49話 嵐の後
あれほど楽しみ待っていた夢乃、ノアは嵐のように現れ、嵐のように去っていた。
今やあるのは人数分のティーカップと空っぽになったアフタヌーンティーのセットだ。
片付けをしようとティーカップに手を伸ばすとノアがその手を止めた。
「私がやりますよ。久々のお客様でおつかれになられたでしょう。どうぞお座りになってください。」
ニコニコ笑うノア。
「ありがとう、ノア。」
ノアは相も変わらず優しい。
私はあの私をずっと警戒していた男を思い出してイライラと募る。
「それにしてもあの生意気な餓鬼、最後まで私を疑い続けていたわ。」
そうあの夢乃ついて離れなかった道という男。
「向こうのノアくんは男らしいというかかっこいいよね。」
幸男が乙女のような面立ちで振り返る。
あれは私が夢乃にぴったりあうノアを考えた。
夢乃は昔から表情はよく出るが、口数は本当に少ない。
故に夢乃はよく見てくれる人、伝えてくれる人、諭してくれる人、信じてくれる人そういうのが向いていると思った。
そうするとなかなかによく出来たノアが出来上がった。
「そうかしら。私はこちらのノアの方がずっと素敵に見えるもの。」
「それはもちろんだよ。うちのノアも最高に素敵さ。」
「ありがとうございます。」
ノアは人の理想を具現化した猫だから当然に決っている。
「それよりどうしてこの世界に居続けてもいいなんて言ったんだい?そういえばノアくんも。あれは道くんを煽らせるためだけじゃないだろう?」
幸男の声は怒りがあり、表情からも怒っていることがわかった。
幸男は滅多に怒ることをしないが、この手の話題になると私を叱る。倫理観が誰よりも強い。
「そうね、何故かしら。103年も生きてみると分かるのかもしれないわね。」
「アイはもし僕が隣で108歳であったてもそんな悲しく思ったのかい?」
「どうでしょうね。」
想像してみる。しかし実際幸男は67歳で他界したのだから無理な話である。
片付けを終えたノアが戻ってきて隣の席へ腰を下ろす。
「そういえば2人はあのとき何を道くんと話したの?」
「道様は覚悟をお決めになっていた。そのためのアドバイスをお聞きになっておりました。」
ノアは何かのピースを思い返しながら話す。
「とりあえずは大丈夫かと。」
「本当かしら。夢乃の想像力ばかり見ていて、夢乃の本当にいい所を見えているのか疑問に感じたわ。」
「あれは相当堅いお方です。そして夢乃様の本当の魅力はうっすらと気づかれています。何よりあのノアが彼を見極め、評価していた。」
今回のノアは十分と道の肩を持つ。
「ノアがそういうならきっとそうね。」
「僕もノアの言うことは賛成だな。道くんはノアが言っていた通り爽やか分見えにくいが相当頑固者だ。僕は昔100歳まで生きてると言ったそれは美しい女性を見たが、頑固者だったから達成出来ていたよ。」
「なによそれ。全く当時の私は馬鹿なんだから。歳をとると、得るものと失うもののバランスが狂ってくる。私はあなたが居なくなってから、いろんなものが失っていると気づいたわ。
夢乃は別れに敏感だったから、とても心配。」
本当に辛かった。幸男がいるまでは気にしてもいなかった。見た目なんかも健康なんかも。
自分が如何に窮屈な人間であることが分かった。
私はミニマリストのような所があるから、簡単にいらないものを捨てれる人間だったから、持っているものの少なさに嘆いた。
きっと夢乃はひとを大切に出来る人間であるから、そんな風にはならないと思うけれど。
「でもノアや幸男が言った通り道くんがいるし、夢もあるし大丈夫ね。」
「アイと道くんは夢乃さんのことになると心配性だね。僕は君と道くんは似ているところがあってね、とても純粋なんだよ。似ているアイがこんなに夢乃のことを愛しているのだから、きっと道くんも愛しているさ。」
「そうね。」
夢乃の人生の先を見ることは簡単だ。
でも今の夢乃を見守っていきたい。
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