50話 また

「アイおばあちゃん!」

叫んだ先にはもうアイおばあちゃんはいない。

涙がポロポロと零れていく。

アイおばあちゃんは私にとって初めての友人と言える間柄になった特別な人だった。


そんな風に思ってくれていて嬉しい。でももっと傍にいてあげれば良かったな。


綺麗とか若いとかそんなの気にしないで、もっと懐かしんで上げられれば良かったな。


とても私を心配してくれる大切な人なのに。


私は丸まって泣いてしまっていた。

きっと道もノアもたいそう困っているに違いない。


ノアがこちらに近づき私の背中にポンっと手をのっけた。

すると涙は収まっていき、話せるくらい呼吸も整い、顔の腫れも感じなかった。


「アイは気にしない。夢乃のことを大好きだからね。」

「うん。」

「顔をあげてここをみてごらん。」


ゆっくり顔をあげてみると振り出し地点、ノアと私があった場所に戻っていた。

全くここのへんてこさはほそろしい。

道の姿ももう居なかった。


「道くんは向こうの世界へ帰った。」

「そうなんだ。」

「うん。少し歩こうか。」

うずくまっていた私に手を差し出し、私はそれを取り、ゆっくりと歩いた。


「ノア、私はノアとどんな契約をしていたのかしら?さっき言っていたじゃない。私覚えてなて。」

「ああ。まあ夢乃はその時幼かったからね。覚えていないのも当然だ。」

「ごめんね。」

人間って嫌になる。簡単に忘れるのだから。


「それでは再契約をするとしよう。私は君との契約を無効にするつもりはない。しかし紙に残すつもりもないのだ。」

「うん!私もそれがいい。」


ノアの考え方は私の大好きなものが詰まっている。


『君は私の世界を広げる。その代わりに私も彼もお別れを絶対しない。』


ノアがそう言い指を差し出した。

指切りのことであろう。私は昔それが大好きであった。

私がすぐに小指を手に着けた。

なんて柔らかな指なんだろう。


「よし!指切った。」

無邪気に笑うノア。しばらくすると顔を赤くして

「昔は答えることが出来なかったから。」

と照れながら伝えてくれた。


本当に見ててくれたのだな、ノアは。


「ノア。私はこの世界にいたい。だって私の事を好きな人しかいないなんてそうあることは無いじゃない?」

「そうだね。」

「でも私は戻るね。向こうの世界にはまだたくさん残してあるものがあるの。」

「うん。きっとそうだろうね。」


ノアはずっと私の手を握って、話をしっかり聞いてくれる。

ノアが口を開く。


「未来は怖くなくなったかい?」

「この世界に来てからもっと怖くなったわ。アイおばあちゃんと話していてもそうだったもの。誰かが先にいなくなることも、病気も全部怖いわ。でもとても暖かったってノアは言ってくれたから。」


しっかりと瞳を見て言う。

「私はしっかり世界を広げるね。契約も結んだことだし。それにアイおばあちゃんもノアもどっちでもいいって言って起きながら、生きることを選んで欲しいにいたもの。それにアイおばあちゃんをおばあちゃんって呼べなくなるくらい、長生きしないといけないしね。」


きっとそういう意味で言ってくれたのであろう。


「夢乃がそう言ってくれて良かった。心の底から間違っていないと実感できた。」

「ノアが失敗なんかするはずないのに。」

「はは、全く面白いことを言うな。」


ノアが笑う。私のために。


「私もノアを誰かに引き渡す日が来るのかな。」

「渡したくないのかい?」

「ちょっとね。」

「私はこの世界で既に満足している。だから引き継がなくてもいいよ。君の人生なのだから好きなようにするといいよ。」


優しく寛大な意見の持ち主だ。

とても魅惑的な声の持ち主で優しくユーモアのある、信じてくれるノア。


「ノアやこの世界のこと物語にしていい?」

「きっとアイは怒るだろうけど、構わないよ。ただ、私に内容を聞かせて頂きたい。」

「ふふ、もちろんだよ。ノアの前で見せるね。」


紙芝居もいいかも知れない。


「夢乃のこれからが素晴らしいものでありますように。」

「うん。」

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