第三話 再会と出会い

 太陽が照らす町の中、二人は見覚えのある顔と対面する。その男は薄い灰色の忍者服に身を包んでおり、少しばかり見える目元からはこちらを睨みつけるような鋭い視線が確認できる。


「久しいな、星忍」

「え、もしかして鉄丸……? 鉄丸じゃん! 久しぶり!」

「待て日丸。なにか怪しい……」


 不穏な雰囲気を放つ鉄丸に月丸が気づいた。あの時仲の良かった鉄丸とはまるで別人のようだ。


「馴れ馴れしく関わるな。俺はお前たちを消すためにここに来た。だからお前たちに罪を着せたのは俺だ」


 鉄丸は自ら自分がしたことを告白した。その報告を聞き、二人は驚く。太陽は雲に隠れ風が強くなる。日丸からも笑顔が消え、一瞬で空気が張り詰める。しばらくそんな空気が続いたかと思うと、鉄丸がいきなり攻撃を仕掛けてきた。


「ここで、仕留める……!」


 二人までの距離は約十メートルほど。その距離を一瞬で詰めてくる。その間にいつの間にか右手には刀を構えており、日丸を目掛けて振り下ろした。

 キンッという音が響いたと思うと、鉄丸の刀は日丸の顔の寸前で一本のクナイに遮られていた。その手に沿って横へ視線を移すと、月丸が左手を伸ばしていた。

 月丸が気を引いている隙に日丸が前方へ蹴り飛ばす。ある程度離れたところで体制を整えた鉄丸は独特な姿勢をとる。刀をしまい、右手の掌を突き出し左手で右の手首を強く握る。


『剛鉄流忍法 大玉鉄球おおだまてっきゅうっ!』


 その掛け声と同時に二人と鉄丸の間に先日見た大きな鉄球が姿を現した。その瞬間二人は犯人は鉄丸だったのだと気がついた。鉄丸は鉄球を二人を目掛けて蹴った。ゴロゴロと鉄球が転がってくる。しかもどんどん加速している。地面が緩い傾斜になっていた。

 日丸は前例どおり術を出して鉄球を切ろうとしたその時、鉄球が地面に転がっていた石に引っかかり宙に浮いた。大きな鉄球が二人の頭上から落ちてくる。その鉄球を二人で下から受け止める。このままではまずい。

 すると遠くから馬の足音が聞こえたかと思うと、徐々にこちらに近づいてくる。


「星忍殿!」


 馬に跨った男が武装した男たちを引き連れて駆けつけてきた。馬に跨った男の命令で男たちが協力して鉄球は下ろされた。


「ご無事でなによりです」

「ああ、ありがとうございます」

「私は松村忠信まつむらただのぶと申します。なにかお力添えをと」


 気づくと兵士たちは鉄球の処理をしており、鉄丸の姿は無かった。そのままトントン拍子でまたもや奥山城へと戻ってきた。


「私の紹介が遅れた。私はこの家の主人である奥山秀俊おくやまひでとしと申す。この度は誠に申し訳なかった。なにかお詫びをしたい」


 二人はその誘いを断った。元々ここには鍛錬のために来たのだ。ただでさえ時間を食ったのにこんなところでまったりしている場合ではないのだ。そうして二人は奥山城をあとにし、目的である道場へと向かった。


 二人は道場へ到着した。扉の右側には「宗岸むねぎし道場」と書かれた木製の汚れた看板が二人を迎え入れた。二人は滑りの悪い引き戸を開け、声を掛けた。すると奥から年季の入った道着と袴を着た若い男が一人出てきた。諸々話すと中へ入れてもらえた。

 奥へ入ると、渋そうな男性が眼を閉じて瞑想をしていた。恐る恐る近づくと、男は低い声を発した。


「──誰だ」


 静かで狭い部屋に声が響く。若い男が男性の向かいに正座し、訪問者です、と報告をする。それを聞くと男性は閉じていた眼をバッと開いた。その瞬間二人の背筋が凍ったかのように感じた。


「──何の用だ」

「あ、あの……強くなりたくて、来ました!」


 日丸は日和っていてはいけないと思ったのか変に力を入れて言った。その後に月丸が冷静に付け加える。


「我々は因縁の相手を倒すために強くならなくてはいけません。そのため、ここで貴方に指南して頂き新たな力を身につけたいのです」

「──そ、そうなのでごさいますっ!」


 その様子を見て男性は顔を緩めた。男性は二人の意志を受け入れ、指南することを認めた。


「私の名前は宗岸典平むねぎしのりひらだ。こちらは息子の雅文まさふみ。ここでは剣術を身につけてもらう。最初に言っておくが、私はかなり厳しいぞ?」

「問題ありません!」


 こうして二人は長い間、宗岸道場で鍛えることとなった。道場での鍛錬は容赦なかった。しかし二人は獣流忍者の修行でもっと辛いことを経験していた。そう思っていたのだが、いざ刀を振ってみれば普段扱っている忍者刀に比べ、刀身も長く重い。刃が上に沿っており、うまく言うことを聞かない。その様子を見て雅文が構えから振り方まで細かく教えてくれた。

 そんなある日のことだった。道場の外がガヤガヤと騒がしい。表に出てみれば、青い羽織を身につけ刀を腰につけた集団が大声を出しながら歩いていた。


「この町の町民に告ぐ。ここから出ていけ! 然もなくば、我々『浅川組あさかわぐみ』が攻め入るぞ!」


 その騒ぎを見て典平たちは彼らの前に出た。


「攻めれるものなら攻めてみろ。ワシらはなにがあってもここを出ていかん!」


 典平の反抗を聞き、彼らの後ろから不気味に微笑む男が掻き分けて出てきた。男は「浅川悟あさかわさとる」と名乗り、宣戦布告をして去っていった。──え、マズいんじゃないの? ──とその場の全員が顔を合わせた。



──後日──


 宣言どおり「浅川組」が奥山町を攻めてきた。町民たちはパニックで大混乱。奥山城から兵士たちが出てくる。宗岸の親子も戦う。その日、奥山町で一番の戦が始まった。

 そんな時に、星忍の二人を忍者協会が呼び出した。二人が奥山町に訪れてから平和だった町が一変してしまったからだ。


「こんな時に……」


 二人は悩んでいた。奥山の人たちと共に戦うか、協会に足を運ぶか。今ここを離れるともしかしたら奥山町は無くなってしまうかもしれない。だが、早く行かなくては目的を果たせないまま今後の未来が断たれる。


「いたぞ! 覚悟しろ!」


 浅川組の数人に見つかってしまった。仕方なく戦う。忍者だとバレないように学んだ剣術で戦う。しかし、日本刀の経験はまだ浅い。普段から刀を主に扱っている浅川組とは明らかに不利だ。すると横から颯爽と雅文が駆けつけ刀を構える。


「用があるんですよね。行ってください。ここは任せて」

「でも人数が──」

「問題ありません。だって僕は、ですから!」


 そう言うと雅文は十一人を相手に一人で立ち向かった。今まで一緒に学んだ技、雅文が丁寧に教えてくれた技、その全てを見事に使いこなし敵を圧倒する。そんな状況を背に二人は罪悪感を抱えながら忍者協会へ向かった。


 雅文は戦っていた。しかし重い日本刀を振り回し、十一人を一人で相手するのは流石に長くは続かなかった。左腕に一箇所、右足の太ももに一箇所切り傷を負ってしまった。雅文は怪我を負いながらも構えはしっかりしていた。


「これまで、か……」


 諦めかけていたその時、ものすごい速さで何者かが近づいてくる。その者は赤い道着を着た男だった。腰の左側には二本の鞘を携えている。その男は一本の刀の鯉口を切る。そして抜き出しながら雅文を囲んでいた連中の中の二人を斬った。


『抜刀技 電光石火でんこうせっか!』


 謎の男は彼らが囲っている中に入ると雅文に背を向けた。男は顔をこちらに向けずに雅文の無事を確認した。そして共に戦おうと言うと刀を構えた。


「あなたは……何者ですか……」

だ。自分だけの剣術を探すためにあちこち回っている。さあゆくぞ……!」


 謎の男の駆けつけによって雅文は一命を取り留めた。

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