52話 大地の告白

「私はひいおばあちゃんにもあなたにもあまりいい対応が出来ていなかったわ。話したらきっと嫌われると思ってたわ。」

「アイおばあちゃんの曾孫を嫌うはずないじゃない。」


由衣さんの顔はアイおばあちゃんに似ている。それどころかアイおばあちゃんの家に来ていたおばあさんや若い女の人とも似ている。


「私もごめんなさい。嫌なことをしている自覚はあったのだけど、どうしても止まれなくて。」


美月さんがモジモジと由衣さんの後ろからひょっこり顔を出してそうつげた。

どうして今日に限ってそんなことで謝るのだろうか。


「別に。」


ちょっと素っ気なかっただろうか。

しかしこれは人としてしょうがない話しなのである。

あんなに嫌がらせを受けていたのに頭をひょっこり出し、可愛らしく謝られて許す人間は阿呆人間くらいだ。

しかも自覚をしていたのだから腹が立つ。


「夢乃、2人で先に帰ろうか?元々2日目は2人でいたいってみんなに言っていたんだ。」


一体なんの理由で倒れたことになっているのだろうか。

もしかして道もあの夢のことを忘れているのだろうか。

モヤモヤする。


「立てるか?」

手を差しだされた。ノアの面影のある行動だ。

私は自然と手を取り立ち上がった。


道と2人で出掛けるなら準備をしなくてはならない。

「あの、30分くらいで準備をするから。」

出ていって。


みんな最後まで聞かず外へ出ていった。


昨日のことは夢だったのかもしれない。

大して物は散らかっていない。それは昨日殆ど使わなかったのだからな。

よし!

手短に準備を終わらせ、玄関に向かおうと荷物に手をかけた。

すると視界から手が伸びてきて荷物をふわっと宙に浮いた。

長い髪に苛まれてよく顔が見えない。


顔を見ると四宮だった。

由衣さんの顔はアイおばあちゃんで見ていたし、道はいたから、久々に親しい顔を見た気がする。


「よぅ。」

「四宮。おはよう?」

おかしな感覚だ。大地とは何日も合わない日があっても普通に接することが簡単にできるのに。


「それは運ぶよ。」

「本当?ありがとう。」

四宮は少しノアに似ている所がある。

声や対応全てにかけてノアの方が上だけど。

アイおばあちゃんはあまり似ていないけど、過保護なところが道と似ている。


四宮は先を少し歩くと話し始めた。


「さっきさ、道が山崎のことを皆に怒ってくれていたぞ。九条はずっと謝ろうってしていたけどな。」

「だから急に謝ったのね。」

「そうだな。美月は九条のことを大好き過ぎるところがあるからな。」

道が頬を軽くかいた。何か言い難いことがあるのだろう。こういう時は黙るべし。

これは高校時代に培った少ない能力だ。

「まあ俺はチクりたいとかじゃなくて、道が今まで自分の友達に怒ること無かったから正直驚いたんだ。あいつら絆深いじゃん?だから何かあっても真ん中でウロウロすんのかなって思ってた。」

確かにそういうところが道にはある。

「ウロウロするの想像つく。」

想像すると笑えてくるな。

「お前結構しっかり大切にされてんだな。良かったじゃん。」

「うん。」

「山崎はいつも『うん。』って返すよな。」

「しっかり話を聞きたいの!」

吹き出しながら笑う四宮。

どうしてだろう。いつもと様子が違う。

立ち止まってどうしたの?と聞いてみる。

すると四宮も立ち止まってこちらを向いた。


「俺さお前が道と付き合うまで、山崎のことを夢乃って呼んでたの覚えてる?山崎も俺のことを大地って呼んでいた。」

「そうだね。私は四宮が付き合う度やっていたから慣れていたけど。」

「最初の頃は山崎が口馴染めなくて、よく夢乃って間違えて呼んだよな。」

「うん。」

「でもさ今はもう絶対に山崎のことを呼び間違えないと思う。そう考えてみるとそんなに2人が付き合ってから長くないけど、結構経っているなって思ったんだよ。」

「本当に全然経ってないけどね。」

大地は何を言いたいのか。根気よく聞きたいが下に道が待っている。

大地は言いづらいことがあると内側から責めてくる。恋人の話ということは美月さんだ。


「大地は美月さんのこと好き?」

「はは、行くぞ。」

「ちょっと無視?」

前へ進む四宮。

四宮は私の意思を汲んでくれたらしい。

「そういえば俺、美月と付き合っているって言ったの嘘だから。お前らが付き合ったから2人で意地張っただけだから。」

「え!?」

「ほら今まで無かっただろう?お前が付き合っていることって。」

「まあ。」

「そういうことだ。」


四宮はどうやら付き合っていなかったらしい。

本当に意地張っていたのだけだったら阿呆らしい。

四宮にもそんな可愛らしい阿呆さがあったのだな。

玄関に着き、道が待っていてくれた。


「それじゃあ俺は退散しますか。」

と対して重くない荷物をさも重そうな身振りをして階段を登った。


「行くぞ。」

道の声に頷きつつ、私は靴を履いた。

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