第二話 七転八倒
そもそもなぜ二人がこの町にいるのか。
今二人は因縁のゲコ蔵を倒すために自分たちを鍛える旅に出ている。
そしてこの町の道場で強い人がいるという情報を聞いてやってきたのだ。
謎の怪事件を止めたことにより、大きく町民にもてなされた二人は宿泊先を設けてもらい、その日の夜を過ごした。
次の日の早朝、なにやら外が騒がしい。
何頭かの馬が地面を力強く蹴って蹄と地面がぶつかる音が町中に響く。その音で二人は目を覚ました。
またなにか事件が起きたのかと思っていると、二人が今いる建物の扉を力いっぱいに叩く音が響いた。
その音と同時に男性が外で野太い声を荒らげた。
「
二人も町民も戸惑いが隠せない。
急いで事情を聞くために外に出ると、男たちが数人がかりで二人の両手首を後ろで縛った。男たちは二人や町民たちの口を聞くこともせずに歩かせた。
二人を連れた男たちは大通りに出ると目の前に佇む大きな城に向かって歩みを進めた。
昨日彼らを称えた町民たちは心配そうな目をしながら見ている。口答えができない様子だった。
大きな堀の下には水が張ってあり、晴天の太陽を綺麗に反射している。
その堀を跨ぎ、町と城とを繋ぐ橋を渡る。
大きな城門をくぐる。
そのまま城内へと連行される。
気づけばおそらくこの城の城主であろう風格の男が目の前にいた。
二人は後ろで両手首を縛られた状態でその男の前に座らされた。
男は高そうな服を身に纏い、二人や周りに座っている人たちよりも少し高い段差がある所に居座っている。
周りの人たちの顔も険しく、張り詰めた空気が大きな畳の部屋に充満している。ある程度静寂な時間が流れたあとに、目の前の男が口を開いた。
「お前たちは何者だ。なぜこのような怪事件を起こした」
心当たりに無い。
なぜならその事件を起こしたのは別の忍者なのだ。ましてや二人は事件を止めた。どちらかと言うと褒めてもらえる側なはずだ。だがそれとは裏腹に、今周りにいる大勢の人たちに睨まれていかにも自分たちがやってしまったのかと思ってしまう。
どうしてこうなった?
遡ること十七時間ほど前。
あの町で騒ぎが起き、その場へ二人が駆けつけた。そして、鉄球を真っ二つにして町民たちを救った。そのあとである。
もてなされ浮ついた気分になっている時、その様子を鉄丸が見ていた。その後鉄丸はゲコ蔵の命令で手を打つよう言われる。あたかも町民のフリをして城の者たちに伝えた。
とてもシンプルな罠に見事にはめられたというわけだ。必死に冤罪を訴えるが誰も聞く耳を持たない。
淡々と二人を処刑する準備が進められる。人数が多いせいか作業効率が良い。
一瞬で二人は広々とした庭の真ん中で燃え盛る火の上に縛られていた。
このままではまずい。なんとかしてここから逃げ出さなくては。そうして月丸は隣が騒がしい中、瞼をそっと閉じる。
すぐそこに死が待ち受けており、焦る気持ちが込み上げるのを抑えて息を整え集中する。そして唱える。
『獣流忍法クナイ技
月丸の腰辺りからクナイが二つひとりでに動いたかと思うと、そのクナイは瞬く間に青白く光る狛犬の姿へと変わった。
狛犬は二人の手元を一度通るだけで簡単に縄を切断した。
二人の縄を切ると二体の狛犬はクナイの姿へと戻り、月丸の腰に収まった。
両手が自由となり、拘束から解かれた二人は高く飛び上がると、城壁の上に乗り城の外へと逃げ出した。
二人が城を出て間もなく、城の中から武装した男たちが追って出てきた。その中でも一際目立つ馬に跨った男が二人を指して叫ぶ。
「追えー! 今すぐあの罪人を捕らえるのだ!」
二人が逃げた先には大勢の兵士が待ち構えている。回り込まれた。二人はどう考えても大ピンチである。
徐々に追い込まれ、抵抗する間もなく抑えられた。
二人を囲んでいる兵士たちが道を開け、馬に跨った男が二人の元に歩いてくると腰元の鞘から刀を抜き出した。そして刀を振り上げたその時だった。
「やめて! その人たちは悪人ではないわ!」
男の背後から少女の声が聞こえてきた。
男が振り返ると、今男が歩いてきた道に淡い桜色の着物を着て桜の花びらの髪飾りを付け、黒い髪を綺麗に後ろで一つにまとめている十代くらいの少女が立っていた。
少女はキリッとした顔をして彼らが開けた道をカランカランと桐下駄の音を鳴らしながら抑えられている二人の元へ歩み寄ってくると、しかめっ面だった顔を緩ませて二人に対して微笑んだ。
「父上がごめんなさい。私の名は
二人が困惑していると少女はお詫びをしたいと今度は招き入れて城に二人を連れていった。周りの兵士たちはどこか不満げな顔を浮かべながら少女に従っているようだ。
二人はなにがなんだか分からないままついさっきまでいた所に座っていた。
すると、さっきの城主が二人に対して謝罪をした。どうやら一人の町民が二人が事件を犯したと報告したらしい。
その後の話し合いで彼らはこの町を治めている「奥山家」だと名乗った。
二人は自分たちに罪を擦り付けようとした人を探すために町に出た。すると、上の方から声が聞こえてきた。
「まさか生き延びるとは、流石だな……」
声のする屋根の上に視線を上げるとカンカンとてる太陽を背に腕を組んでいる人影が見える。
その人影は大きく飛び上がると二人の背後に着地した。
そこで二人は対面する。懐かしき見覚えのある顔と。
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