第四話 黒い影と緑の光
二人は呼び出され、忍者協会本部へ足を急がせていた。
忍者協会とは、星忍の二人も所属している数少ない忍者たちが集った協会。数が少なくどこにも仕えていない忍者たちが所属し、お互いを支援し合っている。
呼び出しは伝書鳩が手紙を運ぶ。伝書鳩が本部に帰還してから、五日以内に着かなければ忍者の職を剥奪されてしまう。二人は父親の仇を取るために、なんとしてもゲコ蔵を倒さなければならない。
そして本部へ向かっていると、目の前に二人を待ち構える人の姿があった。
「ここは通さん」
「頼む鉄丸! どうしても行かなくてはいけないんだ!」
鉄丸はゲコ蔵を倒そうとしている二人から忍者の職を奪うため、時間稼ぎをしようとしていた。二人は仕方なく戦う。
「なんならここでお前たちを倒してやる」
鉄丸は刀を抜き出し、二人に向かって振ってくる。
日丸も同じように刀で立ち向かう。
現在夜の九時ほど。
本部には中々の距離があり、向かうまでに想定二日かかる。五日以内なのでまだ余裕はあるが、それでもこの先何があるか分からない。
こんなところで時間を食ってる暇はない。先を急ぎたい月丸は忍術を使い、
『獣流忍法手裏剣技
月丸は鉄丸目掛けて手裏剣を三つ投げる。
その手裏剣は月丸の手を離れると、青白く輝く狸の姿へと化け鉄丸の方へ空中を駆けて行く。
それを見た鉄丸は戸惑う様子を見せながら一歩下がった。その隙を見計らって二人は本部へと急いだ。
一方奥山町では謎の男の駆けつけにより、浅川組を抑え追い返すことに成功していた。
町民たちには安心が戻り、いつも通りの日々を送っていた。
謎の男は星忍と入れ違いで宗岸道場に訪れていた。男は二刀流の剣術士で独自の剣術を完成させるため旅をしているらしい。
──二日後──
星忍はなんとか忍者協会本部へ間に合った。
奥山町での一件について詳しく聞かれ、ゲコ蔵たちの存在などを話した。
忍者ということは奥山町の人々には秘密にしなければならない。なぜなら彼らは普通の忍者たちとは違い、数が少ないからだ。
そのことについて入念に注意を受けた二人は一旦奥山町へ戻った。
奥山町へ戻る道中で刀を腰に携えた赤い道着の男とすれ違った。
最近歩いた道を戻っていたその時であった。
見知らぬ忍者が二人の前に現れた。全身を黒い服装で覆い、嫌な雰囲気を放っている。目元を見れば二人を睨みつけている。
「我が名は
彼はゲコ蔵の仲間で、影を扱う「
黒蔵は足元の影に沈んでいく。
二人の目の前から姿を消したかと思うと、背後の影から出てきて不意打ちをする。影の中を自由に移動する黒蔵に苦戦してしまう。
こんなところで負ける訳にはいかない。
すると黒蔵は二人の前に現れると、忍術を使った。
『影流忍法
瞬く間に二人の前には無数の黒蔵が現れる。全員が刀を構え、襲いかかってくる。本物の黒蔵がどれかわからない。片っ端から影を斬っていく。
『獣流忍法小太刀技
『獣流忍法クナイ技
次々に偽物の黒蔵を斬っていく。しかし、一体切れば一体増える。いくら倒しても数が減らない。
このままでは埒が明かない。
そう考えた日丸は一掃できる忍術を放つ。今までとは違う構えを取り、黒蔵たちに囲まれながら唱える。
『獣流忍法
その瞬間、日丸の目の前には赤く煌めく巨大な虎が姿を現し、舞をするように周りの黒蔵たちを薙ぎ払った。
周辺に虎の鳴き声が響く。月丸も続く。
『獣流忍法
月丸の周りに青白く光るハイエナが三体現れる。そして遠吠えをした後、月丸を囲んでいた無数の黒蔵に噛み付く。
月丸の追撃により、その場にいた黒蔵たちを一掃した後、木の上から黒蔵が降りてきた。
「流石にか」と声を漏らすと右手を首に当て左右に首を傾けた。黒蔵は右手の人差し指と中指を左手の手首にそっと当てると今までとは少し雰囲気を変え、迫真に言った。
『影流忍法
そうすると黒蔵の背後の影が波を打ち出す。
その瞬間暴風が二人を襲い、空は曇り、真っ暗になる。この世のものとは考えられない鳴き声が轟く。それと同時に地面が震える。
光など吸収してしまうような漆黒の鱗に、自然と視線を奪われるような黒蔵の目と似たような瞳。二人は体が硬直してしまって動けない。
「やれ」という黒蔵の命令を聞くと龍は二人を目掛けて声を荒げながら襲ってくる。
なぜか二人の足は言うことを聞かない。動かそうと意識しても鉛のように硬くなり、微動だにしない。
まるで足が意思を持ち、「動く」という行為を拒んでいるかのようだ。もうすぐそこまで龍が迫っている。黒蔵の口角が上がったその時だった。
遠くから馬の鳴き声が聞こえた。
足音が颯爽と近づいてくる。松村忠信がまた助けに来てくれたのかもしれない。だが、黒蔵には叶うはずがない、危険なだけだ。
でも二人にはどうすることもできない。足音は近づいてくる。龍も近づいてくる。
無謀な未来に諦めようとした時、二人に対して横から強い風が吹いた。風は二人を
風かと思っていたものは緑色の服に身を包めた二人や黒蔵と同じ忍者だった。急いで周りを見回すが、周りに奥山町の人たちらしき姿はなく、馬の姿さえも見当たらなかった。
忍者は黒蔵の前に立つとニヤリと微笑み背負っている鞘から刀を抜き出すと、刃先を地面に向け、左手の人差し指と中指を立て顔の前に添える。
「その構え、まさか……!」
日丸は謎の忍者が取る見覚えのある構えに気づいた。その構えとは奥山町で鉄球に襲われた際、日丸が取っていた構えとよく似ていた。すると謎の忍者は忍術を出した。
『獣流忍法
淡く緑色に輝く一頭のイノシシが謎の忍者の前に現れ、黒蔵目掛けて走り出した。獣流忍法を出す謎の忍者はそのまま黒蔵に立ち向かう。ある程度牽制すると、二人に声を掛けてきた。
「足は動くようになったか?」
「あ、ああ……! お陰様で」
「よし、引くぞ!」
そう言うと謎の忍者はこちら側に逃げてきた。二人も急いで立ち上がり、共に走る。待て! と黒蔵が追いかけてくる。
「面倒だなぁ。よし、『獣流忍法撒菱技
謎の忍者は走りながら唱え、懐から撒菱を撒いた。すると散らばった撒菱はカエルの姿へと化け、黒蔵の足元でぴょんぴょんと跳ね始めた。その隙に三人は全速力で走った。
ある程度逃げた先で建物の影に身を潜めた。
一息つくと、謎の忍者が自己紹介をする。彼の名前は「
大地曰く、獣流忍者を受け継いだのは三人のみらしい。大地は幅広い動物たちの力を扱い、使いこなすと言う。
二人は目的を大地に話した。大地の目的は獣流忍法を広めることらしい。三人は協力して共に旅をすることになった。
三人はそのまま奥山町へ戻り、宗岸道場へ向かった。数日ぶりに滑りの悪い引き戸を開け、中に入ると傷だらけの宗岸親子がいた。無事にお互い生きて再開できた。
二人は奥山町を出ることを伝え、深くお辞儀をして感謝した。
奥山城へも立ち寄り、挨拶をした。三人が去るとき、奥山の町民たちが手を振って見送ってくれた。
三人も町民の人たちへ手を振り返しながら奥山町を後にした。
第一章 「奥山町」編
── 完 ──
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