第40話 おもてなし
その家はとても広く、綺麗に整えられているお金持ちの家のようだった。
あの家とはやはり少し違うが、きっと幸男さんがご存命な頃、アイおばあちゃんが元気だった頃、こんな感じであったのであろう。
猫がカチャリと音を立てドアを開いた。
玄関には靴箱がありスリッパが用意され、可愛らしい切り絵が飾ってある。
「お邪魔します。」
と道が声を真似り、私も一言告げ家に入った。
アイおばあちゃんは嬉しそうにどうぞと言ってくれた。
廊下が続いていて、一番近くの部屋がリビングのような空間であった。
ホコリ1つない家は魔法の影響であろうか。
庭の延長線のような緑や花が多い家はマイナスイオンのようなものを感じる。
きっとこの部屋にいるアイおばあちゃんと猫は絵になるのだろう。
「さあ、テラスがあるのでそちらに行きましょうか。」
この大きな綺麗な家を奥の方まで観察に観察を重ね描きたいと思ったが、人様の家であるので我慢しよう。
「家を回っても平気よ。庭だって平気。どこも綺麗にたもっているもの。幸男は見て欲しくないのかしら。」
「ひとまずということでいいかい?アイは夢乃さんと話したいことがあるって言っていたから、そっちの方がいいと思って。みんな疲れていると思うし。」
幸男さんとアイおばあちゃんの言葉に対して、眼鏡を拭きながらそう答えた。
「テラスまでは私が案内致します。どうぞこちらへついてきてください。」
猫がこちらに向かい言うと、リビングのドアを開け、みんなが居なくなるまでドアを持ち続け、皆より斜め前を歩いた。
廊下には良い感覚で切り絵や押し花、油絵、花瓶に入った花が飾られており、とても綺麗であった。
アイおばあちゃんは確か昔話した時もよく切り絵が大好きだったと言っていた。
道はどこかソワソワした様子で幸男さんの近くを歩いていた。
そして私の隣にはノアが歩いていた。
ついさっきまでは2人きりでも落ち着いていたが、今は少しドキドキしてしまう。
「ノアは切り絵好き?」
「ああ。特にアイが作るのは全部一流品だからね。愛情が篭っている良い作品達だ。」
「愛情?」
「そうだ、愛情だ。感情の篭っている物は全て魅力がある。起承転結が綺麗に整っていなくても、失敗が多くてもそこには美しさがあるように感じる。」
「ふふ、そう聞くと私も小綺麗な作品より感情のある作品の方が好きかも。まあアイおばあちゃんの切り絵にはそんな欠点1つもないけどね。」
「アイは充分長いこと続けているからさ。感情無いものはどれほど上達しても、欠けていて同様な作品さ。でも感情を大切にしている作品は上達するとパーソナリティーが確立して、唯一のものになる。」
「ノアはよっぽどアイおばあちゃんの切り絵が好きなのね。」
「私の切り絵を褒めてくれているの?」
アイおばあちゃんが割り込むように話に入ってきた。
「とても美しくて私は好きです。私結構そういう美術館行く趣味あるんですけど、どの作品とも違っていて、多分今まで見た中で一番です。」
「うん、私も同感だ。アイの切り絵はそういう所がある。」
「ふふ、ありがとう。歳をとっていた頃は出来ていない事だったけど、あの時間が無かったらきっと続けられていなかったわ。だからあんなに上手く出来るようになったのかもね。」
「アイおばあちゃんの中での職人の血が騒ぎ出したのね。」
「なにそれ。昔から夢乃は面白いことを言うのは変わらないわね。」
ふふと綺麗に笑う姿は実に可愛らしい。
アイおばあちゃんは確かによくそう笑うところがあったが、若い姿でそれをすると破壊的な可愛さだ。
モテただろうな。
「到着しました。どうぞお入りください。」
「うん、ありがとう。」
とアイおばあちゃんは猫に嬉しそうに言った。
私がノアに対して感じるものはきっとアイおばあちゃんにも共通していて、それは少なくも私を惹き付けるものであろう。
道はそんな2人と一緒に居て何とも思わなかったのだろうか。
テラスの中は想像以上の美しさがあり、大きな日除けから直ぐに庭に出れるような作りであった。
白色の木製出来たデッキや、それを統一されている椅子や机、まさに絵本に出るような容貌であった。
「お茶を入れてくるね。」
と幸男さんは元きた道を戻る。
「私も何かを手伝いましょうか?」
「いいえ。家にはあまりお客様が来ないですよ。特に最近はめっきり減っていてね。もてなしたいですよ。」
お客様が来るということは、あの街の人であろうか。
客観的に見に見ると、好青年の道、美しく上品なアイおばあちゃんが2人で会話していて、普通ならたじろぐであろうに全くそんな素振りを見せなかった。
ノアと猫は2人で庭について、ここはどうとかここは良いとか熱く討論している。
九条…たしか由衣さんも似た苗字だった気がする。
由衣さんと似ているところはアイおばあちゃんには顔の部位ではある。
しかし私はあの家に通っている間、30代くらいの女性が一番若く、私の同じような子どもが出入りしている所なんて見たことがない。
トンと肩を叩かれ、そちらを向くと道が居て、
「座らないのか?それとも何かを考えていたとか。」
とまた心配そうな顔で呟いていた。
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