45話 アイの思い出
そこの雑貨屋さんは結構私が気に入ってたところでね。
私が初めてそこに入った時、私の帰る1週間後に店仕舞いをするって聞いて、なかなか繁盛していたのだけど、何だか運命を感じてしまった。
結構通っていたのよ。女の人が2人で切り盛りしている小さな雑貨屋なのだけど、隠れ名店のようでドキドキしていたわ。
1人は作り手、1人は売り子最低限という感じがね、とても素敵だと思った。
私は売り子さんと仲良くなって、英語力もメキメキと伸びていったのよ。たまに作り手の方ともお話ししたけど、本物の職人だったからあまり店に顔を出さなかったの。
その日はお別れを言いに入ったの。
でも売り子さんが居なくて、作り手さんにことを伝えたら、店仕舞いをした後、店で待つように言ってくれたわ。
よく顔を覗いて見たら作り手さんは目を腫らしていて、泣いていたんだと直ぐにわかった。
あの時の私は本当に無神経だったと今になって反省するのだけど、どうしたんですか?と尋ねてしまったわ。
そしたら今まで下を向いていたのだけど、なにも言わずに私の方を見上げ何か言いたそうにしていた。
気まづくて私はつい自分の過去を伝えたの。
この留学にあらぬ思いをかけていたこと。それが果たせなく、家に戻ったら結婚させられることも全部。
私は研究者として生きていきたかったけど、無理らしいと伝えた。
すると作り手さんは突然語り出したわ。
「私も1週間に結婚させられるの。同じね。私は貴方と違って職人として生きることを諦めていたから、結婚することも店を閉めることも悲しくないわ。仕方の無いもの。」
彼女は私より大人のように見えた。
よく似ていると感じるところもあった。口調とか冷たい物言いとか。
それでも大きく見えた。
その後、私は質問攻めにしてしまったわ。
「どんな人と結婚するの?」
「私よりずっと年が上で親が用意してくれたちょび髭を生やした紳士よ。」
「そうなのね。会ったことは?」
「あるわよ。2回だけだったけどね。1回目は10歳の頃、2回目は最近。」
「どうして店を閉めるの?」
「本の影響で子どもの私は人形職人として一生を遂げることを夢に見てたの。だから結婚なんてしたくなかった。でもそれは難しい話で、うちはお金持ちで結婚相手は決まっていたから、条件を出したの。だから結婚するまで我儘を通して妥協のない職人になる。その代わりに25の歳で結婚をすると。」
「そうなのね。」
彼女はあまりに淡々と自分のことを話していく。店を出せた10年間は幸せだったと微笑んでいた。
「あなた魔法って信じている?」
彼女は突然私に問いかけた。
「魔法は信じないわ。でもあったらいいなとは思っている。」
「そう。なら私が信じさせてあげる。私の作業場に来なさい。」
彼女は立ち上がり、上品な仕草で案内した。
その時には私も彼女も売り子さんのことを忘れてしまっていた。
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