第七話 双子同士の戦い
「俺も君たちの旅に連れて行ってくれないか」
武蔵からの予想外の一言に三人は一瞬驚いたが、武蔵の熱い眼差しを見て承諾した。武蔵は顔の筋肉を緩ませ、笑みを浮かべた。そしてありがとうと一言放った。──あ、そうだ! ──と武蔵が言い出したかと思うと、良い提案と称し三人をある場所へ連れて行った。
日も沈み、辺りが暗くなった頃、三人が武蔵に連れられ辿り着いたその場所を見て三人共口を閉じることを忘れてしまっていた。それはどう見ても高そうな旅館だった。田舎育ちの三人は恐る恐る中へ足を踏み入れる。中へ入ると女将と思われる女性が迎えてくれた。
武蔵の思うがまま事が進み三人は温泉に浸かった後、部屋へ戻ると机の端から端までびっしりと料理が並んでいた。
「さあ、食べよう!」
武蔵が手を叩きながら席についた。三人も真似をするように座る。目の前には見たことの無いような豪華な料理様たちが鎮座されていらっしゃる。グツグツと音を立てている一人一つずつ用意された鍋。理解に苦しむがとりあえずお洒落だということはわかる野菜。華やかに盛り付けられた刺身。三人は目を輝かせて眺める。四人は箸を手に取り、各々料理を口に運んでいく。そこで月丸が突然声を上げた。
「なんだこれはっ!」
突然の大声に全員が驚き目をやると月丸の手には湯気がたち紅色に輝く細長い物を持っている。それを見た武蔵が月丸の疑問に答えてあげた。
「──
蟹を初めて目にした月丸はその瞳を輝かせて口に運ぶ。ほくほくの熱さによく出汁の効いた味が口いっぱいに広がり、風味が鼻を抜ける。四人はご馳走をしばらく堪能したあと布団に入ると疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。ふと日丸が目を覚ますと夜空を眺める月丸の姿を見つけた。寝られないのか聞くと、悩み事があると言う。
「俺はこのままでいいんだろうか。特に何も考えず生きているなんて」
「お前は肩に力が入りすぎなんだよ。もっと気楽に生きろ。俺なんてお前よりよっぽど考えてないだろ? お前は今のままでいいんだ。もっと月丸を信じてやれよ。じゃ、おやすみっ!」
そう言うと日丸は再度布団に潜った。月丸も気が楽になりそのまま就寝した。
──翌日──
朝起きた四人は旅館を後にした。とてもいい気分で外に出た時、自分たちを怒りに満ちた顔で指をさしてきている。なにか口を動かしているが距離が離れていて聞こえない。途端その男はこちらへ走ってきた。後ろから大勢の人々を連れて。徐々に近づいてきて声が聞こえてくる。
「待てー!」
そういえば「清水組」に追われていたのだった。いつになったら追われる身ではなくなるのか。呆れながら逃げる時間が戻ってきた。狭い道を一列で走り、柵を飛び越え建物の影に身を潜め、屋根を伝って逃げ延びた。周りから奴らが居なくなるのを確認してから一息ついたその時思い出した。黒蔵たちに襲われた時、四人は彼らを守ったはずなのにまだ疑われているのか。こんな街は早々に離れて別のところに逃げたほうがいいと武蔵が提案した。そのまま四人は街を離れた。
平野を歩いていると四人の前に二人の人影が見えた。またしても黒蔵と鉄丸なのかと思ったがどうやら違う。見ず知らずの人が立っていた。なにか困っているのか、人助けのつもりで近寄るとその二人は声を出した。
「よく来たな……標的共……」
「我ら最強の兄弟がお前たちを倒してやるぜ!」
話しているセリフ的にどうやら敵らしい。二人は兄の「
『火流忍法
佐助の周りを蜂が飛び回り、その蜂たちが一点に集まると大きな炎の球体となる。離れていても肌で熱を感じる。その球体はどんどん大きくなっていき、やがて巨大な球になるとこちらに向かって飛んでくる。
「くらえ! アツアツだぜ?」
大地が咄嗟に前に出て同じように術を唱えた。
『獣流忍法
目の前には緑に輝く巨大な熊が出現すると暴れながら球体を止めた。弾けた球体は無数の蜂の姿に戻り、火の粉のように空中でいつの間にか消えていた。続いて月丸も牽制をする。
『獣流忍法手裏剣技
青白く光る狸へと化けた手裏剣が佐助に向かって走っていく。佐助が身の危険を感じた時、間に入った佑助が切り落とすと佐助と同じように左手をこめかみに当て唱えた。
『火流忍法
大きい蝶が現れ、炎の体でこちらに近寄ってきたかと思うと蝶は四人に向かって羽で仰ぐと、熱風を浴びせてくる。全員の顔に汗が見られる。日丸が応戦する。
『獣流忍法
赤く煌めく猫たちが炎の蝶をかき消す。それと同時に大地が煙玉を地面に叩き付けた。両者の間に煙幕がたち、四人は山奥へ逃げた。そして山の中で一夜を過ごすことにした一向は策を練っていた。
「このままの力だとゲコ蔵と戦うことすらできない」
「逃げてばかりではダメだな」
星忍の二人が言う。しかし、前に比べれば力はついていると思うがゲコ蔵まで手は届かない。次は逃げない。どれだけ劣っていても正面から戦う。そう決めた後眠りについた。丑の刻に武蔵が目を覚ますと、山の中で松明の火が揺れていることに気づいた。清水組が後を追ってきていた。武蔵はすぐに三人を起こし、事を伝える。全員がバラバラに逃げることになった。真夜中に山の中で木を飛び移り逃げ回る。戦略的撤退だ。清水組に悪気はない。すなわち戦う必要がない。それぞれが山を降りると、待ち受けている者がいた。
日丸が山を降り走っていると、目の前に火の攻撃が降ってきた。咄嗟に後ろへ下がると、今日丸が立っていた場所の草が燃え上がった。
「また会ったな……標的……」
日丸の前に佑助が姿を現した。夜の草原で戦う。日丸と佑助はお互い刀を構える。建物のない草原に金属がぶつかり合う音が響く。お互い隙を見せない戦いが続く。呼吸を忘れてしまうくらい緊迫した空気が張り巡らされた時、佑助が左手をこめかみに当てる仕草をした。
『火流忍法
たちまち日丸を火の輪が襲う。それを躱しつつ下から攻撃を仕掛ける。しかし佑助も刀で防ぐとそれから攻防戦が続く。佑助の刀は熱い。刀同士がぶつかる度に火の粉が日丸を襲う。そんな火の粉に気を取られていると、佑助が刀を大きく振り被り忍術を唱える。
『火流忍法
その瞬間佑助の刀は発火して燃え上がる。急いでその攻撃を防ぐが、目の前で炎が燃え顔中に汗が見られる。このままではまずいと思い日丸は一度距離を取ろうとするが、佑助はそんな暇さえ与えてはくれない。仕方なく日丸は忍術を唱える。
『獣流忍法
途端に猛獣の叫び声が聞こえ、その衝撃が佑助を吹き飛ばす。すると佑助は体制を整えて左手をこめかみに当てると忍術を唱える。
『火流忍法
しかし一度見た攻撃には動じない。水平に真っ直ぐ日丸まで進んでくる火球に向かって日丸は走り出した。刀を右手に握り、刃を顔の左側まで持ってくると勢いよく火球を切りつけた。
『獣流忍法忍者刀技
火球を一刀両断した後、日丸の刀は炎を纏っていた。そのまま直進して佑助に炎刀を振るう。日丸の攻撃を受けた佑助の刀は勢いを止められず跳ね飛ばされ、遠くの地面に突き刺さった。咄嗟にものすごい速さの拳で殴ってくるが、攻撃を見切った日丸の蹴りにより十メートルほど飛ばされたあと片膝を地につけた。そのまま日丸は勢いを殺さずに追い討ちをかける。
『獣流忍法秘伝奥義
佑助目掛けて一直線、真夜中にギラギラと照る太陽を背に赤く煌めくライオンの吠えが響くと同時に日丸の刀が佑助を捉えた。腹から血を流しながら佑助は地面に倒れた。まだ息があるうちに日丸が寄ってきた。
「何故だ……なぜ負けた? 私は強い。私は佑助だぞ! それなのに、なぜこんなボンクラ如きに……!」
「お前は強い、それは認めてやる。だが、俺はボンクラなんかじゃない。そして、なぜお前が負けたのか教えてやる。お前は浮かれていた。だから負けた。自分は強い、自分は負けないと自負し、そのまま俺を舐めていた。だからお前は隙をついた俺に対応出来なかった。自分の技で見えてなかったんだ、俺の姿が。よく知りもしない他人を簡単に侮るな。その結果が今のお前だ」
「……ぐっ! クッソオォォォオ!」
そう言い放つと日丸はその場を立ち去り、他の三人と合流するために近くの町へ向かった。
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