47話 感想

「その時は気づかなかったけど、あの時期外国へ行って、海外の街並みを見て、不思議な出会いをするなんて恵まれていたわ。」


懐かしそうに振り返るアイおばあちゃんはキラキラとした目で楽しそうに語ってくれた。

心の底から楽しかったのだろう。

率直に気になったことを聞いてみる。


「とても素敵な話ね。ノアはそうやって運ばれて今に至ったのね。その後はその職人さんとは再開出来たの?」

「生前は会うことはなかったわ。とても閉鎖的な場所でその後は暮らしたようでしたから。そもそも出会ったこと自体がも奇跡だったからね。」

「アイおばあちゃんはまた国を訪ねようって考えなかったの?」

「そうね。私も私でゴタゴタとしていてね。ノアのことは大切にしていたけど、それ以上何かしようとは思わなかったわ。」


アイおばあちゃんのノアはその職人さんの考えがそのまま反映していたのね。

なら私のノアは何を反映したのだろうか。


「夢乃とアイが出会った頃には幸男は亡くなっていた。それから長らく独りで過ごしていたね。」

「何を言ってんのかしら。一応可愛い孫が出来て、曾孫にまで恵まれたのよ。曾孫にはあまり会うことは無かったけれど。」


曾孫…。あの時のアイおばあちゃんは私くらいの曾孫がいても可笑しくはない。


「幸男さんはいつ頃亡くなったの?」

「うーん数字では覚えてないわ。60歳くらいであったとは思うけど。考えてみれば幸男とは人生の半分くらいしか共にしていなかったわね。」

「アイは長生きしたからな。」


ノアとアイおばあちゃんはケラケラと笑いながら話している。

なぜだか私は悲しい気持ちになってしまい、心が萎んでしまう。

私もきっといつか1人になる。これは生きれば生きる程そうなるのであろう。



「でもね!幸男が居なくなってから1年くらい後に窓が出来たから退屈とかは無かっわよ!それに5年くらいしてさみしくなったら夢にノアと幸男が出てくれてね。だからそんな顔しないで。」


アイおばあちゃんが焦っている。

昔もそんなことあったような気がする。

よく揉め合いや悲しい気持ち、怒りなどになると直ぐに訂正し、励ましくれようとする。

近所の子どもを泣かすのは居たたまれなかったのかもしれない。


そうなると私は心のうちを洗いざらい話してしまう。

当時の私はアイおばあちゃんのそんな経験は知らなかったけど、少しばかりアイおばあちゃんに期待を抱いていた。

何か答えをくれるのだと。


「私、先のことが不安でね。未来がとても怖いの。」

「どうしてかしら?」


どうしてだろう。

優しく聞いてくれるアイおばあちゃんの声も今は冷たく感じてしまう。


「アイ、私は夢乃ともに未来の惑星へ行ったんだ。そこはとても暖かい場所だったが夢乃は酷く凍えていた。アイが生きていた時代ほど未来は見えやすいとのではないと思う。それが理由だと思う。」

「なるほどね。私からして見れば贅沢な悩みだけど、これもないものねだりね。私は自信満々な人だけど、夢乃はそうではないみたい。」


ノアは何でもわかってくれる。

どんな仕草も見逃さない。

私の言葉の代弁をいてもしてくれて、ノアは私の手をそっと握ってくれる。

私も何か言わないと。


「ノアの言う通りだよ。やりたいことは決まっている。でもどうなるかなんて分からない。今進んでいる車線の先に何が待っているかなんて分からない。自分のことは全て選べる。でも私はそれがッ。」

何も言えない。

「夢乃は本当に悩んでいるのね。私も死ぬ前は確かに怖かったな。どうなってしまうか分からなくて。」


アイおばあちゃんはしっかり聞いてくれて、優しく頭を撫でてくれる。


「幸男が居なくなった時も、もう子どもたちは自立していて、上の子どもたちなんかもう世帯を持っていたし。急に寂しくなってね。」


アイおばあちゃんはやっぱり昔のことを話してきっと大丈夫だよと伝えてくれる。

本当に優しい。

私はだから好きだったのかもしれない。


「それに今が幸せで夢を追えて、ノアもいて、こんなヘンテコな世界に入れて、私の事きっとみんなよく思ってくれている。」

困りに困りきったアイおばあちゃんはノアとうなだれて頼っている。


「夢乃、私はこのまま君がこの世界に居てくれて構わないと思っているよ。」

「ちょっと何を言っているの!ノア!!しっかり向こうの世界へ戻らなきゃダメよ。」

アイおばあちゃんが強めに怒る。

ノアはそれを無視して、こちらから視線をそらすことなく話す。

「夢乃には怖い想いをして欲しくないし、結局夢乃のひとつの着陸時点はここであることは代わりないのだからな。」


ノアの瞳は美しく、私もノアから視線を逸らすことが出来ない。


「私は夢乃にそういう顔をして欲しくない。夢乃は本当は自由が似合っている人なのに、自由窮屈に思ってしまうのは悲しいことなんだ。」


ノアの言葉はしんみりと心に入っていく。

ノアは気づいていたのね。私が向こうの世界に帰りたくないことを。


「ならこの世界で2人で自由に旅をしてみてはいかがかな?」


ノアが紳士的に手を差し伸べる。

その手を掴もうとした瞬間、


「ちょっと待った!!」


勢いよくドアを開いたのは道だった。

後ろには困った顔で幸男さんもいる。

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