第39話 警戒
道を約2キロ程歩いた先に大きな家がドンっと建設されていた。
道は一体こんな綺麗な人を相手に照れもしないなんて可笑しい。
ノアと猫、アイおばあちゃんに幸男さんはすたこらと前を歩いていった。
4人はとても仲良く見えた。
私と道は後ろを少し離れた場所で着いていく。
「なあ、夢。あの九条アイさんって何処かで見覚えがないか?」
なるほどそれが思案と慣れの理由だったか。
「うーん。私は元々知っているし、おばあちゃんの頃と結びつけているかもだけど、確かに何処かでいたような顔よね。」
「俺は由衣にめちゃくちゃ似ていると思う。あの猫目とか、鼻筋とか。」
「言われてみればそうかもしれない。」
確かに由衣さんととてもアイおばあちゃんは似ていた。
由衣さんはあそこまで美人ではないが、なかなかの美人であり、ハイブランド、服装、髪型、どれをとっても自己自信の塊のような人だ。
だからあの日も親切にされ、とても戸惑ってしまった。
由衣さんは自分から人と関わろうとするより先に人が関わりたいと思わせる魅力のある人だ。
だから自分に興味のない人は由衣さんはなんとも関わろうとしない人だと思っていた。
「でも、アイおばあちゃんはたまに娘と孫の話しをしていたけど、私と同い年の子どもを見かけたことなんて1度も無かったわよ。」
「そうか。」
道は目線をそらした。
「夢乃、大丈夫かい?」
とノアが声をかけてくれた。しかし私は思案しすぎて気づかなかったため、大きな声で驚いてしまった。
というかいつの間にこちらに来ていたのだろう。
「ノア!びっくりした。」
「すまない、ぼーとしているようだったから、気になってしまってね。疲れたかい?私が運んであげようか?」
「ふふ、ノアは優しいね。でも大丈夫よ。ただ考え事をしていただけなの。」
「そうか。でも何時でも疲れたなら言ってくれていいのだよ。」
「でももう鼻の先にあるわよ。ありがとう。」
ノアは優しい。しかし今はそれが辛い。だから甘えることは難しい。
そもそも一応20歳になったのに、ここまで子ども扱いされたら、淑女のプライドが傷ついてしまう。
「夢乃のノアは夢乃の前ではそういう感じなのね。」とアイおばあちゃんが言うと、
「そうだね。うちのノアより男らしくてかっこいいね。」と幸男が相槌を打つ。
「何言っているの!うちのノアだってかっこいいじゃない!」と強めにアイおばあちゃんが言うと、幸男はニコニコとしながら
「どちらかというと優しく、丁寧で豊かさがあるだろ?」
と反論する。
美人の怒りは少し怖いが、この旦那さんは微塵も怖いと思っていないらしい。
「アイおばあちゃん、ここは全部アイおばあちゃんが管理しているの?」
「管理と言い方は正しくないわね。ここは科学が存在しない場所なのだから。ただ世話をしているだけよ。」
「この広大な土地を!?」
「ええ。でも科学ではなくて、魔法をちょびっとだけ使っているから、そんなでもないわ。それにずっとこういう生活をしてみたかったの。床の間で伏せているときから。」
アイおばあちゃんは確かにそういう庭をしていた。しかし、アイおばあちゃんが寝たきりになってからは何も出来ていなかったため、荒廃していた。
「ずっと窓を眺めながら、また庭を作りたいと思っていたのよね。今になれば昔の話だけど。」
アイおばあちゃんの悲しそうな表情に、だからずっと窓の外を眺めていたのかと実感し、とても悲しく思えた。
「アイの庭はね、僕と結婚する条件の1つであってね。全く可愛らしい人だな。」
幸男さんは何故か誇らしげに言った。
「さあ着きました。」
少し前を歩いていた猫がこちらに顔を向け言う。
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