第九話 鉄丸の本気

 間合いを取り、不敵な笑みを浮かべる鉄丸。いつも固い表情しかしていない鉄丸が笑っていることに大地は嫌な予感を感じていた。


「なかなかやるな、緑の忍者。だが我も弱くはない。見せてやろう我が本来の力を!」


 その途端鉄丸は刀を地面に突き刺した。力を溜めているかのように声をどんどん大きくして叫ぶ。叫び終わるとギロリとこちらを睨む。その目は見開いており、今にも獲物を狙う肉食獣かのようだった。そしてまた叫ぶかのように口角を上げて忍術を唱えた。


『剛鉄流忍法秘技 砂鉄大刃さてつたいばアァァァア!』


 鉄丸が突き刺した刀を引き抜こうとすると地面が大きく揺れ、ひびが入る。鉄丸が刀を引き抜くと刃渡り五メートルほどの大剣に成っていた。鉄丸は両手で柄を握ると横に振って攻撃してくる。大地は上空へ飛び回避すると牽制をする。


『獣流忍法クナイ技 イタチ!』


 三本のクナイを投げると緑に輝くイタチの姿へ化け、鉄丸に向かって空中を走る。が、すぐに大剣によって弾かれてしまう。その間に大地は建物の影へと身を潜め様子を伺う。鉄丸は大剣を引きずりながら大地を探している。鉄丸が歩いた道には長く繋がっている一本の傷が続いている。


「武器が大きい分、刀を左右に振るのは遠心力や空気の抵抗により負荷がかかるから遅いはず。だが鉄丸の力ではいとも簡単に素早く振り回している。これでは隙がない。一体どうすれば……」


 その時聞こえてきた。遠くの方から何者かがこちらに向かって走ってくる足音が。助けにきた声が。


『獣流忍法 とらの舞!!』


 大通りの真ん中、鉄丸の目の前に赤く煌めく巨大な虎が現れたかと思うと暴れながら突っ込んでいく。その後ろには二人忍者の姿が見える。鉄丸は大剣で虎をはらうと二人の存在に気づいた。


「星忍……! つまり獣流忍者の生き残りが三人全員来たということか。都合がいい! まとめて殺してやる!」


 鉄丸は三人に向かって大剣を振った。その攻撃を素早く躱すが、追撃が来る。三人は別々の方向から攻撃するが、鉄丸も劣らない。両者譲らぬ戦いが繰り広げられる中、大地が鉄丸の背後に出た。そして大通りの真ん中で唱える。


『獣流忍法 大地牛だいちぎゅうの術!』


 緑に輝く牛に跨った大地が鉄丸の後ろから突進する。それに気づいた鉄丸は振り返り、大剣を振り下ろす。刃が当たる寸前で鉄丸が飛ばされた。星忍は大地の大技を目の当たりにして唖然としていた。


「気を抜くな! 奴はまだ倒れていない!」


 急いで鉄丸の方へ視線を向けると立ち上がった鉄丸が大剣の先を正面に向けている。


「──ふざけるな……。まだ、まだ終わっていない!」

「鉄丸! どうしてお前は俺たちを襲うんだ! 共に修行した仲じゃないか!」


 日丸がずっと抱えていた疑問を投げかける。すると鉄丸は怒りを滾らせながら応えた。


「お前たちと別れた後、俺の父親は殺された……。そう獣流忍者にな! その時に決めたんだ、俺は数が少ない獣流忍者を終わらせるために忍者になろうと。だがそんな獣流忍者に生き残りが増えた。それがお前らだった。だからお前らが星忍だろうがなんだろうが俺は獣流忍者を殺す!」


 鉄丸は大剣を強く握りなおすと忍術を唱えた。


『剛鉄忍法 磁場増幅じばぞうふく!』


 地面が大きく揺れる。何が起きているのか把握できない。よく見れば大剣を握る鉄丸の両手が小刻みに震えており、地面の表面から黒いモヤが大剣に集合している。そしてどんどん大剣の刃が大きくなっていく。


 何が起きているのか。そう、鉄丸は自ら磁場を生み出し地面にある砂鉄を集め、大剣を更に大きくしていた。

 やがて八メートルほどの長さになると鉄丸はそれを振り翳し、三人に向けて地面に叩きつけるように振り下ろした。三人は左右に避けたが、振り下ろされた大剣は地面と接触するや否や地響きと共に土煙をあげた。

 日丸は視界が奪われたため上空へあがると大剣は姿を消しており、目の前には元の長さに戻った刀を右手に握っている鉄丸が間合いを詰めてきていた。咄嗟に左腕で身構えると鉄丸の刀によって切り傷を負ってしまう。鉄丸は更に容赦なく日丸を殴ったり蹴ったりを繰り返す。その時の鉄丸の顔は真顔のまま崩れない。狂気が溢れ殺意に満ちている顔だった。

 月丸が飛んで来て鉄丸を蹴り飛ばす。日丸は立っていられるのがやっとで、右手で左腕の傷口を抑えるが血が溢れて腕を滴り地面に垂れている。その様子を見た月丸は目を見開いて鉄丸を睨んだ。その瞬間強い風が吹いたかと思うと先程目の前にいたはずの月丸の姿は無く、鉄丸の視界に青い影が映った。


「ぶち殺してやるよ……」


 月丸はさっき鉄丸が日丸にやっていたことを同じようにやると、クナイを取り出し斬りつける。次々に忍術を放っており、慈悲などない。溜飲を下げるために力に任せて殴り続ける。鉄丸は抵抗しようとするがその暇さえも与えてもらえない。やがて立っていることさえもままならない状態になり地面に倒れ伏せると月丸が歩み寄ってくる。


「……死ね」


 月丸のクナイが青白く光り始めたその時。


「待て!」


 月丸を止める声が聞こえた。振り返ると血を流している日丸が息を切らしながら呼びかけていた。その日丸に月丸と大地は驚く。月丸は問う。


「何故だ! こいつは我々の邪魔をする、我々を抹殺しようと企んでいるんだぞ! ここで生かしておけば後に響くかもしれないだろ!」

「鉄丸はそんなやつじゃない! 俺はわかる。長い付き合いなんだ! 話せば分かる!」


 日丸の話を聞き、月丸は納得行ってないようだがクナイを下ろした。日丸は足を引きずりながら歩いてくると笑顔で鉄丸に話した。


「なぁ鉄丸。俺たちの仲間になってくれないか?」


 衝撃の一言に月丸、大地、鉄丸までもが驚いた。自分を傷つけた挙句、殺そうとまでした鉄丸に手を差し伸べた。


「な、何故だ? 俺はだって……」

「俺は鉄丸を信頼してる。本当の鉄丸を知ってるから」


 鉄丸はしばらく口を開けて見上げていたがいきなり一人で笑いだした。


「全くお前ってやつは変わらんな。日丸、もし俺がここで裏切ったらどうするつもりだったんだ?」


 そう言って鉄丸は日丸の手を取り立ち上がった。そして日丸は得意げに応える。


「言っただろ? って」


 日丸の一言で全員が笑顔になった。その後、鉄丸は月丸の方へ歩いてくると握手を求めた。


「月丸、お前の攻撃は流石にこたえた。強くなったな」

「それはお互い様だ。いつかお前をちゃんと超えてみせる。改めてよろしく」


 二人は握手を交わし、熱い絆が生まれた。そして鉄丸も共に旅をするようになった。

 その後鉄丸は大地と話した。


「これからよろしく。君も強かったな」

「まあ当然だな。俺は星忍の二人よりも強い!」


 日丸がすぐに反応する。夜の町の大通りで四人は元気に戯れた。そして四人は武蔵のところへ向かった。

 その頃武蔵は一人の男と刀を交えていた。

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