第41話 執着
「えっと何が?」
「夢がずっとニコニコしたまま動かないで、反応せずにいたから。」
アイおばあちゃんも心配そうな顔を浮かべこちらを覗き見てた。
よくあることだが、大体スルーされていた。
これはきっとここにいる人みんな、私の存在を認識しているから起こるのであろう。
「なんでもないよ。今日は沢山話しているから、休憩を入れないと。」
「?そうか。大丈夫ならそれでいいんだ。」
道が肩を下ろしそう言う。
クスクスと笑いながら、またおかしなことを言っていると笑うアイおばあちゃん。
ノアは黙ってこちらを眺めていた。
その時の瞳もとても綺麗な色をしている。
私が少し先にある椅子に腰を下ろすと、幸男さんが充分と元気な様子で入ってきた。
「失礼します!」
と声と同時に開かれたドアに少し驚いてしまった。
アイおばあちゃんは小さく息をする。
「今回は練に練り上げられたレシピで考えたアフタヌーンティーだよ。」
「この短時間に!?」
「いや、3人が来ることはドームちゃんによって知らされていたから早めに準備を始めただよ。久々なお客様だから特別なものを準備したんだ。」
と上機嫌に言いながら、ワゴンカートを引く。ルンルンと鼻歌を奏ていた。
「特別ね…。」
と呆れながら言うアイおばあちゃんと、横でクスクス笑っているノア、目をつぶって微笑んでいる猫。
この世界は今までの経験からかなり食は優秀だ。
ノアの家で食べたあのクッキーの味を思い出す。あれはどの店より美味しく、まさにこの世のものとは思えないものであった。
1段目にはサンドイッチ、2段目にケーキが入っていて、3段目にはマカロンが焼いてあった。
紅茶をみんな分準備してあり、こぽこぽと音を立てながら入れた。
各々が取り分け、揃った。
「いただきます。」
と言い食べると、やはり私が取ったマカロンはとても美味しい。
ノアの出してくれたクッキー程ではないが、いくら払っても後悔する味ではない。
「美味しいですね。」
「本当かい?それは嬉しいな。ここだけの話、このバタークリームのバターは特別なものを使っていてね、ここから遠く離れた国で取ってね。いつもはもっと近くの場所で取っているんだけど、今日は特別な日だから。あ、アイいつもの日々が特別じゃない訳じゃないよ。君と出逢ってからいつだって特別さ。それでね、このバターは――。」
「えっと…。」
口が早く、量も多い。
「マカロンは当たりなのね。こら幸男、夢乃が困っているでしょう。」
「ははごめんね。」
道は下を向きながらサンドイッチをただ黙って口にしていた。
道の表情は何かを我慢している時にの表情だ。
「道くん?どうしたんだい?もしかして口に合わなかったかい?」
「いえ、美味しいです!ちなみにこのサンドイッチには何が入っていているんですか?」
「道くんの食べているサンドイッチも特別な材料を使っていてチーズにピクルス、トマト、マスタード、マヨネーズ、隠し味にキャラメルとチョコレートを少々いれた唯一無二の味を作り出したんだ。」
一体どんな味をしているのか。
「ごめんね、道くん。この人センスのないくせにオリジナルティーを求める変人なの。基本、とっても美味しいのだけど、たまに、特に張り切っている日はとんでもない味を作り出すの。」
「アイは手厳しいな。でもそうだね。気合い入りすぎてしまっていたみたいだ。ごめんね、道くん。」
猫がいつの間にか、部屋を出ていたようで、サンドイッチと紅茶を片手に戻ってきた。
「どうぞ、変わりのものです。」
「ノアさんありがとう。やっぱりノアさんの作るものは美味しいだよな。」
幸男さんは幸せそうに猫にそう返す。
この人は本当に幸せそうな人だ。
何やら生前は趣味は料理で、現在は猫やノアを先生として、料理を学び直しているらしい。
不思議と猫が準備してくれたものはノアが作ったものほど美味しいとは言い難いかった。
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