第44話 アイの思い出
――私が生まれたのは今から111年前。
明治が終わろうとする時代であった。
私の家はとても裕福で不自由のない生活をしていた。九条家と言えば知らない人は誰もいないほどだった。
その中でも私はとても美しい母のその2倍美しい顔に産まれてきた。
アイという名も、赤ちゃんだとは思えないほど目が大きく、まつ毛もバサバサで印象的だったかららしい。
私はその由来を聞いた時は呆れてなにも言えなかった。
その時代はさっきも言った通り、結婚するのが当たり前!親は子供に最善の夫を与えるのが上流階級の常識としていた。
私は幼いながらにそれを鬱陶しく感じていた。
しかし幼い我が身ではなにも変えられ無くて、私は勉学に励んだ。
美人だが相当の変わり者として私は有名になっていたらしい。
勉強は本当に女には必要の無いものだったから。私は家柄もあり大学まで進学した。
大正2年の前例があったから可能だったのだろうけど。そうでなければ考えもしなかったわ。
少ないが女性もいて、初めて仲間が出来た。
男からは辛辣な目を向けられていたけど、そうでは無いと退屈になってしまう。
それは一番嫌だった。
でも親にはよく叱られていた。
「お前は政略結婚をする!それはこの母の腹に入った時から決まっているのだ。なんだ学力などつけて。反政治運動でも起こすつもりなのか!」
これは留学したいと言った私に父親が言い放った。
私の大学進学も渋っていたのだ。母親が必死に説得してくれなかったらきっと大学も行けなかったと思う。
私の兄弟は3人の男と2人の女。
私は兄が2人居たから参考書などを借り、協力的な方に勉学教えてもらった。
留学したいと言ったのは22歳の頃で、2つ下の妹はもう嫁いでいた。
正直父は大学卒業と同時に結婚させるつもりであったのであろう。
私はお見合いを引き換えに留学を許してもらえた。
何やらとても私を気に入った、有効な相手、婚約者が見つかったらしい。
年の頃も近いらしい。
このチャンスを逃したくなかったのだろう。
日本に戻ったきたらお見合いすることになるらしい。
私は昔からお見合いを全て断ってきた。
父は私に甘く見た目もよく褒めていた。
男を支える能力が高いともよく言われていた。
だから甘く見ていたのだろう。
ここで何かを残せれば、女ではない一生を手に入れることが出来るかもしれない。
希望の光のように感じていた。
まあそんな簡単ではなかったけれど。
結局、ほとんど何も残せず私は最終日を迎えてしまった。
戦争と深く絡んでいた時代だったから、ピリピリした雰囲気が流れていて、不甲斐なさに当時の私は悲しんでいた。
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