第六話 秘伝奥義

 奥山町を後にした星忍の二人と草野大地。彼らはある街に訪れていた。そこは繁華街で奥山町よりも賑やかだ。大通りには馬が引く車が通っている。三人は目を丸くしていた。夜なのに全く暗くない。建物も高い。都会って怖い。そんなことを思っていると、三人の周りの人々が急に道の脇に寄り出した。そして道の真ん中に取り残された三人を不思議そうな目で見ている。すると三人の背後から大きな団体様が迫っている。


「無礼者! 道を開けないのならば、処罰とする!」


 先頭を歩いていた男が剣先を三人に向けて言った。いきなり処罰と言われた三人は焦って道を開けた。三人が道を開けると再び団体は進み出した。何人かが一人の男を囲っており、後方には旗を掲げた者もいる。旗は水色の生地に大きく「清水組」と刻まれている。その後ろからは見覚えのある人たちがいる。奥山町を攻めてきた「浅川組」だった。団体は大通りの先にある建物へと入っていった。彼らが去ると開いた道は再び人で埋まり、何事もなかったかのように先程の光景へと戻った。

 だんだんその情景に慣れてくると、あちこちから美味しそうな料理の匂いが漂ってくる。でも金がない。三人は料理を横目に早々とその町を離れようとした。すると三人の目の前が騒がしくなった。


「誰かそいつを捕まえろ!」


 どうやら泥棒が出たらしい。黒いフードで顔を隠した人影が人混みの間を縫って去っていった。気づいた三人は後を追った。犯人は人目につかなそうな裏路地へ入っていった。細い一本道を追う。曲がり角を曲がると光が指した。そこはさっきとは別の繁華街が広がっており人集りがあった。犯人の姿を見失った時、遠くから何かが近づいてくる。先程見た人が道の脇に寄る光景。団体の先頭を歩いていた男が三人を見つけた。


「お前たちが犯人だろ! 大人しく投降しろ!」


 彼らは罪を着せられがちなのだろうか。大人しくしよう、星忍の二人はそう思った。が、一人は違った。


「違ぇよ! 捕まってたまるか! 逃げるぞ!」


 いや、逆に怪しいよ? 大地。二人は大地に引っ張られて逃げる。彼らは忍者なため、並の人間よりも足が速い。建物の上を走り逃げる。清水組の集団が三人を追いかける。その様子を同じように犯人を追いかけていた「三嶋武蔵みしまむさし」と、忍者協会の副会長「ひいらぎ吉克よしかつ」が見ていた。武蔵は元忍者なため、三人が同じ忍者だとわかった。柊も同様、三人を見て忍者だと勘づくと、二人も三人の後を追った。逃げた先では清水組や浅川組の人たちが待ち構えていた。見覚えのある顔もいる。


「もう逃げられないぞ!」

「仕方ねぇな。戦うぞ!」


 一斉に男たちは斬りかかってくる。すぐに武器を取り出し戦う。傍から見たら完全に悪者。早速全員が忍術を使用する。


『獣流忍法 妖猫ようびょうの術!!』

『獣流忍法 妖狐ようこの舞……!』

『獣流忍法クナイ技 イタチ!!』


 日丸の周りには赤く煌めく猫たちが三体現れ、男たちに薄紫色の炎を放つ。月丸の目の前には青白く光る九つの尾を持った狐が姿を見せ、舞を踊るように暴れる。大地のクナイは緑に輝くイタチが見えて、その俊敏さに目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出す。獣流忍者は広く知られていない。男たちは目の前で起きた謎の現象に戸惑っている。その様子を見ている武蔵と柊も同様だ。しかし、数の差が徐々に効いてくる。流石に三人では厳しかった。ここまで抵抗していると、冤罪を訴えるのは不可能だろう。そこにが現れた。


「大丈夫か、忍者! 俺はお前たちが犯人ではないことを知っている。だがコイツらには話しても無駄だ。難を逃れたいのなら手を貸してやる!」


 そう言って共に戦うことになった。二本の刀を巧みに扱い、一人でいくつもの敵を相手している。夜も更けた星空の下、開けた土地で戦っている。四人は彼らを殺そうとはせず、攻撃を防いだり牽制して逃げる隙を伺う。

 その時見えた暗い夜空に光る点。その点は彼らを目掛けて近づいてくる。だんだんと輪郭がはっきりしてくる。その姿は龍だった。黒龍は声を荒らげながら突っ込んできた。奇襲を躱した彼らは一旦戦闘を止めた。それは見覚えのある龍だった。


「久しぶりだな、忍者共」

「この人たちは何もしていないだろ! なぜ攻撃した!」

「我々はお前たち三人を殺したいだけだ。巻き込まれた奴らのことなど知らん」


 目の前には黒蔵と鉄丸がいた。無意味に関係ない人たちを攻撃するということは許してはいけない。三人で立ち向かおうとすると武蔵も協力すると言いだした。忍者たちは忍術を使う。武蔵は刀で戦う。到底武蔵は戦力にならなかった。大地と黒蔵、星忍と鉄丸が戦う。だが、黒蔵と鉄丸は前よりも明らかに強くなっていた。どう見ても押されているようにしか見えない。


「そろそろ終わらせよう。『影流忍法 しん黒影龍こくえいりゅう』!」


 まともに攻撃をくらった三人は五メートルほど飛ばされその場に倒れた。それを影で見ていた柊が参戦しようとしたその時だった。日丸と月丸がボロボロの体で立ち上がる。諦める様子はさらさらない。それどころか彼らの目は勝つことを目指している。これ以上動くのは危険。ましてや攻撃をくらうなど、彼らの命に関わる。そんな状況で二人は黒蔵たちに対して忍術を放った。


『獣流忍法秘伝奥義 日光獅子にっこうじしの術!!』

『獣流忍法秘伝奥義 月光狼げっこうろうの術!』


 その術を唱えた直後日丸の背後に太陽が、月丸の背後に月が出現すると、二人は光に包まれ走り出した。だんだん彼らを覆うように赤く煌めくライオンの姿と青白く光る狼の姿が見えてきた。二体の獣が吠えると同時に黒蔵と鉄丸に突進した。この攻撃をくらった二人は後方に弧を描くように飛ばされ、大木に背を打ち付けて地面に倒れ伏せた。

 術を放った二人もその場に倒れ込み、意識を失った。そしてその一部始終を見ていた全員が唖然としていたそんな中、柊だけは驚愕していた。


「あいつらは確か、獣流忍者の生き残りのはず……。だが、今のは……まさか──」


 柊は二人の忍術に違和感を感じていた。柊は星忍の二人に注目し始めていた。その場に倒れ込んだ二人を大地と武蔵は連れて帰った。


 二人が目を覚ますとそこは小規模な病院だった。二人は全身に怪我を負っていたため、包帯に巻かれている。大地が眠そうな目をしながら二人が目を覚ましたことに気づくと目をパッと見開いて声を掛けてきた。これまでの事情を大地から聞いていると三人がいる部屋の扉が開いた。一番怪我の軽かった武蔵が何があったのかを話していたらしい。四人が合流してしばらく無駄話が続いた。そこで初めて三人と武蔵は挨拶を交わした。



──数日後──


 全員の怪我が完治したあと、四人は病院を出た。三人はこれからも各々の目的を果たすために旅を続けるが、武蔵はどうするのかと尋ねた。武蔵は少し考え自分の中で決心すると口を開いた。


「俺も君たちの旅に連れて行ってくれないか」

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