第一章 奥山町 編

第一話 獣流忍者

 今よりもずっと昔のお話。

 この地を侍などが治めていた時代。

 その中でも忍者という者たちが影で活躍していた。

 そんな忍者たちの小さくて壮絶な物語が幕を開ける。


 双子の忍者「星野日丸ほしのにちまる」と「星野月丸ほしのつきまる」。


 彼らは普通の忍者たちとは少し違っている。


 自分たちの目的のために動き、戦いをするということだ。

 彼らは自分たちの父親を殺した忍者である「川之鎌ゲコ蔵かわのがまげこぞう」を探しながら鍛えるために旅をしていた。


 ゲコ蔵はかなり権力を持っており、城を構えて手下たちを従えていた。ゲコ蔵の手下たちは町の情報を探り、常にゲコ蔵の耳には最新の情報が入ってくる。

 すなわち、二人がゲコ蔵を倒そうとしていることもとっくに彼の元に届いていた。

 その対策としてゲコ蔵は新しい手下を一人雇うことにした。


鉄丸てつまる

 星忍の二人の同期であり、元々同じ道場で訓練を受けていた。

 鉄の力を扱い、変幻自在に鉄を動かすことができる。ゲコ蔵は鉄丸を星忍のもとに送った。


 何も知らない二人は町を見て歩いていた。懐から銭を取り出し、道の脇に建っていた小さな団子屋に寄り、外の椅子に腰掛けた。

 賑やかな町で人々の声が飛び交う中、二人の顔を暖かい風がそっと撫でた。

 しばらくすると、店主が二人分の団子と緑茶をおぼんに乗せて運んできた。団子を噛むとモチっとした食感に加えて程よい甘さが口の中に広がる。その後に緑茶で流し込む。緑茶の苦味が相まってさらに団子の味を引き立たせる。


 ほのぼのと落ち着いているのも束の間、遠くの方で悲鳴が聞こえた。


 急いで向かうとそこには大きな鉄球が転がっていた。大きさは直径約一メートルほどで、目の前の家の出入口を見事に塞いでしまっていた。


 状況がいまいち掴めない。

 ついさっきまで賑やかでガヤガヤと賑やかだった町。いろんな場所でたくさんの人たちの笑い声や話し声が飛び交っていた。

 そんなときに一人の悲鳴から周りが不穏な空気に変わり、町の雰囲気がガラリと真逆になってしまった。

 駆けつけてみれば、ありえない大きさの鉄球が転がっている。


 まとめてみたが、改めて状況がよく分からない。

 そんな時に二人の後ろから何かを唱える声が聞こえた。


剛鉄ごうてつ流忍法 大玉鉄球おおだまてっきゅう


 その掛け声と共に二人の前に先程見た大玉転がしに使われそうな大きさの鉄球が現れたかと思うと、その鉄球が二人を目掛けて転がってきた。


「うわあああ!!!」


 二人を含んだ何人かが悲鳴を上げて鉄球に追われながら一本道を全速力で走る。

 その中には小さな女の子や老人の男性もいる。どう考えても走って逃げきることは出来ない。

 そこで、日丸は一人足を止め鉄球に振り返る。その様子を見て、全員が驚いた顔をして立ち止まる。


 日丸は一息つき、集中する。

 背負っていたさやから忍者刀と呼ばれる刃が曲がっていないまっすぐな刀を右手で抜き出す。足を肩幅に開き刀の刃先を地面に向けるように構え、左手の人差し指と中指だけ立たせ口の前に添える。そして唱える。


『獣流忍法忍者刀技 猟豹チーター!』


 その瞬間日丸は前方へ走り出し、転がってくる鉄球に向かって刀を構えて突進した。

 その時、刃先から日丸までが一瞬赤く煌めくチーターのように見えたかと思うと、鉄球は綺麗に真っ二つにされていた。


 その様子を目の当たりにした町民たちは大きな歓声と拍手を送った。町中の店がもてなし、団子やうどんなどを奮って日丸に与えた。

 流石に多すぎて食べきれなかった日丸は弟の月丸にも手伝わせた。その様子を遠くの方から鉄丸が見ていた。


 ゲコ蔵の元に戻った鉄丸は今回の件に関して報告した。ゲコ蔵は獣流忍者がまだ生き残っていることに驚いた。何か焦っている様子を見せ、早急に対処するようにと鉄丸に命令した。


 鉄丸は不信感を抱きながら言われた通りに二人を仕留めるために城を後にした。

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