交えているのが見える。すぐに駆けつけ武蔵に手を貸す。お互いに助けてくれた恩、智志の想い、三嶋への失望が募り力となる。幼馴染との息の合った連携が拓史を劣勢にする。そこで放たれる武蔵の剣術。


『三嶋流・獣剣術 ゾウの「きば」!』


 武蔵を覆うように薄灰色のゾウが現れる。突如としてゾウが目の前に出現したことに拓史と志士は驚きを隠しきれていない様子を見せると、武蔵は拓史に二本の刀を刺すように突き上げる。三嶋の広い敷地内の端までゾウの鳴き声が響くとゾウの牙が拓史を襲う。拓史は後方へ飛ばされ、庭に植え付けられている松に衝突した。武蔵は刀を鞘に収めると、すでに虫の息である拓史に近寄り一言放つ。


「これが三嶋武蔵だ。もうお前の中にいる俺とは違う。これから俺は別の道で三嶋という名を轟かせる。その様子をじっくり見ておけ」


 夜が明け、日が昇り出す。武蔵はボロボロの身体を動かし立ち去る。武蔵と志士は門をくぐり、先の階段に腰を下ろした。そして志士に向けてお互い自由に生きようと言った。志士は懐から竹皮に包まれた握り飯を一つ取り出すと、三等分にして武蔵と自分と自分の右側に分けた。二人は握り飯を食べながら昔三人で握り飯を分けていたことを思い出す。

 改めて武蔵は涙を流し、心を決めた。智志の分まで生きることを。すると志士は武蔵向けてお互い自由に生きようと言うと立ち上がり、飛び去っていった。武蔵も星忍たちの元へ行こうと立ち上がったその時、急に目眩が武蔵を襲う。そのまま前方へ倒れ、長い階段を転がり落ちる。武蔵は頭から血を流しながら階段の一番下で気を失った。


 星忍と鉄丸は大地の案内により、武蔵の向かったであろう場所を目指していた。しかし、大地が持っている情報と言っても「行かないといけない場所」ということだけ。後は武蔵が向かった方向を走っている。これでは埒が明かない。そこで月丸が良い方法を提案した。


『獣流忍法クナイ技 狛犬こまいぬ


 月丸が地面にクナイを投げると、青白く光る狛犬が現れる。狛犬は武蔵の臭いを辿って駆けていく。四人はその後を追う。道中で倒れている男を一人見つけた。息はしており、気を失っている様だった。周辺には血が散っており、男の物であろう刀も転がっていた。明らかに何者かと争った形跡がある。鉄丸が率先して介護をすると言い、他の三人は先を急いだ。


 しばらく走り続けていると、狛犬が立ち止まった。そこには木製の門が佇んでおり、表札には黒字で「三嶋」と彫られている。三人はまさかここが武蔵の地元だとは思いもしていなかった。門の戸を開け、敷地の中に入るとその広さに度肝を抜かれる。それと同時にたくさんの人間が倒れていることに気づき、三人は戸惑いながら手分けして武蔵を捜索する。そして日丸が階段の下で頭から血を流しながら倒れている武蔵を発見した。


 すぐに最寄りの診療所へ連れて行き、検査すると医師からは過度な運動により身体が限界を迎えていたおり、何かしらの突発的な行動で目眩を起こし、階段から落ちた際に頭部に強い衝撃が加えられたため、気を失ってしまった。重症ではあるが、特に命に別条はないということだった。また、道中で倒れていた男も同じ診療所へ連れて行くと目を覚ました。名を「安部あべ小次郎こじろう」と名乗り、四人にお礼を言った。それから武蔵が目を覚まさない日が長く続いたある日、またもや日丸と月丸が忍者協会から呼び出しをくらった。今回は問題という問題を起こした心当たりがない。二人は渋々大地と鉄丸に看病を任せ、忍者協会本部へと向かった。大地と鉄丸は二人について話した。


「あいつらどうせまたなんかやらかしたんだろ」

「二人とは長い付き合いだが、そんな奴らではないと思うが……。この間のも結局俺が原因だったし」


 その時、彼らの病室の扉が開いた。目をやると、そこには淡い桜色の着物を着た少女が立っていた。少女はどうやら医者を目指しているらしく、病人である二人におかゆを渡すと優しく微笑みながら「お大事に」と言うと病室を出ていった。少女を見て大地は赤面しながら興奮していた。


「え! 今の子可愛いッ! 誰? 何て名前なんだろ! アーーーッまた会いたい! あ! ちょっと追ってくる!」

「落ち着け……」


 そんな大地を鉄丸が呆れた様子で抑えるのであった。


 その一方で忍者協会本部では副会長である「ひいらぎ吉克よしかつ」が腕を組んでまっすぐな目線の真面目な表情で二人の到着を待っていた。まるで何か大切なことを告げなければならないと言わんばかりに。




第二章 「三嶋家」編

 ── 完 ──

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