第八話 故郷
──その頃月丸は佑助の弟である佐助と対峙していた。月丸は佐助の俊敏な速さによる一方的な攻撃に苦戦していた。なんとか防いではいるものの少しずつ攻撃をくらい、体力も底に付きそうである。
「はっ! 所詮この程度か! まだまだだな二番煎じくん!」
「……二番煎じだと?」
月丸は自分に投げかけられた二番煎じという言葉に疑問を浮かべていた。
「ああ! 貴様はあの太陽くんの二番煎じだ! 同じ忍術を使い、同じように戦う。まるで個性のない分身みたいなものじゃないか!」
「それは、お前たちもそうだろ……」
「俺たちは違う! 同じ忍術を使うが、それぞれ独自の技がある! 兄は蝶のような優雅な技。我は蜂のような鋭い技がある。個性がある!」
たしかにこの間戦った際に二人の足りない部分を補い合うなどの息の合った連携を見た。また、彼が言うように佑助が蝶のように舞い、佐助が蜂のように刺すという表現がぴったりだ。それに比べて星忍の二人は各々がやりたいように戦う。元々月丸は父や日丸が忍者だったから忍者になったのだ。兄と同じ獣流忍法を学び、兄と同じような道を辿って生きていた。思い返せば月丸は日丸の分身なのかと言われても違和感がなかった。
「そんな貴様が我に勝てる訳などない! 協調性の欠片もない貴様が!」
何もかも佐助の言うとおりだ。周りに流されて生きてきた自分が、日丸と共に生きてきた自分が真逆な佐助に勝てるはずがない。諦めかけていたその時、月丸の脳裏に日丸に言われた言葉が走る。
「お前は今のままでいいんだ。もっと月丸を信じてやれよ」
その言葉に元気を貰った。月丸はその場に立ち上がりクナイを構えた。その様子を見てさっきまで笑っていた佐助が──まだ立つのか──と驚いた表情を見せる。月丸は呼吸を整えて言葉を発する。
「たしかに俺は二番煎じだ……。今まで周りに流されて生きてきた。だが俺は日丸じゃない! 同じ獣流忍者でも違う。同じ道を歩んでいても違う! 俺は月丸。俺は……俺を信じる! 自分の可能性を、自分だけの『力』を! 見せてやるよ……月丸を!」
そう言うと月丸は地面を強く蹴り、佐助に向かってクナイを振り下ろした。攻撃を刀で受けた佐助の顔には期待に満ちた笑みが浮かんでいた。
「面白い……。なら、見せてもらおうじゃねぇか!」
目にも止まらぬ速さでお互い攻撃と守りを繰り返す。さっきまで劣勢だったとは思えないくらいの接戦。どころか押している。一旦距離を置くと、瞬時に佐助が忍術を仕掛けてくる。
『火流忍法
すると佐助の刀は紫色の炎を纏い、離れたところから刀を振ると月丸を目掛けて炎の斬撃が飛んでくる。しかし月丸は止まらない。
『獣流忍法
月丸はクナイを前に構え、炎に向かっていく。炎を使う狛犬は全く鬼火に動じない。徐々に近づいてくる月丸に焦った佐助は咄嗟に別の忍術を唱える。
『火流忍法
佐助が刀を持ってその場で回り出すと剣先から炎が波を打つように月丸を襲う。なんとか躱そうとするが、連続の波に悩まされる。そこで月丸は懐から手裏剣を取り出し、忍術を唱えた。
『獣流忍法手裏剣技
そして炎の波に向けて手裏剣を投げ込んだ。手裏剣は青白く光る狸へと化けると波を掻き分けるように道を開いていく。その道を月丸は行く。
『獣流忍法秘伝奥義
光り輝く満月を背に炎の波の中を青白く光る狼と共に走る。真夜中の町に狼の遠吠えが轟くと同時に月丸のクナイが佐助を切りつけた。佐助は後方に勢いよく転がっていく。腹の傷口を抑えて言った。
「我が負けた……のか。あそこから、逆転があるのだな……面白い」
「お前に気付かされた、自分を信じてやる大切さに。感謝している」
「お互い知れたってことだな。ははは! その事を忘れんじゃねぇぞ! 月丸!」
佐助はニヤリと微笑むとそっと目を閉じた。月丸は佐助にお辞儀をすると、その場を後にした。
──その頃武蔵は山を降り、ある町に行き着いていた。その町は武蔵にとって思い入れのある町だった。今から十年前この町で暮らし続けるという人生を断ち切られた思い出。そう、この町は武蔵の実家が存在する町だった。戻ってきてしまった。そう思っていると、一人の忍者が姿を見せた。その忍者は武蔵を目にすると襲ってきた。どうやら三嶋家の忍者のようだ。三嶋家は武蔵の想定外の動きに焦っているようで武蔵を見つけ次第殺すよう命令が出ているらしい。すぐさま三嶋家の忍者が出てくる。武蔵は町中を逃げ回った。二つの建物の間に身を潜め、彼らがいなくなるのを待つ。が、武蔵の脳裏にある言葉が浮かぶ。
「──逃げてばかりではダメだな」
その言葉を思い出し、武蔵は決意を決めて大通りに出た。周りにいた三嶋家の忍者たちの視線が集まると同時に各々の武器を振り回しながら飛びついてくる。先頭で向かってくる者に対して切りつけた。
『抜刀技
すぐにもう一本の刀を抜くと二本の刀で相手するが、流石の武蔵でも数の差には負ける。武蔵も元々三嶋家の人間だったため動き自体は大体把握はしているが、死角からの不意打ちには対応できない。そんな不利な状況で絶望していたその時。
『獣流忍法
その掛け声と共に真夜中の暗い町中に緑に輝く牛が一頭、その上には緑の服を身に纏った男が一人座っている。牛は角をこちらに向けると猛突進してくる。武蔵を囲っている忍者たちに突撃すると次々に薙ぎ払っていく。牛の周りの忍者たちは横に飛ばされたり、地面に叩きつけられたり、宙に浮いたりして悲鳴をあげている。その様子を武蔵は口を開けて見ていることしか出来なかった。牛は武蔵までの道を自分で開くと近づいてくる。上に座っていた大地が声を掛けてきた。
「早く乗れ! こんなところさっさとおさらばだ! 二人も探しさないといけないからな」
「……待ってくれ。俺には行かないといけない場所がある」
大地は武蔵のまっすぐな目を見て目的はわからないが察した。この町でやらなければならないことがあり、そのために今まで剣術を磨いてきたということを。大地は武蔵の過去を知らない。もちろんこの町が武蔵の故郷など思ってもない。大地は武蔵を牛の背に乗せて夜の町の大通りを突き進む。田舎なこともあり、町には灯りが少ない。そのため夜空には星空が広がり、満月の光が夜道を照らす。武蔵の指示で道を進んでいたが、進行方向に人影が一つ。その人影は月の光に照らされて姿がはっきりとわかる。薄い灰色の忍者服に身を包んでいる男。大地は武蔵に一人で目的地まで向かわせる。
「草野大地、星忍と同じ数少ない獣流忍者の生き残り。手始めにお前から殺してやる」
「俺はそんな簡単に攻略できないぜ?」
大地は牛に乗ったまま鉄丸に向かって突進した。華麗に回避した鉄丸は背後から手裏剣を投げてくる。牛は颯爽と姿を消し、大地は地面を滑りながら振り返り刀で手裏剣を弾いた。お互い地面を蹴り前方へ飛ぶ。刀と刀がぶつかり、鍔迫り合う。お互いが間合いを取ると瞬間鉄丸は刀を収め右手のひらをこちらへ向け左手で右手首を掴むと忍術を唱えた。
『剛鉄流忍法
鉄丸の目の前から無数の小さい鉄の玉が飛んでくる。刀で防ぐがあまりに数が多い。横へ躱すが鉄丸は弾丸の方向をこちらへ向けてくる。このままでは埒が明かないと感じた大地は躱しながら忍術を放つ。
『獣流忍法
現れた緑に輝く巨大な熊が鉄の玉を弾きながら鉄丸との距離を詰める。その後ろから大地が追い打ちをかける。
『獣流忍法忍者刀技
大地の刀の先に緑に輝く兎が見え、鉄丸に向かって駆けていく。しかし鉄丸も屈しない。大地の怒涛の攻撃を難なく受け止め続ける。お互いが刀で攻守を繰り返す。傍から見ればなにが起きているのか分からないほど目にも止まらない速さで刀を振るう。しばらく格闘した後、鉄丸が間合いを取った。そのときニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その行動に大地は嫌な予感を感じた。
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