48話 さようなら
猫は後ろでクスクスと笑っていた。
「話しは聞かせてもらった!勝手に聞いたのはごめん、夢乃。」
「…うん。」
「俺はずっと悩んでいたんだ。この世界にいると夢乃がどのくらい不安に感じていたのかわかる。しかし理由が分からなかったんだ。」
こちらを向けてそれを話してくれる道はハキハキと言葉につたえていた。
すると道はノアの方に体をクルって回した。
「ノア!俺は信頼してノアを託したんだ。アイさんはまるで夢乃を帰したくないような口ぶりだったから、2人きりにしたくないと思っていたのに。」
道がこんな風に怒鳴る姿はあまり見ない。
しかし私の感情に影響をされて、そうなっていたのか。そう思うと少し恥ずかしい。
幸男さんが慌てふためく姿を見ていると、ため息をつきながらアイおばあちゃんが言った。
「道くん、落ち着ちつきなさい。ノアだって考え無しに言った訳では無いわ。それに夢乃は気づいてなかったけど、きっとノアはあなたが盗み聞きをしていたのに気づいたのよ。」
「そうだよ!うちのノアもそうだけど、ノアという名を持つ者は大抵頭がいいんだ。方舟もそうだっただろう?」
幸男さんはメガネを整えながらそう伝える。
「そうなの?」
私はノアに尋ねてみる。するとノアは
「講評だ。」
と一言だけ言った。
何を言っているのだろうか。
ノアに対してそう考えるのは阿呆らしい。
道は私の腕を引っ張り、道側に寄せて、手を握った。
とても強かった。
「好評じゃないかしら?」
「アイはそう思うかい?」
「ええ。20歳なんてそんなものでしょう。あとはずっと手を握ってくれさえすれば。」
「確かに。」
「もうそろそろ時間ね。」
ガーンと鐘の音のような音がなる。
アイおばあちゃんは立ち上がり、さらりと道が繋いでいない夢乃の片方の手を自分の両手で包み込んだ。
その仕草はまるで天女のようだった。
「夢乃聞いてね。私が夢乃と出会った時はもう寝たきりの状態になって、外に出れなかったことは覚えているかしら。」
「うん。」
思い返せればベッドの上でヘルパーさんこそは金の力で雇えていたけれど、ずっと外に出ずに1人きりだった。
「私はこの世界で生きがいを見出すことが出来なかったの。97歳、貴方と出会ってから私の生きがいは夢の中の生活と、もうひとつこの世界で生きがいを見つけることが出来たの。。貴方と話すことが新しい生きがいになったわ。本当はずっと眠って夢の中にいたかったのだけど、貴方に話さなくてはと目を覚ましたの。」
ひとりの人としてキラキラと輝いている。
「アイおばあちゃん…。」
「本当に辛いのならノアのように私は無理に向こうの世界に居続ける必要は無いと思う。でも向こうの世界でしか出来ないこともたくさんあるの。たくさん貴方はこの世界を広げることが出来る。」
目からは涙が溢れてくる。
「ありがとう、夢乃。あの時そばにいてくれて。貴方にノアを託せて本当に良かったわ。」
「アイおばあちゃん、私も無愛想な口数の少ない可愛くない私と一緒にいてくれてありがとう。」
きっとまたしばらく会えなくなる。
そんな気がする。
「何言っているの。夢乃はいつだって可愛いわ。それに次会う時までなおばあちゃん呼びは治してね。ノアもういいわよ。」
アイおばあちゃんがそう告げると、ノアが杖をカーンと鳴らすと、アイおばあちゃんもあの家ももう無くなっていた。
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