第43話 ノア・アイ・夢乃

「ごめんね、突然連れ出してしまって。さっき言ったことは本当だけど、幸男と道くんが話したがっているように見えてね。」

「そうなんだ。平気よ。でもどうしてあんなに心配したのかしら。」

「ふふ、夢乃もここに来て得るものはあったのね。道くんは良い人だし、こちら側としては安心できるけど。」

アイおばあちゃんは私からノアに視線をずらした。

意見を求めているようだ。


「そうだな、夢乃のことを過保護に思ってくれているようだし。」

「私にとっての幸男のような人になって欲しいわ。」


どうしてだろう。偶然会った親族に自分の彼氏を紹介した気分。


「幸男さんとはどうであったの?」

「幸男?幸男は普通に政略結婚だからお見合いかしら。」

「本当?そうは見えなかったけど。」

「私の家は大変お金持ちな家だったのでね、今は多少小さくなってしまったけど、家族も大家族でほとんどは政略結婚をしたわ。」

「そうだな。アイが生きていた時代はそういうことが当たり前に行われていた。アイは結構自由にやっていた方だと思うけど。」

「そうなんだ。」


私のノアは私と出逢ったときの記憶以上前の記憶もあるのか。


「2人とも仲良しだから、恋愛結婚だと思っていたわ。」

「まあ私は幸男が私を好きだったから成立したのでしょうね。そして私も人間としての幸男を尊敬していた。相性が良かったのね。」

アイおばあちゃんは窓を眺めた。

私も窓を覗いてみると、アイおばあちゃんの予測通り、猫と幸男さんと道が庭に出て話していた。


「恋愛から結婚は必ずしも上手くいくとは限らない。そしてそれ以外の結婚が必ず失敗とは限らない。きっと今は恋愛結婚を主張する人が多いだろうけど、仕組まれた結婚の方が良いって言う人は沢山いるだろう。」

「そうね。」

確かに現在の方が昔より離婚率が高く、独身率も高い。

この話をロマンティック主義者の大地に知られたら、呆れてため息をつかれ、その力説を何時間も聞くことになるだろう。


それにしても道は何を話しているのだろうか。

何かを言っているのは聞こえるが何を言っているのかさっぱり分からない。


「夢乃は私の話し聞きたい?」

少し不安げに尋ねてくる。

「へ?」と変な声が出てしまう。

なんの意図があるのだろうか。

「ノアの話しとか私の話は私が夢乃に一方的に言いたいだけだし、夢乃は想像で終わらせたいとか思っているかもしれないじゃない。」


確かに私は事実より想像で終わらせてしまうことがあるけど、聞ける状況にあれば聞いてしまいたい。

都合が悪ければ変えてしまえばいい。

次この話が聞ける機会があるかなんて分からないのだから。


「聞きたい!」


心配そうなアイおばあちゃんの顔は笑顔に変わり、ゲラゲラと笑いながら分かったわと言った。

そして本当に変わってないわ。と幸せそうに。

私とアイおばあちゃんとの本格的別れは8年前そんなに変わっているはずないのに。

アイおばあちゃんは出逢った頃を時制点として考えている。


ノアの顔を見るとさっぱりなにも分からないけど、お喋りなノアが黙っているのを見ると何となく不思議な気持ちになってしまう。

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